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第3話 憧れと等身大

 コノエ様の御屋敷に到着した僕は、通された自室へ荷物を置いてすぐ、今度は御屋敷内をアルギラさんに案内してもらうことになった。

 憧れのアルギラさんが目の前にいると思うと、なんだか落ち着かない。そわそわしちゃうな……。

 アルギラさんは、サキュバスであることから謂れのない陰口を叩かれていた。

 僕も実際に会うまでは、『どうして奔放な人が多いサキュバスが騎士をしているんだろう?』と思っていた。

 けれど、訓練で手合わせをして、話して、その立ち振る舞いをこの目で見た時にそんな考えはどこかに消えた。

 こんなにも、騎士らしく騎士である人がいるんだ……と。

 アルギラさんは、陰口にその在り方と実力、そして実績で正面から立ち向かった。

 ……僕も、この灰色の翼のことで陰口を言われているのを知っている……。

 だから、アルギラさんは僕にとって憧れで、目標なんだ。


「ん?どうかしたか?」

「あ、いえ!大丈夫です!」


 いけない…少し見つめすぎてたかも……変な子だと思われたらイヤだし……気をつけよう。


 僕はそう気を引き締め直した。



 御屋敷の一階、厨房へと案内されて、そこで先程少し話したウィステリア様と再会した。

 テキパキと慣れた手つきで料理の準備をされていた。


「いらっしゃいませ。先程ぶりですね」

「はい!…えへへ」


 朗らかな様子で微笑むウィステリアさん。歓迎されて、つい釣られて笑みをこぼしてしまう。

 僕とそんなに歳の差はないはずなのに、すごくお姉さんに感じるなぁ。エプロン姿がすごく様になっている。


「改めて自己紹介を。わたしはウィステリア。どうぞよろしくお願い致します」

「ラヴィエスです!こちらこそ、よろしくお願い致します!」


 そう言ってお互いにお辞儀をした。

 帝国の武家貴族の方だからもっと怖いのかと思っていたけど、すごく優しそう……あ、でも──初めて会った時の僕を警戒していた姿には、確かに凄みがあったや。


「知っていると思うが、彼女は帝国のオドラトゥス家の者だ。仲良くしてくれよ?」

「はい!もちろんです!」

「はい……アルギラさん?何を心配しているんです?」

「いや……」


 ……?なんだろう?少し、アルギラさんの様子が気になる……。


「……そうですね。こういうのは、最初が肝心ですし、確認しておきましょう。ラヴィエスさん……貴女は、ウチの人に妙な理想像など抱いていませんよね?」

「え?それは……どういう意味ですか?」


 あれ?おかしいぞ?

 先程まであんなに優しげだったウィステリア様が、とても恐ろしく感じる……!変わらず微笑んでいるのに……?!

 と、とりあえず包丁は置いて欲しい……!


 助けを求めてアルギラさんの方を見ると、額に手を当てて上を向いておられた。


「さあ……どうなんですか?さあ──さあ!」

「え、えと……その……」


 返答に困っていると、だんだんと圧が強くなって、僕はさらに困ってしまう。

 

 ペシッと、アルギラさんがウィステリア様の頭をハタいた。


「やめないか。私の後輩は、あんな迷惑な連中とは違うから」

「……アルギラさんがそう言うのでしたら、わかりました。信じます」


 あ……あの恐ろしい重圧が消えた……。

 こ、こ、怖かったぁ……。


「すまないな。つい最近──妙な連中がやって来て好き勝手喚き散らす事件があってな……ちょっと神経質になってるんだよ」

「今思い出しても腹立たしい限りです!」

「そんなことがあったんですか……」


 英雄の方達にそんな事をするなんて信じられない思いだけど、そこまで考えてふとさっきの『妙な理想像』という言葉が浮かんだ。

 ……もしかしたら僕が思っている、『英雄の方々』っていうのがいけなかったのかな?

 ……ここは、正直に話そう。


「僕は、皆様を偉大な英雄様達だと思っています。……これが『妙な理想像』ということでしょうか?」


 意を決してそう言った僕を、二人は少し驚いた顔をして見ていた。


 あ──やってしまったかもしれない……!

 お姉ちゃんにもよく『もう少し黙っておく事を覚えなさい』って言われてたんだよね、僕。


 そんな心配をよそに、アルギラさん、ウィステリア様も可笑しそうに笑った。


「なるほど。確かにあんな連中とは違って、とても素直な子ですね」

「少し素直過ぎるがな。ま、そこが良いところなのかもしれない」

「え、えと、その……ご、ごめんなさい!」


 よくわからないけど、とりあえず謝っておこう!


「謝らなくて大丈夫ですよ。でも、そうですね……」

「ラヴィエス。私達を英雄だと思ってくれるのは、嬉しい。だけど、一旦それは置いて欲しい」

「え?…それは、どういうことでしょう?」


 アルギラさんは穏やかに、子供に言い聞かせるよう、僕に話してくれる。


「王国の人伝に聞く英雄の私達じゃなく、今日から共に暮らす"ただの"私達と向き合っていこうって事だ。出来るか?」

「え、と……難しい、です。でも、がんばります!」


 そう答えるも、やっぱり難しいのは変わらない。でも…そうだよね、英雄っていうのも色眼鏡だもんね。


「ふふっ、ほんとに素直なんですね。……ラヴィエスさん、わたしに様付けはいりません。今日から一緒に暮らす仲間なんですから」

「え、えと……それはその……すぐにはちょっと……」

「遠慮はいりませんよ。さあ──さあ!」

「やめなさい」


 ウィステリア様──さんは、またアルギラさんに頭を叩かれていた。





「ところで、妙な連中が喚いていたのってどんなのなんですか?」

「ああ……その、ウィステリアは竜人と人族の混血なんだが……」

「あの人達、わたしに巨大ドラゴンに変化して天に昇るところを見せろとか言ってきたんですよ。……竜人はドラゴンに変化なんて出来ません!!」

「……うわぁ」

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