決起
武道館でのライブを終えたわたくしは執事の鈴木が運転するベンツの後部座席でリラックスしておりました。
「今夜のライブも最高でしたよ♩お嬢様」
「ありがとウサギですわ」
頭に手を乗せてウサギの耳を作ります。
その時、目の前にウサギが飛び出してきました。
正確に言えばウサギのマスクをかぶった女の子ですわ。
こっちを見てびっくりした顔をしてました。
「うわっ!あぶないッ!」
鈴木は急ブレーキを踏みます。
わたくしは衝撃に備えて目を閉じました。
キキーッ!ドンッ!
シートベルトをしていたおかげで無傷ですんだわたくしは外に飛び出します。
「ちょっとあなただいじょうぶですの?」l
わたくしは倒れたウサギの女の子に声をかけました。
鈴木はぼう然と立ち尽くしています。
「すぐに救急車をッ!」
「はいっ!」
我に返った鈴木はスマホを取り出しました。
わたくしは女の子のマスクを外して手を握って差し上げます。
「しっかりなさい!」
「マスク・・・ナイフ・・・かくして・・・」
女の子はわたくしを見つめかすれる声でつぶやきました。マスクとナイフを隠す?
近くにスマホとナイフらしきものが転がっているのが見えました。
わたくしは2つとも拾い上げます。
ナイフはおもちゃですわ。
お札が風に吹かれて飛ばされていくのが見えましたが、拾う気になれません。
わたくしは女の子の手を握り続けました。
女の子は病院で緊急手術を受けます。
「あ~~~っ、なんてことを・・・」
「落ち着きなさい。避けられない事故でしたわ」
手術中のランプが消えました。
「残念ですが息を引き取りました」
お医者さんの言葉に鈴木は膝から崩れ落ちました。
「ああ〜〜っ!」
「鈴木。あなたのせいではありませんわ」
「ううっ、お嬢様・・・」
田中をなぐさめていると、ハンチング帽子を被ったコートのおじさまが警察手帳を見せて来ました。
「ちょっとお二人さんよろしいかな?」
「はい。だいじょうぶですわ」
「事故現場に何か落ちてなかったかい?」
「僕は救急車を呼んでいて周りを見る余裕はありませんでした」
「スマホが落ちていましたわ」
わたくしは画面の割れたスマホを取り出します。
「ほかには?」
「なにも」
おじさまはわたくしの曇りなきまなこをじっと見つめました。
すぐに目を伏せて帽子に手をやり頭を下げます。
「ご協力どうも・・・事件とは無関係か」
おじさまはあごに手をそえてボソリとつぶやきました。
「事件ってなんですの?」
「近くのコンビニで強盗がありましてね。犯人は動物マスクをかぶった子どもたちだったと店員が証言してるんですよ」
「へーっ、物騒ですわね」
わたくしはしらじらしい返事をしました。
おじさまは去っていきます。
わたくしと鈴木は被害者のご自宅に向かいました。
到着したのは信じられないくらいボロボロのアパートですわ。
部屋もすごくせまい。
小さい弟さんが棺にすがりついて号泣していました。
「うわ〜ん、ねーちゃーんッ!」
ミミさんがケンくんに慕われていたのがわかります。わたくしももらい泣きしました。
ご家族の名前は鈴木といっしょに来る前に全員確認済みです。
鈴木は泣いているお母様に土下座しています。
「このたびはまことに申し訳ございませんッ!なんとお詫びしたら良いか・・・僕が死ねば良かったッ!」
「お気になさらないでください。おまわりさんから聞きました。この子の飛び出しが原因ですからあなたに責任はありません」
鈴木は畳にこすりつけた頭を上げようとしません。
大変な状況ですが、そんなことより優先すべきことがあります。
わたくしはそばで寝込んでいる妹さんを見ました。
「この子、はやくお医者さんに見せたほうがいいですわ」
「うちはビンボーなんだッ!そんな金ないやいッ!」
わたくしは落雷を受けました。お金がない?
世の中にはまずしい人がいるという話はきいていましたが、医者にかかれないぐらいまずしいご家庭があるなんて信じられません。
このアパートの部屋もわたくしの家のお手洗いぐらいの広さですわ。
お金持ちの友だちしかいないわたくしはお金に困ってる人なんて本当にいるのかしら?と思っていました。わたくしは宇佐美さん御一家と同じ地球に暮らしながら、まったく別の世界で暮らしていたようですわ。
ミミさん。あなたは妹のハナさんのためにコンビニ強盗に手を染めたのですね。
悲しすぎますわ。ハンカチで涙をぬぐいます。
わたくしは表情を引き締めて立ち上がりました。
左手を腰にあて右手を開いて突き出します。
「お母様ッ!あなたたちご遺族の面倒はすべてわたくしが見て差し上げますわッ!鈴木、いますぐハナさんを病院へッ!」
「ハッ!ただいまッ!」
鈴木は身を起こし、ハナさんを抱きかかえます。
因幡家に代々使える鈴木一族は主人の命令には絶対服従ですわ。
事故を起こさなぬように車を飛ばし大病院の個室に運び込みます。
深夜にもかかわらず因幡財閥かかりつけのお医者様がすっ飛んできます。
「栄養不足から来る風邪ですな。一晩点滴を打てば回復するでしょう」
「よかったですわ。ありがとうございます。先生」
わたくしは深々とお医者様にお辞儀します。
宇佐美家のみなさまはやせていらっしゃる。
貧しい食生活がうかがえますわ。
翌日、ハナさんが全快したのでご家族をうちの大豪邸に引っ越させました。
「今日からわたくしの家に住んでいいですわ。両親には許可を頂いてます」
宇佐美家のみなさまはうちを見て唖然としてます。
わたくしは胸に手をあてます。
「お母様、わたくしをホントの娘だと思ってくださいませ。ケンくんハナちゃん。今日からわたくしをホントのお姉さんだと思いなさい
「愛ちゃん、ありがとう!大好きっ!」
「ありがとう。愛さん」
宇佐美家には快適で安全な暮らしを提供いたしました。
いままで親子で過ごす時間がなかったでしょうから、これからはしっかり親子で過ごして欲しいですわ。
ケンくんとハナちゃんといっしょに遊んであげました。
2人ともおもちゃを買ってもらったことがなかったようで部屋にあふれかえるおもちゃやゲームやぬいぐるみに目を輝かせていました。
鈴木が段ボールに入ったミミさんの遺品を運んできたのでわたくしの部屋に運ばせました。
少ない衣類と目つきの悪いウサギさんが背中に描かれたスカジャンと絵日記と壊れたスマホ。
めちゃくちゃ荷物が少ないですわ。スマホは起動しないので鈴木に修理に出すように命じます。
わたくしは部屋で絵日記を確認します。
10月11日水曜日
かあちゃんのバイトとあたいの新聞配達だけじゃ生活はくるしい。
はやく大きくなってかあちゃんを楽させてやりたいぜ・・・
みんなにいっぱいうまいもん食わせてやるんだ!
せまいアパートの一室でごちそうを囲む家族団らんの絵が描かれています。
10月15日日曜日
ハナが風邪を引いた。長引いてる。しんぱいだ。
はやく治していっぱいあそぼーな!
ブランコしているハナちゃんの絵が描かれています。
10月20日金曜日
流れ星を見た!世界から貧困がなくなりますように!
流れ星に祈るミミさんの絵が描かれています。
わたくしは涙で前が見えなくなりました。
立ち上がり窓の外の三日月を見つめます。
「ミミさん!その願い、わたくしが叶えて差し上げますわッ!」
わたくしの心はかつてなく熱く燃え盛っていました。




