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第17話

商人たちとの話をまとめ、俺は城の内部にある薬品製造所を訪ねた。

やはり、人の姿は見当たらなかった。


差し迫った火は消し止めたが、それが表に出てくるには、もう少し時間がかかりそうだった。

俺はこの成果を、すぐにでも報告できた。だが、問題があった。


『まず、匂いだ』


ゴブリンの革は、独特の匂いを持っている。

それを解決しない限り、商品としての価値を持たせるのは難しかった。


だからこそ、俺は今この場にいるのだ。


本来、人間がよく使う牛革は、活かし方しだいで、いくらでも上等な品になりうる。

ゴブリンの革は、そもそもがモンスターの副産物だ。


仕留める過程で、汗と血が染み込むのは避けられなかった。

その問題を解くには、よく使われる薬品よりも、もう少し嗅覚に特化した試薬が要った。


「ここには、何のご用です?」


人間の声だった。

俺は、先と同じ厄介な状況に陥らずに済んだことを幸いに思いながら、相手を見やった。


「革に塗る試薬はあるか?」


錬金術師はしばし思案すると、一つの薬品を取り出した。

その色は玲瓏として澄み、試薬の量はわずかだった。


俺は、思いのほか少ない量に落胆した。


これでは、品を生産する速さよりも、試薬を塗って処理する作業のほうが、あまりに遅すぎた。


「もっと持ってはいないのか?」


「技術を持つ者たちが、もう勤めに出てこないもので。作るのが難しいのです」


困った。

ならば、商人たちの前で意気揚々と約束したことが、すべて水の泡になってしまう!


錬金術師は頭を掻きながら、代案を出した。


「革の匂いを消せないのなら、革も薬品のように、配合してしまえばよいのでは?」


妙案だった。

あらゆる品は、それ単体で完全に使えるものなど、ほとんどない。


今、錬金術師が作る試薬には限りがある。ならば、ゴブリンの革と、別の質の良い革とを混ぜて使えば、もとより見込んでいた品よりも、さらに良い品が生まれることになる。

上等になるのは、おまけだ。


俺は、この良い手立てを授けてくれた錬金術師に、名を尋ねた。


「シリアンです。レイン監査官様」


おそらく。よく顔を合わせることになりそうな、そんな気がした。






革の件を片付けて外へ出ると、外の陽射しが、心地よく俺を迎えた。


シリアンは全力で再び仲間を集め、ポーションの製造をすると俺に約束し、あとはアイノがどれだけ銀貨を集めてくるかにかかっていた。


早朝が過ぎ、昼になると、一人、また一人と、人々が城の内へ戻り始めた。

おそらく明け方の報せが広まったのか、それとも、それでも全力で勤めを果たそうとする公国の市民たちの根性なのか、それは俺にもよくわからなかった。


昼を少し過ぎた、早い午後。

アイノが、大きな袋を抱えて戻ってきた。


「レイン様! 思っていたより、たくさんの銀貨を手に入れられました」


彼女は、取引がうまく運んだおかげで、幸い亜空間の備わった品は守れたと、俺に話してくれた。


アイノが工面してきた額は、金貨に換算して五枚ぶん。

アカドは、こんな事態になると見越して、俺に多めの金額を持たせてくれたのだろうか?


ともあれ、多くの金を確保できた。

こういう時、北へ発ったドウェルに託した金貨が惜しい、という気もしたが。


投資は投資だ。

それに、あれは俺個人の資金だ。


無論、俺なりに全力を尽くして公国の経済を立て直すつもりだが、わざわざ自分の非常用の蓄えまで注ぎ込んで救う義務は、なかった。


今、必要なのは、ひとまず状況をしのぐことだ。


途方もない量の銅貨を鋳造して、流れを変えるのではない。

少量の銅貨を打ち、金の価値を、今より一定に保つ。

その後で、新しい価値の体系へと組み込まれること。これが、俺たちの狙いだった。


『その次は?』


今は、そこまで考える必要はないだろう。

ひとまず、経済が再び息を吹き返すことが肝心だからだ。


俺は銀貨を手に、造幣局の奥へと入っていった。

そこには、鋳造のできる場所があった。


「比率は、どれくらいで……お考えですか?」


アイノが、もの問いたげな顔で尋ねた。

というのも、並の比率で混ぜたところで、公国の銅貨に再生の見込みはなかったからだ。


俺は、アカドがここへ来る前、自治領の銅貨の純度について教えてくれたことを思い出した。


『俺が見込んでいたのは、せいぜい百五十ほどだった。だが、アカドが教えてくれた実際の純度は、二百五十だったな』


すでに、価値を守ろうとすれば、それほどまでに注ぎ込まねばならない状況だった。

かといって、今から銀貨を大量に投じれば、赤字を抱える羽目になる。


「本来なら、銀貨を鋳造する時に使う配合量は、一割から二割五分ほどだ。だが、俺たちは半分でいく」


俺は、そこらに転がっている公国の銅貨を、槌で打ち下ろした。


カーン――!


銀貨でもなく、銅貨でもない。

公国だけの、新しい金が、今、生まれ落ちようとしていた!


のちに歴史家たちは、この時期をこう評した。

()()()()()だと。

文章がうまく書けず、夏の暑さもあって、1日ほどお休みをいただいておりました。お待ちいただいた皆様、申し訳ありません!

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