討論
わ
翌朝、鈴木と打ち合わせします。
「今夜のライブは内容を変更致します」
「どのように?」
「アンコールのあとで演説します。テーマは貧困撲滅ですわ」
「すぐに原稿を用意なさい」
「ぎょい!」
鈴木は駆け出しました。優秀な男なので安心して任せられます。
1時間後、鈴木はスピーチ原稿を持って来ました。
内容にサッと目を通します。
「上出来ですわ。ありがとうですわ。鈴木」
「お褒めいただき恐悦至極です」
わたくしはウサギ耳カバーのスマホを手にします。
グループラインを開いてお友だちのハイパーリッチーズ(資産数千億円以上)80名に呼びかけました。
「ごきげんよう。今夜の東京ドームライブはぜったい最後まで観てくださいね!サプライズあり♡」
うさぎちゃんが汗をかき正座して手を合わせているスタンプを押します。
全世界配信しているライブなので海外のお友だちも観れますわ。
「OKベイビーちゃん♡」
「いいとも!」
「とても楽しみだよ♩」
投資の神様のショージ・ゾロスさん、石油王のロックブェラーさん、IT長者のアーロン・メスクさんたち、お友だちはみんなOKしてくれました。
「感想は明日の朝にお聞かせくださいね。朝9時からライブ配信します」
わたくしはラインを閉じます。夜のライブに向けてベッドで少し仮眠しました。
夜、超満員の東京ドームライブでアンコールを含めて全ての曲を歌い終わったわたくしは観客のみなさまに笑顔で語りかけます。
「みなさまごきげんよう♩」
「ごきげんよーーー!!!」
みなさまペンライトを振ってくださいます。
「今からちょっぴりまじめなお話をします!聞いてくださいますか?」
両手をグーにしてあごにのせて目を潤ませます。
「聞くー--------!!」
うちのわんちゃんぐらい素直ですわ。
「では、はじめますわ」
わたくしはキリッと顔を引き締めます。
「いま世界では貧困が大問題になっています!屋根のない家に暮らし今日の食事にも困ってる人がいっぱいいます!いまこそ貧乏な人がいない世界を実現すべきですわ」
「いーぞいーぞ!」
「現在世界の富の86%が1%の富裕層に集中していますわ!もうまもなく99%の富を1%の富裕層が手にするでしょう。つまりピラミッド型の超格差社会が到来致します!」
わたくしは手で三角形を作って見せます。
「超格差は固定されお金持ちの子はお金持ちになり貧しい家の子は貧困から抜け出せなくなるでしょう。この不平等を解消するため富裕層は富を人類にわけ与えるべきですわ!」
「そーだそーだ!」
「お金持ちがいい暮らしをするためにはたくさんの貧しい人たちが必要です。お金持ちは彼らを心の中で奴隷と呼んでいます。しかし、低賃金の奴隷は恋愛や結婚をあきらめて子供を作らなくなります!奴隷が奴隷を産まなくなり海外から奴隷を輸入していますが、いずれ破綻するでしょう。それでも、貧しい人たちにお金を分け与えるのが嫌なお金持ちは暴力による恐怖で貧しい人を支配しようとするかもしれません!中世の戦国時代のように!超格差は労働意欲を奪い世界は行き詰まりみんなを不幸にしますわ!」
「それなーーー!」
「追い詰められた貧しい人たちはお金を得るために犯罪に手を染めることもあります!わけ与えることで不幸な犯罪も防げます!わけ愛ましょう!」
わたくしは手でハートを作りました。因幡愛だけにわけ愛ですわ♩
「わけ愛ましょーーー!!」
みなさま真似して手でハートを作ってくださいます。
「ではではご清聴ありがとうございました!」
大成功ですわ。わたくしはドレスの裾をつまんでお辞儀いたしました。
帰りの車で鈴木に大絶賛されます。
「お嬢様、お魂のスピーチお見事でした!すべて宇佐美ミミ様のためですよね?僕は感動で涙が止まりません!」
「どーもどーもですわ」
「世界から貧困がなくなるといいなぁ」
わたくしもそう思います。そのためにはもう一踏ん張りしないといけませんわ。
「鈴木。明日ぜったい負けられないディベートがありますの。帰ったら練習相手になってくださる?」
