断片・めざし
祖父のことですか。勘弁してくださいよ。もう辟易してるんですよ。
ええ、祖父の実家は津峨森家です。十八でそちらの家を出て曾祖父の養子になり、大学を出てから祖母と結婚しました。祖母は曾祖父の実子ですから、結局、婿養子ですね。そんなこと、関係ないと思いますけど。
実家のひとたちと交流はしていました。『若いものがいい加減だけん、わしが意見してちゃんとさせんといけん』とよく言っていました。
でも、私たちは行ったことはなかったですよ、何でしたっけ、たりごー? 祖母も母も連れて行かれたことはないって。里帰りはいつも、ひとりでしていたみたいです。
理由は知らんですね。田舎だから面倒だからって言ってましたかね。忘れました。大層なことは言ってなかったと思います。
事件の時はびっくりしましたよ。親戚やいうことはすぐわかりました。祖父の年賀状、私が代筆していましたから。
当時、祖父は入院していましたんですよ、肝臓が悪くてね。ですけどテレビでニュースを見て、何があったか調べろと言われて。勤めの後で、雑誌を買って病院に差し入れさせられたりしました。
葬式も行きましたよ。たりごーやなくて、別の地区のお寺でしたね。顕二さんね、母のいとこの、そのひとが世話人みたいになってて、祖父の様子をいろいろ聞かれました。
何か変わったことがあったら教えてくれって言われて、連絡先をもらいましたよ。
はとこたちとは、お兄さんは喪主で妹さんは赤ちゃんがいて、忙しそうでしたけん、挨拶くらいしかしなかったです。
顕二さんからは何度か連絡があって、はとこが殺されたときも。
親戚やいうても、はとこですしねえ。遠縁ですし。それまで付き合いもありませんでしたけん、葬式は行っても迷惑かなと思いましたけど、祖父が行け、行けってうるさくて。
行きましたけど。お焼香して、とっとと帰りました。知り合いもおらんですし、テレビやら来ちょって落ち着かなかったです。
祖父は最初は興奮ぎみで、私らも心配したんですけれど。鮫谷さん、はとこの、妹さんのほうの、旦那さん。そのひとが殺されたころから黙って考え込むようになって。
おかしなことを言い出したのはそのあたりからでしたね。
めざしを買ってこいって言うんです。魚。
それでスーパーで買って持って行ったら、そんなんやないって怒られて。
昔ながらの、目のとこに何やら通してまとめてある、そういうのじゃないとダメなんだって言うんです。あと、小さいって。そんな小さいのじゃないんだって、すごい勢いで。
私が買っていったものは、酒のつまみ用で、小さいのが何匹か小袋に入ってたやつなんです。そんなんめざしやないって言われても、ちゃんと外袋に『めざし』って書いてあったんですよ。
それと、かご。これも昔ながらの、竹で作ったのが要るんだってうるさくて。
いろいろ調べて、遠方でしたけど通販で取り扱っているところを見つけて注文しました。大変だったです。今みたいに、何でもネットで買えるわけじゃありませんでしたし。
めざしはね、祖父といろいろ話して、『いわしの丸干し』って売られていたものを結局買って持って行きましたよ。祖父は『これや、これがめざしや』って言うんですけど、店ではめざしっていって置いてなかったんですよ。
店のひとにそんな話をしたら、『ああー、これもめざしですよ』って言われましたけど、だったらそう書いて売ってくれればいいのにって思いましたね。もう何が何やらわからなくて、苦労しましたよ。
かごがやっと届いて、めざしと一緒に持って行ったのが、顕二さんが亡くなったニュースがテレビで放送された翌日でした。
実家のひとたちがほとんど殺されてしまって祖父は気落ちしていましたが、
『これでやっと何とかできる』
とも言っていました。
はあ、ボケてきたかなと思ったですよ。
だって、めざしですよ?
そんなもんの箱、大事そうに抱えてそんなこと言われてもねえ。
高かったですけどね。何や、純国産の天然物だの、昔ながらの製法だの、添加物不使用だのって。高級品。めざしですけどね。
だから、本当に何かするつもりなんて思いもしなかったです。
めざし抱えてねえ、まさかあんなことを……。




