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第15話

俺はオークの細工師に、いくつかの品を依頼した。

彼は以前、革の品を数多く手がけてきたと言って、自信をのぞかせた。


「ゴブリンの革で作ってくれ、とね。あんた、妙な好みをしているな」


それを選んだのには、理由があった。


まず、どこでも容易に手に入るうえ、捨てられやすい品だった。

しかも、これといった使い道もない、屑も同然の革だった。


上等な革で品を作ったところで、材料費がかさむだけだ。

何であれ、商人は利を量らねばならない。


あとは、それが商品としての価値を持つか否か――それはオークの細工師の腕にかかっていた。


思い描いていた臨時の手立ての一つを片付けると、俺は再び造幣局へ戻った。

アイノは銀貨を買い集めに発ったのか、ここには誰一人残っていなかった。


俺はあらかじめ考えていた比率で、新しい方式の公国の銅貨をさらに鋳造したあと、外へ出て街を歩いた。


確かに、空気が変わっていた。

人々の顔から笑みが消え、家々からは溜め息が漏れていた。


「うちの公国は、どうなっちまうんだろうね……」


「しっ! 誰かに聞かれるよ!」


ありふれた夫婦の会話が、ここまで進むほどなら、公国の市民の暮らし向きがよほど悪いということだ。つまり、銅貨の問題を解決し、彼らのための働き口の問題までもが、差し迫った課題だということだった。


これといった方法は、浮かばなかった。


何より、俺の職責は限られており、まだ公国全体をどうこうできるほどの認知も得ていない以上、今の俺にできることから手をつけるのが先だった。


俺は結局、無数に湧き上がる考えの中で、決めた。


公爵に会うことを。


俺は踵を返し、公爵のいる場所へと向かった。


「これが、新しい公国の銅貨か?」


公爵は指で硬貨をつまみ、あちこちと検めた。

重さと使い勝手を確かめようとする態度だった。


「どうあれ、今の状態の銅貨を出回らせるのは、無理がありますので……」


「そうか」


公爵は淡々と、俺の眼差しを受け流した。

理由もまた、問わなかった。すでにその事実を知っているとでもいうように。


俺も話しながら、どこか妙だと感じた。


もし公爵がこの事実を知らなかったのなら、こうもたやすく流せる話ではなかった。

ならば、乏しい情報から俺が推し量れるのは――あの人は、あの人なりに最善を尽くしていたということ。そして、俺を信じて、この賭けに乗ったということだった。


「自治領での件は、うまく運んだか?」


「え?」


「お前の、商団の話だ」


そこまで知っていたというのか!

無理もない。俺が何をしているのか、公爵の立場でも気がかりだったはずだ。


当然、情報屋の幾人かは張りつけておいただろう。


だが、咎め立てがないということは。

つまるところ、その商団が公国の所属として動き、自らに利をもたらすと、見抜いているということだろう。


『恐ろしい人だ』


思いのほか、心計の深い人だった。

己の望むものをすべては明かさず、肝心な折にだけそれとなく口にすることで、相手が無視できぬよう仕向ける。これは前世でも、優れた経営者だけが備えていた類の技術だった。


『一本、取られたな』


今は、俺の情報が漏れた経緯を問い質す状況ではなかった。

どうあれ、俺は公国の所属であり、俺の上司は公爵だ。


俺が何をしているのかは、当然、彼女が知っておくべき務めがある。

だが、まだゲートの中での取引には、気づいていないようだった。


『ゲートは秘境にして魔境と呼ばれる場所だ。そう易々と情報屋を送り込むのは難しかっただろう』


あるいは彼女は、ゲートに対するトラウマを抱えているのかもしれない。

三つもあった公国のゲートが、今や一つの稼働すら危ういありさまだ。当然、ゲートにまつわるあれこれを、忌避しているだろう。


『その隙を、突く!』


俺は公爵に、いくつかの事項をさらに報告したあと、深々と頭を下げて退こうとした。

そのとき、彼女が澄んだ声で、遠く立つ俺へと言葉を放った。


「もしこの問題が解決すれば、()()()()()が与えられる。期待していい。レイン監査官」


数時間後。

オークの細工師が作った品が、届いた。

本来は大量に注文していたが、今のところはこれが最善だと、手紙に記されていた。


俺は会心の笑みを浮かべ、夜明けが来るまでを待った。


そして、造幣局の中にある時計が、刻を告げると。

俺は品々を抱え、城の内部にある庭園へと向かった。


そこには、公国の内でそれなりに力を持つという商人たちが、集まっていた。


「いらっしゃいましたね!」


「レイン監査官様!」


すでに俺についての基本的な情報は掴んでいるのか、幾人かの若い商人が、知った風に声をかけてきた。

そのとき、彼らの中で発言権がありそうな、顎の分厚い商人が、いきなり気色ばんだ。


「それで、いったいどうなさるおつもりで? 公国の銅貨ですよ!」


早くもこの問題を持ち出すあたり、彼らもこれ以上は逃げたくない、という意志の表れだった。

俺は笑みを浮かべたまま、彼らの前へ進み出て、口を開いた。


『ここからが、本番だ』


おそらく、公国の運命は。

今日、この場所から変わる!

いつもは前日に連載分を書いておくのですが、昨日は体調が優れなかったので、今日は早起きして連載分を書きました。遅くなってすみません!

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