「もちろんです!」
帰宅したわたくしたちはディベートの練習を開始します。
「ディベートの相手はどちら様でしょう?」
「相手はハイパーリッチーズ80名ですわ」
「なんと!?究極の富裕層のかたがたですか!」
「テーマは富をわけあうべきか否か、になるでしょう。世界お金持ちランキング上位80人の資産合計が世界人口の貧困層約35億人の総資産とほぼ等しいと指摘されていますわ。この80人が富を貧しい人に分け与えれば貧困は解消されます」
「それはそうですが、80対1ではモンスターの大軍に挑むようなものですよ?ボコボコにされますよ?」
わたくしは襲いくるモンスター軍団を想像してごくりと息を飲みます。
「やってみなきゃわかりませんわ!さあ、はじめましょう!」
わたくしは鈴木とディベートを開始しました。
30分後、わたくしは頭を抱えました。
「完敗ですわぁ!」
「もう一度やってみましょう」
「よ〜し、もう一度、やってみましょう」
わたくしは夜を徹してディベートの模擬練習にはげみました。
明け方、何度も敗戦を重ねてようやく一本取りましたわ。
「お見事です!お嬢様。本番もがんばってください!」
「がんばりマウス」
わたくしは手を頭に乗せてネズミの耳を作ります。
仮眠をとって体力を回復します。あまり寝てないけど元気まんまんですわ。
9時になりましたのでパソコンをつけてライブ配信をはじめます。
「みなさま〜!おはようさぎですわ~♩」
両手で頭の上にうさぎ耳を作ります。
皆様の顔は同じサイズの画面で表示されていますわ。
「おはようさぎ!」
「わけ愛したよ!貧しい人のために5000万円寄付した!」
「ボクは1億!」
「わたしは3億!」
「わしは10億じゃ!」
演説した甲斐がありました。
「ありがとうございますわ♩でも・・・ぜんぜん足りませんわッ!」
わたくしの脳内で仮想空間が広がります。
わたくしは国会議事場の演壇に立ち議員席にはハイパーリッチーズ80名がズラリと座ってます。
議長席の近くに立てかけられた国旗はウサギちゃんの顔マークですわ。
わたくしはうさぎの国の総理大臣なのです。
さあ、ディベートのはじまりですわ!
「あなたたちが富の9割を人類に分け与えれば今日にでも貧困は解消されますわッ!」
わたくしの魂の叫びが国会に響き渡りました。
すぐにヤジが飛んできます。
「ワロスワロスww」
「ムリゲーww」
「因幡財閥はどうなのよ?資産の9割を貧しい人のために寄付したの?」
わたくしは忸怩たる思いで叫びます。
「していませんわ!」
「ずこ〜〜〜!」
みんなずっこけます。わたくしは事情を説明します。
「一族の大反対にあってしまったのですわ」
「そりゃそーだ!」
「わたくしの貯金は9割寄付いたしました!ずばり90億!」
「すごっ!」
「やるじゃん!」
「そんなの他人に強要すべきじゃない!」
わたくしの大胆な行動にみなさま動揺しています
己の身を削らない人間が他人に身を削れと言っても従ってくれないでしょう。
それぐらいは子供でもわかっていますわ。
「わたくしたちは寝てても入ってくるお金がたくさんあります。株や不動産による収入です。いっぽう、手に汗してもわずかなお金しか得られない貧しい人たちがいっぱいいます。これでは労働意欲を失ってしまいますわ。生まれが貧しければ子や孫にも貧困の連鎖が繋がってしまいます。不公平を正し、賃金の格差、環境の格差を是正し最低限のセーフティネットを構築し、みんなが豊かに暮らしていける社会を築くことがわたくしたちお金持ちの使命ではありませんか?貧困の放置はいずれわらくしたち勝ち組の首を絞めます。道徳的にもリスク管理のためにも富の再分配はすぐにでも実施すべき政策です!」
お金持ちの友人に1人が腕組みして首を傾げます。
「ほんとにみんなお金に困ってるの?ボクの友達はみんな裕福だよ?」
わたくしは硬く握った右拳を胸にそえました。
