月兎
わたしは第150代内閣総理大臣の山田一郎だ。
世間を騒がす神出鬼没の怪盗団に所属する少年少女を捕まえた、と警警視庁から連絡があった。
しかし、肝心のボスであるウサミが捕まってない。
取り調べしてもメンバーはだれ1人ウサミの素顔を知らない。
「ウサミちゃんは月から降りてきたウサギの化身やで」というふざけた供述をする者までいた。
まったくもって腹立たしい。
こうなった時のためにしっかり対策しておる。
リーダーのくせに自分だけ逃げ切ろうというのか。卑怯者め。そうはさせん。
わたしは記者会見を開く。
「ちまたを騒がせている怪盗キッズ。ついにそのしっぽをつかみました」
記者たちがざわめく。わたしはカメラに向かって指をさす。
「怪盗キッズのボスウサミにつぐッ!子分たちは預かったッ!返して欲しければ今すぐ国立競技場に来いッ!」
ただでは来ないだろうからしっかりとおどしをかける。
「もし来なければ、子分たちの素顔を国民にさらすッ!」
子分たちを見捨てれば、ウサミの名声は地に落ち怪盗キッズは社会悪として厳しく糾弾されるだろう。
「かわいい子分たちが風邪を引く前に来たほうがいいぞ」
わたしは警視庁総監に連絡して留置所に拘束している子供たちに動物マスクをかぶせ縄で縛り護送車で国立競技場に連行するように命じた。
わたしもセンチュリーで国立競技場に向かう。
子供らは寒空の下、グラウンドに放置する。わたしはvipラウンジでぬくぬくだ。
子供らが震えながらボスが助けに来るのを待っているのを横目にコーヒーを飲みながらクッキーをつまむ。
至高の時間だ。
来る時に確認したが国立競技場の周りは野次馬で埋め尽くされている。
ウサミがやってくる姿を一目見たいのだろう。寒い中、ご苦労さん。
警官が飛び込んでくる。
「総理ッ!ウサミが現れましたッ!」
「ぶほーっ!」
コーヒーを吹いてしまう。まさか本当に来るとは!
わたしは立ち上がりドタドタと走ってグラウンドに駆け降りる。
運動不足で肥満気味なので走るのが苦しい。
スタンド席からウサミがジャンプして降りてくる。
スーパーヒーロー着地だ。カッコつけよって。
「約束通り来てやったぜッ!子分どもを返しなッ!」
「ニセモノじゃないだろうな?オオカミ少年の名前を言え」
「キンローだ」
「よし。本物だな。来ただけで返すわけないだろ」
「なら、どうすりゃいいってんだ?」
「カメラの前で全国民に謝罪しろ。もちろんマスクをとってな」
「!?」
ウサミの顔色が変わったように見える。
「そんなのぜったいダメにゃん!」
「子供の人権を守れよッ!」
外野がうるさいのぉ。犯罪者に人権などないわッ!
どうせウサミはクソブスだから怪盗キッズのファンは逃げる。
「すべての罪をきみ1人で背負うんだ。子分たちは無罪方面にしてあげよう」
「いいぜ。あたいの素顔ひとつでみんなが許されるならやすいもんだ」
ウサミは冷や汗をかいているように見えた。ぷくく。焦っておる。
「そんなのだめだよウサミちゃんッ!」
子分たちが悲痛な叫びをあげる。
わたしはテレビクルーを呼んだ。プロデューサーに耳打ちする。
「全世界に中継するんだ」
「もちろんです」
ウサミに恥をかかせてやる。世間を騒がせたお仕置きだ。
怪盗キッズのせいでわたしはマウコミから袋叩きにされた。警察は何をやっているのか?官邸は無策だ!総理は無能だ!とな。わたしに恥をかかせた罪は重い。
社会の厳しさを思い知るがいい。中継の準備が整ったようだ。
全世界が注目する中、ウサミはカメラに向かって謝罪会見をはじめる。
「あたいが怪盗キッズのボスウサミだ」
緊張しているのか大汗をかいているように見えた。いい気味だ。
「世間様を騒がせちまって悪かったね。つつしんで・・・」
ウサミはマスクに手をかけた。ぐふふ。世界中のみんなが落胆するぞ。はやくとれ。
「・・・お詫びいたしますわ」
バサっとマスクが外された。
現れたのは宇宙一の超絶美少女だ。わたしはおもわずマヌケな声をあげてしまう。
「おほ?」
「えっ!?」
子分たちもボスの正体に驚きを隠せない。
美少女の正体は間違いなくトップアイドルの因幡愛ちゃんだ。わたしも大ファンでファンクラブの会員になっている。総理大臣公邸も愛ちゃんグッズであふれかえっていた。
「え〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
地球に絶叫がこだまする。
警備していた警官たちも混乱している。
「因幡愛だッ!」
「なんてこったッ!」
「そんなバカなッ!何かの間違いだッ!」
わたしもそう信じたい。
わたしはおろおろしながら愛ちゃんに問いかける。
「なぜきみがこんなことを?」
「まずしい人を救うためですわ」
「ほかに方法があったはずだよ?」
「なかったですわ」
愛ちゃんは左手を腰にあて右手を広げて突き出す。
「さあ、逮捕なさいッ!」
威風堂々とした態度に目頭がジーンと熱くなる。
わたしは警官の肩にポンっと手を乗せた。
「あとは頼んだ」
「えっ?」
愛ちゃんは手錠をかけられてグラウンドに入ってきたパトカーに乗せられる。
「パトカーはこちらです」
「お足もとにお気をつけて」
愛ちゃんは当然のVIP待遇だ。
もし無礼な態度をとっていたらわたしが頬を引っ叩いていた。
愛ちゃんを見送る子分たちは大粒の涙を流しているように見える。わたしもつられて号泣だ。
「ウサミちゃーーん!」
窓から顔を出した愛ちゃんは子分たちにニコッと笑いかける。
「あなたたちと過ごした日々、悪くなかったですわ」
わたしはセンチュリーでパトカーの後ろを追いかける。
「あいちゃーーーん!!」
「逃げてーーー!!」
「好きだーーー!!」
野次馬たちは愛ちゃん乗るパトカーに向かって叫んでいた。
どれだけ愛ちゃんが愛されているのかわかる出来事だ。
因幡愛の逮捕は世界中を駆け巡りその日のうちに世界中で減刑を望む署名活動がはじまった。




