第16話
俺は余裕のあるふりをして、人々の前で笑みを浮かべてみせたが、隠しきれない緊張が指先を伝って這い上がってきた。
この商人たちを鎮められなければ、実のところ、今日をもって公国の経済は終わったも同然だった。
彼らは俺がここへ来るよりずっと前から、公国に忠誠を尽くしてきた信頼に足る顧客たちだ。
生半可な言葉で宥めたところで、たやすく論破されるばかりか、彼らは俺より大陸の経済に通じていた。
つまり、相手取るのが難しく、厄介な利益集団ということだ。
穏当なやり方で宥めたところで、彼らの怒りはそう簡単には解けないだろう。
ならば――大きな衝撃を与え、易しく甘い言葉で現実を悟らせること!
それが肝だった。
俺は新しい方式で鋳造された銅貨を、彼らに配って回った。
流行に疎い老いた商人たちは、これは何だと問い質すように尋ねようとしたが、公国の若い商人たちは一目で見抜き、俺に言った。
「これは?」
「銀貨を混ぜたのか」
正解だった。
ここからがショータイムだ!
俺は軽く喉をほぐし、彼らの前へ進み出て、語り始めた。
「今、公国の銅貨がひどく危うい状況にあることは、皆さんご存じでしょう。だからこそ、この場に集まられたわけで」
「……」
すでに知っている事実を、もう一度口にした。
ここでは、わざわざ技巧など要らなかった。
「そして今、公国の銅貨は、際限なく公国の造幣局へと回収されています。つまり! 公国の銅貨は我々だけが使える、またとない状況が生まれたということです」
「これを狙ったのですか? レイン監査官」
いや。俺にそんな芸当はない。
だが、ここでわざわざ、そう胸の内を明かす必要もないだろう。
「幸運の女神が、私に味方したのです」
「では、これからの公国の経済方針はどうなるのです? このまま銅貨に銀貨が混ざれば、金の価値は以前とは違う評価を受けることになるはずですが」
鋭い問いだった。
先ほどから、銅貨に銀貨が混ぜられたことを一目で見抜き、俺にこんな問いまで投げてきた、あの眼鏡をかけた緑髪の若者の名を、あとで必ず調べておこうと胸の内に刻んだうえで、その問いに答えた。
「これは、公国の経済を順を追って安定させる過程です。そして、銅貨を持つ者は、一定の比率に従って限度を定め、新しい銅貨へと交換――」
「公国所属、カルト商団です」
不意に俺の言葉を遮り、鋭く問いを突きつけてきた、一人の中年の男がいた。
「我々は、公国の銅貨を五百万枚持っている。それをすべて交換してもらえるのか? 新銅貨で、だ」
難しい話だった。
だが、理解はできた。
おそらく大半の商団は、そうして数百万、あるいは数千万もの銅貨を、現物で抱えているのだろう。
こういう時にこそ必要なのが、この品だった。
俺は彼らの前で、一つの武器を取り出してみせた。
最初は、よほど大層な品でも出すのかと内心期待していた商人たちは、再び失望に沈んだ。
「たかが短剣か?」
「いや。柄が違う」
商人たちに、品を手に取らせた。
確かに、ありふれた既製品とは違う手触りと仕上げに、誰もがその品質に感嘆した。
短剣そのものは並の品も同然だったが、柄そのものが柔らかく、手に吸いつくように馴染むさまが、並の品とは違う感触をもたらした。
長い年月、いくつもの国を渡り歩いて武器を売ってきた老商人は、一度触れただけで、たちどころに品の真価を見抜いた。
「これほどの品なら……ゆうに銀貨一枚の値は付くぞ!」
俺は彼らを見渡し、自信を込めて問いかけた。
「この革、何だかお分かりになりますか?」
「匂いに覚えがあるな。まさか、ゴブリンの革か?」
隠す必要はなかった。
ここは品を吟味する場であって、欺いて売りつける場ではないのだから。
「その通りです。ですが匂いは、錬金術師たちが作った特殊なポーションで消せます」
「ポーション代さえ差し引けば、薄利多売ができるという話に聞こえるな」
商人だけあって、品の価値をたやすく見抜いた。
その目に、ささやかな欲が宿った。
ほどなく、商人たちは理解した。
なぜレインという男が、自分たちにこの品を見せたのかを。
「まさか。我々が抱えた銅貨の回収を、これでやろうというのか」
「私は、公国の市民すべてのための道を探しているだけです」
彼らにはそう言ったが、実のところ、それは当たっていた。
新しい貨幣が出回る時点で、各商団が抱えている金は、紙屑も同然の身の上。
ここで俺は、彼らが抜け出せる逃げ道を開いてやった。
誰もが満足できる条件のもとで。
「……わかった」
「革はいつ来るんだ? 明日には来るのか? こっちは少々急ぐんでな!」
もはや商人たちの視線は、間もなく変わる金よりも、新しい商品へと移っていた。
そんな人々の間から、悠然と外へ歩み出てきた一人の人物がいた!
「なかなか。よく危機を凌ぎましたね、レインさん。ですが、次はこう易々とはいきませんよ」
先ほどから鋭く俺を牽制していた緑髪の眼鏡の青年は、にやりと笑うと、しなやかな身のこなしで、空高くかき消えていった。




