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第5話 恋は盲目…らしいよ?

 アルギラさんの御屋敷案内は中庭で最後になった。

 そこは美しい庭園───ではなく、一面茶色と緑が点在する立派な畑が広がっていた。

 ……なんで畑?


 畑では、ラフな格好で首にタオルをかけた男の人が鍬を振り、土を耕していた。


 ……使用人はいないんだから、あの人が英雄ガゼル様……だよね?


「ガゼル!連れて来たぞ!」

「ん?おお……来たのか」


 アルギラさんも呼んでいるし、ガゼルさんで間違いなさそう。


 鍬を置いてガゼルさんは僕達のところまで、駆け足でやって来た。


「俺がガゼルだ。こんな格好で…悪いな」


 土で汚れ、汗を流しながら爽やかに笑って名乗ってくれたガゼルさんはどこか男の子っぽさがあって、失礼だけどとても英雄といった貫禄や圧なんかを感じなかった。


「いえ、とんでもありません!ラヴィエスといいます!よろしくお願い致します!」

「ははは、元気いっぱいだな。よろしくお願いします」


 そう言って、ツバキさんと同じように握手をしてくれた。


「まったく……正装とまでは言わないけど、もう少しちゃんとした格好をしといて欲しかったわ」

「悪かったって……ついあと少し、あと少しって続けちまったんだよ」

「朝にちゃんと言ったでしょ?それなのに……」

「だから悪かったって……」


 ……あれ?なんだか…アルギラさんの話し方がいつもと違うような……気のせい…じゃないよね?


「だいたい、なんなのその汗は?砂や土がいいアクセントになって色気が大変なことになってるわよ?ナニ?昼間から誘ってるの??」

「待て。落ち着け。大変なのはお前の意識だ。──ステイステイ!近寄るな!」



 えと……様子のおかしいアルギラさんがガゼルさんに、まるで獲物を追い詰める獣みたいに、にじり寄って──ちょっと待ってほしい。ナニコレ??えと…アルギラ先輩?


「ハァ…ハァ…いえ、ダメよアルギラ。後輩が見ているのよ……でも、それもまたイイかも……」

「マジで落ち着けって!ラヴィエスちゃんがドン引きしてるぞ!!」

「はっ!!?」


 さっきまでガゼルさんのシャツを引っ張っていたアルギラさんは、サッと跳び退いてガゼルさんから距離をとり、いつもの様子でこちらに振り向いた。


「……すまないな。少し取り乱してしまった」

「ア、ハイ……」


 少し──でいいのだろうか?

 気のせいかもしれないけど、アルギラさんの瞳にハートが写っている気がする。


「見苦しいものを見せて、本当に申し訳ない。アルギラの種族的な、ホントたまに起こる発作だから、どうか──どうか!多めに見てやってくれ……ください」

「ア、ハイ……ワカリマシタ」


 伸びてしまったシャツで、頭を下げるガゼルさんに答える僕。

 ……僕も、まだちょっと理解が追いついていないんだけど……。


「それじゃ一通り案内し終わったから、一旦休憩しようか。ラヴィエス、先に食堂で待っていてくれ」

「いやちょっと待て。ラヴィエスちゃんと一緒に──」


 そこまで言って、ガゼルさんは顔面をアルギラさんに鷲掴みされてしまった。


「すぐに私達も行くから、先に向かっておいてくれ。……いいな?」

「ハ、ハイ!先に食堂に向かいます!」


 あまりの迫力に敬礼しながら命令を復唱してしまう。

 そして素早く行動を開始する僕。

 アルギラさんのイメージが致命傷を負う前に、ここを離脱しなければ──!


「ま、待て!待ってくれ!俺を見捨てないで!」

「あらあら人聞きが悪い……安心なさい。まだお昼ですから、すこ〜しエナジードレインするだけだから……」


 僕は中庭を脱し、心なしか重苦しく閉ざされた扉にもう一度敬礼して、食堂へ向かった。


 ……ふぅ……何か、悪い夢を見ていたみたいだ……。



 その後、食堂でひと足先にウィステリアさん達とお茶をしていたところ、少しやつれたガゼルさんと、すごくツヤツヤ上機嫌なアルギラさんがやって来た。

 やつれているガゼルさんが、ウィステリアさんとツバキさん二人に詰められているのを見て、ふとお母さん二人に怒られていたお父さんの姿を思い出していた。

 ……みんな、元気かなぁ。


「真っ昼間からナニをしてるんだお前!」

「アルギラさんも!お客様の前で……!もう少し自重して下さい!」

「なんで俺が……」

「反省します……だが後悔はない」

「後悔もしろ!」

「ガゼルさんも同罪なんです!」

「「ごめんなさい」」


……お茶、おいしー………

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