「お金持ちのお友だちしかいないからですわ!あなたたちは世間の暮らしがわかってないのです!わたくしもつい最近までわかっていませんでした!でも、貧しい人がいるとわかったからには放っておけません!お金をいっぱい持ってる人ほどこの世界への責任は重いのです!」
だれかがぼそりとつぶやきました。
「正直、オレたちゃいまの暮らしが心地いいんだよ」
「そーそー」
「なぜですの?」
「お金で貧乏人を支配できるからさ」
「支配欲で人は幸せになれませんわ!与えることで人は幸せになれるのです!」
「幸せだよ?」
「毎日、優越感に浸っていられる」
「最低ですわ!」
「最高だよ?」
「心が歪んでいます!」
「貧困撲滅なんて所詮夢物語に過ぎん」
「AIでBIすれば良いのですわ!現代技術で充分、実現可能ですわ!」
「共産主義は危険だ」
「行き過ぎた資本主義も同じくらい危険ですわ!それにわたくしは博愛主義です!」
手でハートマークを作ります。
「きみが慈愛に満ちた人間だってことはわかるよ。けど、ぼくらはそうじゃない。きみのようにはなれないんだ」
「なれますわ!みなさまもマンガは好きですわよね?マンガのヒーローは貧しい人を見捨てません!好きなヒーローを真似るだけですわ!ヒーローで地球をいっぱいにしましょう♩」
「きみの頭はお花畑だよ」
「ドブよりマシですわ!」
「貧乏人には努力が足りない」
「誰もが努力しても成功者になれるわけではありません!才能は神様からみんなのために使いなさいと言われて与えられたものであって富を独占するためではありませんわ!お金持ちが貧しい人を助けないと罰を与えられますよ?」
「どんな?」
「来世はど貧乏に生まれますわ」
「そんなおどしには乗らんよ」
「おどしではありませんわ。神はすべてを見ています」
両手を広げて見せます。
いまみなさまにはわたくしに天使の輪と翼が見えているでしょい。キラキラオーラ全開ですわ。
「神がいるって証明して」
「見るのではなく感じるのです。徳を積めば魂のレベルが上がり神の気配が感じられるようになりますわ。精進なさい」
わたくしはお祈りのポーズを取ります。
アーロン・メスクさんはぽりぽり頬をかきます。
「うさんくさいなぁ」
「真実です!」
わたくしは霊感があるほうなので神の存在を信じていますが、神じゃなく金を信じる物質主義者のみなさまは信じていないかたが多いようですわね。
「世の中は弱肉強食なんだよ」
「下等な遺伝子は滅ぶべきだ」
皆様の顔が悪魔のような顔に変貌しています。
わたくしは悪魔との戦いに挑みます。
「淘汰ではなく共存の道を選ぶべきです!」
「なぜさ?」
「人類は皆兄弟、神の子だからですわ!」
ロック・ブェラーさんは机の上にひじを立てて組んだ手の上に顎を乗せました。
「お金を支配する者が世界を支配する。神は我々だ。我々の子孫のみが神の子だ」
「傲慢すぎます!神はわたくしたちの心の中にいます。みんな神の祝福を受けた神の子なのです!」
ショージ・ゾロスさんは両手を広げて肩をすくめます。
「きみとわたしたちでは根底の価値観が違いすぎる」
他のみなさまも同じ考えなのかわたくしを非難します。
「きみはピュアすぎるんだ!」
「あまちゃんだ!」
「これ以上、貧乏人にほどこしは必要ない!」
「勝ち組の地位は捨てられない!」
「負け組は永遠に底辺をはいずり回ってろ!」
悪魔の1人がドンっ!と強く机を叩きます。
弱者を叩き潰すとでも言わんばかりの感情的な行為ですわ。
慈悲のかけらもない言葉はわたくしの心にグサグサと刺さります。
わたくしは返す言葉を失い呆然といたしました。
「我々がきみの提案を受け入れることは永遠にない」
「世の中なんでも思い通りに行くと思ったら大間違いだぜ」
「そろそろお開きにしよう」
「とても楽しかったわ」
「またな」
「おつカレーライス♩」
みなさま去っていきます。
わたくしはポツンと1人取り残されました。
仮想空間から現実に戻ります。
完全敗北ですわ。ぐすん。




