第10話 任侠ってやつですね?
「まいどありがとうございやした~」
大変な初日を終えた次の日、僕は日記用のインク等の日用品を買いに街へ出かけていた。
午前中はお屋敷の掃除やガゼルさんの畑のお手伝いをして、午後からは自由にしてくれてかまわないと言って頂けたのでこれ幸いとお出かけしたのだ。
……ずっとお屋敷に居ると中々気を抜けないので息抜きも兼ねてるのは内緒。
昨日、お屋敷を探している時にある程度お店や町の区画の位置は頭に入れていた。おかげで思ったより早く買い物は終わり、後は帰るだけ……なんだけど、せっかくだし、もうちょっと街を散策しながらでいいよね。
今いるところは店舗が立ち並ぶいわゆる商店街で、広めの通りでは所狭しと露店が開かれ、客寄せの声がとても賑やかに響いている。
王都に比べれば規模は小さいけれど、とても活気に溢れていて見てると元気が湧いてきそうだ。
キョロキョロと、辺りを見回して歩いていた僕にぶつかるように人族の子供が走って来た。
寸前のところでヒョイと避けると、子供は『え?』なんて声をあげて驚いていた。
ふふん。どんくさそうに見えても僕は騎士課程をクリアした立派な騎士なのでこのぐらい朝飯前なんだよ。
子供は僕を睨んでくるけど、当然迫力は全然なくてむしろ可愛いほうかな。
でもそれより問題は……あの子、僕の財布を盗ろうとしたスリだよね。
踵を返して走り去ろうとしたので地面を蹴って一息で距離を詰めその首根っこを捕まえた。
「なっ──!は、はなせよ!」
「ダメだよ。君、スリでしょ?今、僕にぶつかるフリして財布を盗ろうとしたよね?」
「知らないよ!ぶつかってないし!変なこと言うなよな!」
うーん……まぁ確かに盗られた瞬間に捕まえたのならともかく、避けちゃったからなぁ。
でも、このまま逃がしちゃうとこの子の為にならないと思うんだよね。
正直かなりお粗末だったし、こんな事を続けていたらいつか痛い目にあっちゃうだろうし……。
……とりあえず、お説教して解放するしかないかなぁ。何も盗られてない以上、衛兵に渡すのは違う気もするし。
「おい、そこの姉ちゃん」
「え、あ、はい!」
どうしたものかと悩んでいると、仕立ての良い服を着た、大柄なオークのおじさんが声をかけてきた。
佇まいや、眼帯をした傷だらけの顔が歴戦の猛者のような雰囲気を漂わせている。
「すまねぇな、そのガキはウチの下働きなんだ。躾が足りてねぇのか手癖が悪くてな……迷惑をかけちまって申し訳ねぇ」
そう言っておじさんはペコリと頭を下げてくれる。
「あ、いえ……僕は大丈夫ですけど……。その、失礼ですが貴方は?」
「こいつは失敬。オレはオッズというこの辺の──まぁ……元締めみてぇなもんだ」
「あ──はい。大丈夫ですよ、そういうのも知ってはいるので」
この人、後暗い人達の親分さんですね……。
「ホントにすまねぇな。しっかり躾けておくんで勘弁してやってくれ」
「その…何も盗られてませんし、あんまりキツイ事はしないであげてくださいね」
そう言って子供をオッズさんに引き渡す。
「気を使わせちまったな。ホラ!オメェもしっかり謝んだよ!」
「あだだ!イタイよ、親分さん!」
「いいからホラッ!一緒に謝ってやっから!どうもスンマセンでした!」
「ご、ごめんなさい!」
オッズさんは子供の頭を押さえながら、自分も頭を下げて謝ってくれた。
ちょっと大げさな気もするけど、組織の代表として下の人間と一緒に頭を下げるなんて……普通なら、そんな侮られかねないことを平然と……きっとすごい義の人なんだろうな。
「わかりました、許します。君、親分さんの言うことをきいて反省するんだよ?」
僕がすこし屈んで目線をあわせながらそう言うと、子供は顔を赤らめて目線をそらして『わ、わかった』と答えてくれた。
「それじゃ、僕はこれで」
「ああ…邪魔しちまって悪かったな」
軽く手を振って、僕は子供と親分さんと別れて散策に戻ったのだった。
◇
「は~……焦ったぜ。オメェなんであんな事したんだ?ウチじゃツバキの周りにゃ手ぇだすなって厳命してんだろが」
「ゴメンよ、親分さん……イジーのアニキにやれって言われちゃって……」
「なに?……そういやオメェ、イジーのヤロウにつけたんだったか……わかった。今日からは本部で便所掃除してしばらく反省してろ。イジーの奴にはオレから話を付けておく」
「ええ?便所掃除?許してくれたんじゃないの?」
「バカヤロウ!罰も無しに許すワケねぇだろうが!舐めれるぐれぇしっかりやれよ?半端なことしやがったらホントに舐めさすからな?」
「うええぇぇ……わかったよ……」
(しっかし、イジーのヤロウ何を考えてやがる……?問いただして……答えによっちゃあ、キるしかねぇかもな……)




