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第14話

公国に到着した。

短い旅路だったが、得るものは多かった。


まだ片付いていない問題は残っていたが、今はただ一つの問題に全力を注ぐべき時だった。


ジェリーに幻獣種の女を預け、城の内部へと足を踏み入れた。


造幣局の中に着くと、俺は道具をあれこれ手に取りながら、新しい形の鋳造を試した。

数分も経たぬうちに、俺が着いたという報せを聞いたアイノが、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「レイン監査官様!」


俺を捜していたということは、間違いなく何か問題が起きたという意味だ。

俺は落ち着いて、彼女の言葉に耳を傾けた。


「問題が起きたんだな?」


「はい……私たちの公国が持ちこたえられる時間が、また減ってしまったんです」


アイノは今にも泣き出しそうな顔で、指を一本立てた。


「一週間。私たちの公国は、その時間が過ぎれば。破産……してしまいます」


単に、できるかできないかの問題ではなかった。

数字は思ったより絶望的に縮んでいたが、方法はあった。


「今、市中に出回っている公国の銅貨の数量は?」


「……ありません」


こうなったからには、何か理由があるはずだ。

だが、それを問い質すには、時間が足りなすぎた。


長く見積もって一週間。実際には二、三日のうちに、この公国の運命が決すると見ておくべきだった。


「このことを知っている者は?」


「私とレイン様だけです」


そうだな、アイノの性格上、これを報告する理由はなかっただろう。

それに公爵も、自らの務めをこなすので手一杯だろうしな。


しかし、財政を担う者が、ここまでいなかったのか?

なぜこんな状況になるまで、誰一人として公爵に進言しなかったのだ?


もっともな疑問が湧いたが、そんな感傷に浸るより、体を動かすのが先だった。


「ひとまず、受け取っておけ」


俺はアカドから受け取った巾着を、アイノに手渡した。


「いざという時には、巾着ごと売り払ってもいい。とにかく。銀貨を、できる限り買い集めてくれ」


「え? なぜ。自治領の銅貨ではなく、銀貨を……?」


アイノは今、この状況を、同じ単位である銅貨をばら撒くことで取引の空白を埋めようとするだろうが、それは誤ったやり方だ。


すでに公国の金は、上場廃止に等しい状態。商人たちが、おとなしく銅貨同士の交換に応じるはずがなかった。公国の銅貨を百枚積んでも、自治領の銅貨一枚とすら替えはしないだろう。


ならば、新しい方法で攻めるしかなかった。


「それから、不満を抱えている地元の商人たちを、明日の早朝に別で集めてくれないか? 俺が話したいことがある、と伝えながらな」


「ですが! 彼らは、ものすごく怒っている状態だと思いますよ? 大丈夫……なんですか?」


俺でも、そうだろう。

さあ、リミットはまた減った。

残された時間は十二時間!


その間に、勝負を決めねばならなかった。


俺は足を製作所へと向けた。

発つ前には警備兵が物々しく道筋を固めていたが、向かう道中では一人も見かけなかった。しかも、明らかに昼間だというのに、人の姿がなかった。


『噂が広まったか』


賃金を払えないという事実が人々の間に広まると、勤めに出てこなくなったのだ。

それでも、どこか一か所から音が聞こえてきた。


その音は澄んで明瞭で、一定のリズムを刻んでいた。


俺はその音に小さく感嘆しながら、胸の内で呟いた。


『職人の腕だ』


俺が聞いているのに気づいたのか、製作所の奥から、誰かが声をかけてきた。


「ずっと突っ立っているつもりかね?」


声を聞いて、違和感を覚えた。

ほどなく俺は悟った。なぜ彼が一人だけ製作所に残り、今なお仕事を続けているのかを。


彼は、人間種族ではなかった。

()()()だった。


「異種族を見るのは初めてのようだな」


「もともと人間が、オークと親しかったのですか?」


初めて聞く話だった。

本来、人間とオークは、同じ資源を奪い合う存在。


だからこそ中央大陸では、絶え間なく種族戦争が起きていると聞いていた。


オークの細工師は、無造作に己の作品を差し出した。

どれも一つひとつに細やかな心が込められ、一目見ただけで優れた品だとわかった。


「何をお探しかね。宝石? アーティファクト? 装身具?」


俺はその言葉を聞いて、なぜこのオークが今まで生き残ってこられたのかを察した。

彼が身につけた技術そのものが、高級な技術だったからだ。


どういう経緯でこんな能力を得たのかはわからなかったが。

今まで出会った異種族の中では、最も独特だった。


俺は好奇心を込めて尋ねてみた。


「ひょっとして、革は扱えますか?」


「一番たやすいことを聞くものだ」


オークの細工師は肩をすくめると、ある品を一つ投げてよこした。

ざっと見ても、俺がアイノに預けた鞄より高価そうだった。


「それが、サーベルタイガーの革で作った亜空間鞄でね。一つ金貨五枚だ」


「……」


桁違いの腕だった!

だが、なぜ今まで知られていなかったのか?


俺の考えを読んだのか、オークの細工師は自嘲するような声で愚痴をこぼした。


「オークが作った品を使いたい者なんざ、どこにいるかね? 誰もが、人間の作った品を買いたがるのさ」


寂しげな眼差しで工房の天井を見上げたオークは、淡々と言葉を継いだ。


「ここが閉鎖されたら、オレは故郷へ帰ろうかと考えているところでね。まだ多くの同胞が怒りに囚われて戦い続けるあの世界に、もう少し価値のある生き方があると、伝えたいのさ」


すでに心が離れてしまったように見える彼に、俺はしばし、かける言葉を見つけられなかった。

それでも俺は、最後にオークの細工師へ持ちかけた。


「もし、それよりも大切なことがあるとしたら?」


「はっ! オレもいい歳だ。後進を育てることより価値のあることが、いったい何があるというのかね?」


俺はにやりと笑ってみせ、さっき来がけに造幣局で仕上げておいた()()()公国の銅貨を作業台に差し出した。


「それは。世界を驚かせることです」


品を目にした途端、彼は両の目をかっと見開き、分厚い右手で何度か触れてみたあと。

俺がどんな方法で銅貨を鋳造したのかを難なく見抜くと、オークの細工師もまた俺を見て、大きな顎を上機嫌に揺らした。


「こいつは。今まで生きてきて聞いた話の中で、いちばん面白そうな提案だな」


のちに大陸の歴史に名を刻む品々を考案し、作り上げた二人の縁は。

こうして、小さな工房の出会いから始まった!

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