ちゃんとしないと・4
所縁木徳子さん、結婚して處田さんになりましたけど、その徳子さんとは中学校からの友人でした。優しくてきちんとしたいい子でしたよ。
お見合いで結婚した旦那さんが、年が離れていたせいもあったかもしれないですけれど、厳しいかただったみたいで。徳子さんが家を空けるのを好まなかったようなのですね。ですので彼女が結婚してからはあまり会えなくなりました。
お互い子供が生まれてからは、電話で話す時間もなくなりましたし。それでも年賀状や暑中見舞のやりとりだけはずっと続けていたんですよ。
ほら、きれいな字でしょう。何につけてもきちんとすることを心がける人でしたね。私なんか大ざっぱだから、徳子さんが神経質に見えることもあって。
息子さんのこともとても可愛がっていました。不登校になってからは本当に心配していて、どうにかしようとあれこれ世話をしていたようなんですけれど、旦那さんが協力的じゃなかったみたいで。
頭ごなしに息子さんを叱るばかりなので、徳子さんがどんなに頑張っても、旦那さんのその態度で結局息子さんが心を閉ざしてしまうって漏らしたこともありましたね。
ですからね、あの人が息子さんを殺したなんてあり得ないんですよ。大事にしてましたから。とても。
引きこもりになっちゃってからは、外聞が悪いと思ったみたいで息子さんの話はしなくなったけど。
家庭内暴力があったんじゃないかなと思ってました。いえ、徳子さんはそんなこと言いませんでしたよ。でもね、言葉の端々から、何となく。
『ちゃんとしないといけない』
って、いつも言っていました。
いえ、息子さんのことだけじゃなくて。ずっと昔から。口ぐせみたいでしたね。ちょっと神経質だよなあって、だから思っていたんですよ。
あの**県はね、あのひとのお母さんの故郷だったんですよ。本人はね、おじいさんだかひいおじいさんだかの法事のときに、一度行ったきりだって言ってました。
お母さんには久しぶりの里帰りだったので、一緒に半月くらい滞在したそうなんですけれど、つまらなかったって。遊ぶ相手が従兄弟しかいなかったって。二人とも男の子で、遊びって言ってもヘビやカエルを捕まえるようなことばっかりで、面白くなかったって。
『よその子と遊ぶと伯父さんに怒られた』
って言ってましたよ。ええ、変な家だなあと思ったから、よく覚えているんですよ。
その話を思い出しましたのはね、徳子さんの口ぐせの、『ちゃんとしないと』っていうのが、その田舎の伯父さんに教わったことだったんですよ。
中学校では京都に行きましてね、私たち。修学旅行。そういうときに、秘密を教えあったりしますでしょう。それで聞いたんです。
お母さんの家に代々伝わる秘密なのですって。でもそれが、『ちゃんとしないといけない。でないとつけこまれる』って、徳子さんのいつもの口ぐせでしたから、何て言いますか、竜頭蛇尾っていうの? そんな感じがしたんですよ。だから逆に記憶に残っちゃって。
ああ……。
『つけこまれるって、何に?』
とは聞きましたよ。私だったか、他の友達だったか。忘れましたけど。
『それだけは言えない』
って言ったと思います。
『それは言っちゃ駄目なの』
って。
もちろんそんなことではおしゃべり好きの女学生は止まりませんから、だいぶ問い詰めたと思うんですけれど。
それだけは、絶対に話してくれなかったですね。
『話したらどうなるの』
イライラしてきた誰かが、そう聞いたと思います。
そしたら、
『みんな死ぬの』
と徳子さんが言って、その場がシーンとしちゃって。……あ。
それは関係ないのよ。子供のときの話だもの。とにかく徳子さんはちゃんとした人で、口も固くて、ご家族を大事にしていたし、**県のご親族とは疎遠だったの。だから、人殺しなんかするわけがないのよ。
それで終わり。それでいいでしょう。
次回更新分には性暴力を暗示する表現があります。苦手なかたはお気を付けください。
次話を読まなくても、物語全体に大きな影響はありません。




