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第2話 任命と決意

 その日、僕は急な呼び出しを受けてお父さんの──王室特務騎士団の団長室へ来ていた。

 正直に言うと、ちょっと……いや、結構逃げてしまいたい気持ちがあった。

 自分は見習い騎士として二年間がんばって、ようやく騎士として本採用になったばかりの新人。

 それなのにいきなり、特務騎士の団長に呼ばれる理由がわからなかった。

 お父さんは優しいけど、騎士としては厳格な人だ。

 僕を特別扱いして呼ぶなんてするとは思えない。


 ……本当に、どうして呼ばれたんだろう?


 扉の前に立っていても、なんにもならない。

 意を決してノックをしようとして、『ふざけないでください!』という声が中から聞こえた。


 これは、この声は……お姉ちゃん?


 僕はノックではなく、扉に耳を張り付けて中の会話を盗み聞きしていた。


「あの子はまだ見習い課程が終わったばかりの娘なんですよ?そんな新人を派遣するなんて……私は反対です!」

「これは決定事項だ。覆る事は無い」

「どうして私ではなく義妹なのですか?あの子に行かせるぐらいなら私の方が……」

「あの子が適任だという判断だ。ベアトリス、これ以上は答えられん。察しろ」

「──!……わかりました。失礼いたします」


 あ、マズイ。こっちに来る!

 えとえと……あ、ノックしよう!


 盗み聞きをごまかすためにあわててノックしようとして、開かれた扉にゴンッ!と当ててしまった。

 ……痛い……。


「きゃ──。え?あ、ちょっとラヴィ!なにしてるのよ!」

「いたた……あ、お姉ちゃん」


 えへへと笑ってごまかす僕。


「お姉ちゃんじゃないでしょもう!手は大丈夫なの?!」

「う、うん。だいじょうぶだよ……」

「まったくもう…………ラヴィ、ごめんなさい。頑張るのよ……」


 そう言って、お姉ちゃんは去っていった。

 僕は、お父さんの『入りなさい』という声に促され団長室へ入った。


「急に呼びつけてすまないな」

「う、うん…あ、いえ。大丈夫です」

「ふ……。まぁ、楽にしてくれ」


 そう言われ、すこし足を開いて休めの姿勢を取る。


「お前は、ツバキ・コノエ殿の事は知っているか?」

「え?」

「知っているな?」

「は、はい!」


 予想外の事を聞かれて、返答に詰まってしまった。

 ツバキ・コノエ様

 剣聖にして、この国を襲った反乱軍の討伐で活躍された英雄の一人。

 冒険者としても大きな功績を達成されたと聞いている。つい最近もう一人の救国の英雄、ガゼル様とご結婚されたらしい。

 なんでも、ガゼル様は同時に三人の奥様を娶られたんだとか……。

 何人も妻を持つのは珍しくないけど、同時に三人というのはあまり聞かない。

 やっぱり、英雄って言われる人はすごいんだなぁ……。


「そのコノエ様の下へお前を派遣する事が決まった。今日付けで特務騎士に任命されると同時に、特務派遣騎士ラヴィエスはコノエ殿の臣下として仕えよ」

「……え?あ、あの……」

「また、この任務は無期限として別命あるまで継続されるものとする。……復唱せよ」

「は、はい!別命あるまでコノエ殿の臣下として全力で仕えます!」


 そう言って敬礼するも、頭の中は大混乱だった。

 僕が?新人騎士の僕が英雄様の臣下に??

 え──ええええええええええええええええええええええええええ?!?!???



 その後、詳しい説明を受けた。

 元は先輩のアルギラさんが派遣されていたのだが、その先輩がガゼル様とご結婚されたのを機に退役されてしまったので、代わりの者が必要になったと……。

 それで、どうして僕みたいな未熟者が選ばれたのか謎なんだけど、お父さん……団長いわく『身分の確かな者ですぐに都合のつく者がお前しかいなかったのだ。ベアトリスは既に護衛騎士として役目があるからな』という事情みたいだ。

 でも、それでも僕より優秀な先輩騎士は沢山いると思うんだよなぁ……。

 ……もしかしたら、お父さんが無理をして役目を取ってくれたのかもしれない。なにせ救国の英雄の臣下だ。騎士として、とんでもなく栄誉あることなのは間違いないのだから。

 なら僕は、そんなお父さんと、頑張れと応援してくれたお姉ちゃんに恥じない働きをしてみせるぞ!

 そう決意して、僕は王都を後にして旅立った。

 ……それにしても、相変わらずお姉ちゃんの描く地図は個性的だなぁ。無事に着けるかな、これ……。

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