第7話 沈黙は金って知ってる?
「そういえば気になっていたのですが、どなたが第一夫人なのですか?」
本当に────本当に他意はなくて、ふと気になったので聞いてみた一言だったのだけど……それが言ってはならないことだったと今この空気に晒されてようやく気づいた。
あまりに遅すぎる激しい後悔……。
『なんでそう思った事を脊髄反射で口に出すのよアンタは!?』
『アンタも黙っていれば立派な淑女ね。黙っていればね』
『いい?その無駄によく開く口でお父様やベアトリスお姉様の足を引っ張るんじゃないわよ?』
去年、結婚したグロリアお姉ちゃんの言葉が思い出される。
言葉はキツイけど、いつも…お嫁に行く日までずっと僕の事を心配してくれていた。……なのに、ごめんなさい。僕、またやっちゃったよ……。
「……我が家では皆が平等で、いうなれば全員が第一夫人とでも言おうか……まぁこの結婚を主導したのは私だが」
「そうだねぇ。誰が一番だとかはないよ。まぁガゼルの師匠で一番強いのはアタシだけど」
「そうですね。共に居られればそれで充分です。まぁガゼルさんと最初に出会ったのはわたしですが」
「な、なるほど~……」
こ、怖い……。
皆さん、笑顔なのに雰囲気が……まるで開戦前の演習場みたいだ……。
「ははは、確かに戦闘では一歩譲るが、ベッドでは私が最強だろう?」
「それはそうだけど……アタシだってけっこーイイ線いってるでしょ?」
「二人ともはしたないですよ。ま、ガゼルさんとお互いの"初めて"を交わしたのは、わたしですけど?」
「へ、へ~……」
「ちょ……お前らラヴィエスちゃんの前で何言っちゃってんの!?何言っちゃってんのお前ら!?」
ボクハナニモ聞イテナイ……聞イテナイヨ?
両手で耳を塞ぎ、全力で目を背ける。
敵前逃亡も辞さない覚悟が今の僕にはある。
「そうですね。ごめんなさい」
「ああ…悪かった……すまないな、ラヴィエス」
「ごめんねラヴィちゃん。そういう訳だから、後はアタシ達に任せといて」
アルギラさんが、僕へと視線を戻した。
「そうだな。ラヴィエス、先に入浴を済ませて休むといい。昼間に案内した浴室の場所は、ちゃんと覚えているな?」
「はい!大丈夫です!」
つい直立で敬礼しながら答える僕。
「では、ごゆっくり休んでください。今夜はご自分の部屋から出ない事をお勧めしますね」
「そうだね、ラヴィちゃんは早めに休んだ方がいいよ!今晩、この屋敷は戦場と化すのだから!」
「化すな!化すな!アホなコト言ってないで片付けすんぞ!」
ガゼルさんの一声で晩餐会はお開きとなり、僕は言われたとおり浴室へ行くことにする。
「それでは、失礼致します。ありがとうございました」
「ラヴィエスが行ったら誰が一番か夜の決闘を……あぅ」
「いい加減にしないとホントに怒るからな?」
食堂を出る時に、視界の端でアルギラさんが怖い顔のガゼルさんに顔面を鷲掴みされていたような気がしたけど、気のせい気のせい……ナニモ見てないヨ。
……お風呂、行こっかな……。
◇
「……行ったか?」
「ん~大丈夫、行ったよ……しかし驚いたね。まさかアタシ達にあんなことを聞いてくるなんて……先輩の指導が良かったのかな?」
「うるさい。あの娘は根が素直過ぎるんだ。悪気はないんだが……御家族も心配されていたよ」
「でしょうねぇ……。もしかして、その辺りの指導も求められてたりします?」
「どうだろうな……ま、今日の事で少しは学んでくれたと思っておこう」
「そう…ね……ところでガゼル?そろそろ手を離してくれない?地味に痛いんだけど?」
「これも、一つの愛情表現だ。受け入れてくれるよな?」
「違うでしょ!?絶対違うわよね!?はーなーしーてー!!」




