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第6話

俺を値踏みするような厳しい視線は、その一言で和らいだ。

だからといって、すべての疑いが消えたわけではない。


俺自身、そう思う。


財務大臣の推薦状が一枚あれば、どんな国へも、どんな商団へも行ける大きな機会だ。

だが目の前の青年は、すべての条件を捨てて、小さな領地ひとつをかろうじて抱えるこの場所へ来た。


当然、疑わしい状況だった。

思慮深い者なら、王国が送り込んだ間者だと考えても不思議ではない。


だが、公爵は信じるしかないはずだ。

単に公爵領に人材が足りないからではなく。

彼女を見つめる俺の瞳が、これまで彼女が出会った誰よりも真っ直ぐだと、知っているはずだから。


「では、君の身分は監査官だ」


監査官。

その響きが、ずしりと重くのしかかった。


アカデミーを出たばかりの男に与えるには、あまりにも重い役職。

その気になれば、何にでも口を出せる高位の身分だ。


俺は軽く頭を下げた。


「仰せのままに」


「まずは経済の懸案から、手を付けてもらおう」


予想通りだ。

小さな国が滅びる原因は、たいてい武力の問題ではなく、金の問題だ。

前世で数多くの不振企業の融資相談を受けてきた俺は、それを嫌というほど知っていた。


彼女が差し出したのは、三十枚を超える分厚い書類。

だが、俺はそれを見なかった。


代わりに、自分の右目を指先でとんと叩いてみせた。

書類の上の数字より、この目で確かめる。


その態度に、公爵はふっと笑みをこぼした。


「好きにしろ、少年」


領主室を後にした俺は、扉の前に控えていた女性衛兵に声をかけた。


「公爵領の造幣局は、どこだ?」


俺は女性衛兵の案内に従い、城のさらに奥へと足を踏み入れた。


道すがら目に入ったのは、薬の性能を上げようと改良を重ねる錬金術師たちの姿。

鍛冶場には、打ち上がったばかりの剣と鎧が一列に並べられていた。


『あれが全部、金というわけか』


おそらく、これが今この国の主な売り物なのだろう。

だからこそ、本来なら市場に出てこそ見られるはずの施設が、城の内部で保安と監視を受けながら稼働しているわけだ。


今の俺は監査官の身分。見て回る名分がある。

造幣局の件が片付いたら、この国の行政を仕切る者にも一度会っておくべきだな、と思った。


「すごい方でしょう? 公爵様は」


女性衛兵が、歩きながら俺に話しかけてきた。

道中暇だったこともあり、俺はその言葉に応じた。


「こうなってから、どれくらい経つんだ?」


「たぶん……まだ一年も経っていないと思います。その間に、たくさんのことが変わりました」


それほどの人物だったのか――と、心の中で公爵に感嘆しかけたところで、造幣局の前に着いた。

ここから先は機密区域で自分は入れないと言い、女性衛兵は案内だけ済ませて持ち場へ戻っていった。


俺は中へ入り、公爵領内に流通する硬貨を検めた。

問題があった。


『この公爵領は、銅貨を使っている』


青銅で鋳造されたこの硬貨は、軽くて便利だ。

だが、頭の中の知識に照らせば、大陸のほとんどの国はとうの昔に銀貨の体系へ移行している。


しかも今は、その銀貨自体が危うい立場だというのに。


険しい表情で固まっていた俺の背を、誰かが軽く叩いた。


「えへへ……いらっしゃったんですね?」


茶色の長い三つ編みの若い女が、照れくさそうに、読んでいた本で顔を半分隠した。


「アイノです」


恥ずかしげに差し出された手を軽く握り返し、俺は懸案を切り出した。


「銀貨が、流れ込んできていないか?」


その言葉を聞いた途端、アイノは落ち着かない声で返した。

まるで、悪さがばれた子供のように。


「公爵様が、ご存じだったんですか?」


「いや、まだ知らない。だが、今のお前の反応を見る限り、そこまで深刻な段階ではなさそうだな」


「ですが、この悪い流れが続けば……半年後には、公爵領の中で、誰も銅貨で取引しなくなります」


図らずも、時間制限が課されたわけだ。

考えようによっては、この公国を救い得る黄金の時期に、俺はちょうど間に合ったのかもしれない。


俺は銅貨を手に取った。


『……軽い?』


確かめるように、一年前に鋳造された銅貨に触れてみた。

明らかに、純度が違う。


つまり、今アイノが鋳造している()()()()の銅貨の純度は、半分にも満たないということだ。

その差に、日々取引をしている商人たちが気づかないはずがなかった。


「それで……最近の商人たちは、もっぱらケパル自治領の銅貨を取引に使っているんです」


「……自治領? 公国より格下の国の貨幣を使うほど、公国の貨幣体系は崩れているのか」


俺は大きく落胆したが、すぐに気を取り直した。

俺が諦めれば、この公国が崩れるのだから。


そして、気づいた。


もしかすると。

この国を救う機会が。

あのケパル自治領にあるかもしれない、と!

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