第6話 今日から君も家族だ
あれから、一息つけたかった僕は用意してもらった自分の部屋に戻って、持ってきた荷物を取り出していた。
と言っても、こちらでも買えるだろう物は持たずに、出来るだけ少なくしたからそんなに数はないけど。
備え付けのタンスに持っていた着替えを入れようとして、旅で最低限の洗濯しかしてなかったことを思い出した。少し、臭う気がする……。
……まぁでも、着れなくはないし……次、着終わってからしっかり洗濯したらいいよね。
手早くタンスへ入れてしまう。さ、次々っと……。
ササッと必要な物を取り出して整理してしまう。
物が少ないのですぐに終わって、僕はベッドに倒れこんだ。
藁じゃなくてスプリングのマットにふわふわの羽毛布団……かなりの高級品だ。
特にこのマットは数年前ぐらいに発明されたばかりの物で、数も多くないはず。
壺や絵画ではなく、こういう物にお金を使っているんだと思うと、今日会ったばかりの皆様を思い浮かべたら納得しかなかった。
ベッドに横になったまま、机に置いた日記帳に目を向けた。
お姉ちゃんに貰った羽ペンも一緒にしてある。
「……インク、買いに行かないとな」
荷物の中でこぼれると大変な事になるインクは持ってこなかった。
毎日の事を書き留めておくのも大事な仕事の一つ。今日あった事も書いておきたいけど、インクが無いのではどうしようもないや。
そんな風に、すこしぼんやりしていると瞼が自然と閉じていき……ノックの音でビクリと体を震わせ目を覚ました。
「ラヴィちゃん、夕食が出来たよ~」
「は、はい!今行きます!」
ツバキさんに呼ばれ、ベッドから飛び起きる。
いけないいけない…いつの間にか眠ってしまっていたみたい……。
◇
ツバキさんに連れられ食堂に着くと、かなり豪勢な料理が所狭しと並べられていた。
「お、来たな。こっちこっち」
そう言って、ガゼルさんが手招きしながら一番奥の上座の席を勧めて来る。
え?いや……流石に冗談……だよね?
「えと、そこはガゼルさんの席…ですよね?あ、もしかしたらツバキさんでしたか?」
入口から最も遠い上座、それも壁を背にした席はその家の主人の席だ。
そこに僕みたいなのを……いくらなんでも冗談が過ぎるよ。
「ほら、だから言っただろう。ラヴィエスはしっかりとした教育を受けてるんだから困らせるだけだって」
「だって今日の主役だし、良いと思ったんだよ」
「そういう時は、貴方の右隣の次席に座って頂くものだと言いましたのに」
「リアまで……二人して責めなくてもいいだろ……」
どうやらガゼルさんは本気だったみたいだ。
アルギラさんとウィステリアさんに叱られているのを見ると、なんだか悪いことをしちゃった気もするけど……いやでも、やっぱりちょっとなぁ……。
「堅っ苦しいなぁ。そんなのどうでもいいでしょ?正式な晩餐会でもないのに」
「貴族というのは常に気にするように言われるものなんだ」
「そういう子に、無理に不作法を押し付けてはいけませんよ」
ガゼルさんとツバキさんは、席順にこだわりはないらしい。
……正直に言ってしまえば僕も、席順なんてなんでも良いと思う。
けれど、中には席次を巡って決闘が行われることもあるし、あまりに身に余るようなのは遠慮しておきたいかな……。
「わかったよ。ゴメンなラヴィエスちゃん。困らせるつもりは無かったんだ」
「いえそんな!こちらこそ気を使って頂き、恐縮です!」
「それじゃ、こちらへどうぞ」
ウィステリアさんに案内されて、ガゼルさんの次席へ座る。
……うわ
うわわわ……緊張してきた……。
「それじゃ、新たな家族に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「か、かんぱいっ!」
緊張ですこし遅れちゃった……。
そんな風にガチガチになっていても、ウィステリアさんの料理は美味しかった。
◇
夕食が終わり、一息ついた頃にその爆弾は新人騎士から落とされた。
「そういえば気になっていたのですが、どなたが第一夫人なのですか?」
その一言で和やかだった空気に亀裂が音を立てて走ったかのような錯覚を感じたことだろう。
遠く、ラヴィエスの実家で彼女の肖像画がひとりでに傾いた。




