手記・2
(四度坂顕二氏の手記・続き)
午後、近所のものらが様子を見に来る。子供のころの顔見知りがいた。互いに年を取ったものだと苦笑しあう。兄夫婦についての悔やみを言われ、家や土地はどうするのかと聞かれた。まだわからんと答えておく。
法律でいけば揚羽が相続することになるのだろう。しかしあの様子では、手続きが出来るようになるにも時間が要りそうだ。
だが津峨森の家と土地を継ぐということは、その血が守ってきたものを一緒に引き継ぐということだ。ただ法律のままに相続すればいい、というわけではない。
『皆、心配しちょりますけん』
案の定、そう言われた。
『この場所には、あんたらモリが必要ですけんね』
わかっちょる、と言うしかない。
とにかく事態が収められるまでは自分がここに住む、その後のことは揚羽と相談して決めることになるが、務めを放り出すつもりはないので安心してほしい。そう伝えた。
それで彼らはいったん帰ったが、本心から納得したわけではあるまい。清明を家から出したことに、郷中でも反対はあったと聞く。
兄はいつもの『平成にもなって』という論法で押し切り、あとは何を言われても耳を貸さなかったようだが、あげくの果てが落雷と殺人事件だ。心配するなというのが無理だろう。
だが彼らの不安を払拭するだけの材料を、私はまだ持っていない。
急がなければ。書斎を調べるのだ。ここは私の生まれ育った家であるが、それ以上に向こうの本拠地だ。
急がなければ、追いつかれる。
両親や兄一家、義弟の死にざまを思い出し、少し震えた。
急がなければ。
揚羽もそうだが、私も既に『ツガモリ』ではない。津峨森の名を喪った人間に、務めを継ぐことが可能なのか、本当のところはわからない。わからないが、出来るだけのことをやるしかないのだ。




