第4話 モフモフすべすべ
ご飯の準備に戻ったウィステリアさんとは別れ、御屋敷案内に戻る僕達。
移動中に、ふと気になったことを聞いてみた。
「使用人の方々を見かけないですけど、どこかで待機されてるのですか?」
「いや、使用人は雇っていないんだよ。家の事は皆でやっているんだ」
「そうなんですね……」
あ……これも、もしかしたら聞いちゃいけないことだったかも……。
家の財政とかに関わる内容だし……またやっちゃった〜〜!
「そんな顔をしなくていい。別に何か理由があるわけじゃないからな」
「は、はい!」
どうやら顔に出ていたみたいだ。
アルギラさんは、なんでもないふうに答えてくれていたし、本当に理由なんてないんだな。
それにしても、気になったからってなんでもかんでも口に出してしまうのは良くないよね……わかってはいるつもりなんだけどなぁ……。
そんなこと考えていると、廊下の角から下着姿の女性がひょっこり顔を出した。
あくびをしながら、引き締まっているお腹をかきながらこっちに歩いてきた。
「おはよう……ん?だれなの、この子」
「もう昼だぞ。……今日あたりに、私の後任が来る予定だと話していたのを忘れたのか?」
「あー…言ってたねぇ。……騎士にしては随分と若い子だけど……ま、とりあえずよろしくね」
「はい!よろしくお願い致します!」
僕は姿勢を正して返答する。
短く切り揃えられた綺麗な黒髪と、額の角……この方が、"剣聖"ツバキ様──!
一見だらしのない姿にも、もしや何か深い理由が──?
「またそんなだらしのない格好で歩き回って……やめろといつも言っているだろうが!」
「だって楽だし。誰に見られるわけでもないんだからいいじゃない」
……特に無いのかもしれない……。
「知ってそうだけど、アタシはツバキ。一応この屋敷の持ち主だよ〜。はい、握手」
「ラヴィエスです!恐縮であります──あの、なんでしょうか?」
ツバキ様──いや、ツバキさんは、握手しながら僕の頭の上のあたりをじっ…と見つめてくる。
な、なんだろう……寝癖なんかはなかったと思うんだけど……。
「綺麗な羽根だね……。灰色だけど、光を受けると銀色みたい……」
「へ……?」
僕の翼が……綺麗?
え、えええええ?!
「そそそそそそんな!え?!いえ!あの……ありがとうございます!!」
とりあえずお礼を言ってお辞儀して……え?綺麗?僕の翼……灰色の翼が、剣聖様に綺麗って……これは夢?!
「ちょっと触ってみてもいい?」
「え!?あ、はい!どうぞ!」
あ、つい勢いで……!
ホントは恥ずかしいし、その……はしたないと思うんだけど……でも、剣聖様だし……いいよね?
「お、お〜〜〜……モフモフですべすべしてる……」
「ひぅ…その…恐縮ですぅ……」
うう……やっぱり恥ずかしい……。
「んん〜〜……てりゃ!」
恥ずかしくて固まっていたら、ツバキさんは突然僕を持ち上げて、翼の付け根の間に顔を突っ込んできた。
「おおお!両頬がモフモフ!すべすべ~!」
「ひゃあああああああ!!な、なにするんですかぁ!!?!?」
「モフモフすべすべで幸せぇ。なんかいい匂いもする」
かぁっと顔が赤くなるのがわかった。
昨夜、お風呂は入れたけど、少し汗もかいてた気もするし……いや、そうじゃなくて!
「お、下ろしてください!ひゃ…」
「ふっふっふ……アタシから逃れるには十年早いね!」
なんとかツバキさんから離れようとするも、力を入れた先からいなされ、弄ばれてしまう。
これが、達人!
できればこんなことで味わいたくなかったよ!
「いい加減にしないか!」
「あだっ!」
アルギラさんが、ツバキさんの頭を叩いて助けてくれた。
ウィステリアさんの時と違って、結構痛そうな音の叩き方で。
「いったぁ……ちょっとふざけただけなのに……」
「なにがちょっとだ!まったく……ラヴィエス、大丈夫か?」
「は、はい……」
アルギラさんに叩かれたツバキさんは、僕をそっと下ろして解放してくれた。
は……恥ずかしかった………!
「お前はもうあっちへ行け」
「はいはい……ラヴィちゃん、また後でね〜」
手をひらひらと振りながらツバキさんは去っていった……。
なんというか……嵐が去っていったようだ……。
「すまないな。アレが最強と言われる奴の実態だ。剣聖が聞いて呆れてしまうだろ?」
「い、いえ……そんなことは……」
ま、まぁ……正直その、破天荒な人だとは思ったかな……。
……また、抱っこモフモフされたら……どうしよう……。
◇
「おはよ〜リアちゃん」
「おはようございます、ツバキさん。もうお昼ですけど」
「今日はちょっと寝過ぎちゃった」
「もう……二度寝されるなら早朝からの鍛錬は辞めたらどうです?」
「んん〜…習慣だからね〜…。あ、そうそう…例の子と会ってきたよ」
「わたしも会いましたよ。……どう、思いました?」
「いい子だね。ホント、単なるイイ子。裏なんて無い、ね」
「……ですね。わたしも同じです。どういう事なんでしょうか……」
「そうだねぇ……たぶん、下手にしっかりした監視役よりも、何も知らないイイ子でアタシ達の心象を良くする…とかかな。あとは……」
「信用の出来る、けれど万が一の時は切り捨てても構わない……そんな人選でしょうか」
「たぶんね」
「……いやなものですね。腹の探り合いなんて」
「そんな気負わなくても大丈夫だよ。アタシ達も、ガゼルもいるんだから」
「ふふっ…そうですね」




