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Vチューバー始めてみたけどこれって正解ですか?  作者: あやな
大学生編

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17/21

詩子クロニクル2 波乱の幕開け

とある配信者の物語、第2話。FF14で偶然出会った女の子と、次の配信で一緒に遊ぶ約束をした詩子だったが―――

オニキス:白黒の層状の模様のある鉱物。縞(しま)瑪瑙(めのう)と混同されるが、渦状の縞模様があるのは瑪瑙で、平行な縞模様はオニキス。しかし、現在、市場にオニキスとして出回っているのは、黒一色のブラックオニキスと呼ばれる石で、黒く染色した瑪瑙のこと。安物だとガラス。ブラックオニキスは、魔除けの力があるとされ、ローマ時代から染色されていた。現代でもパワーストーンとして人気。染色加工は、天然石の価値を損なうと考える人もいるが、天然石の魅力を引き出す技術として、市場価値を認められている。しかし、中には、インクを浸透させただけの安物もあるので注意が必要である。




「なんじゃ、こりゃあ!?」


月曜日の朝、詩子は、いつものようにスマホを手に取り目覚ましのアラームを止めると、ついでに通知を押した。昨晩公開した、オニキスを掘るだけの動画。それが5,000回近くも再生されていた。


バグったのか?


疑って指で画面を下に送った。ページが更新され、再生数は5,103回になった。


「私、なんかやらかしたか?」


動画を再生してみた。


ファイナルファンタジー14(FF14)というMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)の中でのこと。オニキスを探しているアウラ(爬虫類系の獣人族)の少女アリーと出会った。オニキスは決まった時間にならないと湧かないので、採掘場所へ案内した。採掘が終わった後、次の討滅戦(8人で挑むボス戦)に挑戦できなくて困っていると話した。オニキスのお礼に、アリーが手伝ってくれることになった。


うん。問題ない。


これまでの配信の流れもあるので、その討滅戦を配信したい、予告も兼ねて、今日のことも動画にしたいとお願いしたら、アリーは快く承諾してくれた。過去に配信者が関連した有名な炎上事件があったせいで、FF14のプレイヤーは配信者に対して厳しい目を向けている。詩子が配信者だと言うと、無言でパーティを抜けた人もいた。せっかくのMMORPGなのにソロで遊んでいる詩子にとって、この日は久しぶりの他プレイヤーとの交流だった。それが、たまたま配信にも協力的だったなんて、願ったり叶ったりだ。


「炎上しそうな要素ないんだけどなあ」


なぜ、視聴者数が急激に伸びたのか、心当たりがない。本来なら配信者として喜ぶべき事態だが、詩子は、登録者1,500人程度、再生数は100~200回、同時視聴者数は10人前後の草の根ライバー(配信者)だ。普段が普段なだけに、再生数5,000回は異常事態と言ってよく、喜びよりも心配になってしまう。


「あー!時間!」


時刻は7時半を回り、家を出る時刻を過ぎていた。


「もー!まだ朝ご飯食べてないのに!」


詩子は、慌てて身支度を整え、足早に家を出た。社会人5年目、さすがにパンを咥えて駅まで走るなんてことはしないが、途中、コンビニに寄って、会社に着いたらおにぎりでもモグモグしようなどと思いながら。



お昼休みになり、会社の休憩室でスマホを取り出す時間ももどかしく、詩子は、急いで画面をタップした。


「あー!また増えてる!」


再生数は1万回を超えていた。


バグっているのではない。バズっているのだ。


そんな駄洒落が頭に浮かんだが、詩子に笑う余裕はなかった。心臓がドキドキする。3年間も活動してきて、こんなことは一度もなかった。もちろん、再生数が1でも伸びることを目指して動画を作っているし、うれしいといえばうれしい。しかし、偶発的に撮っただけの、たった20分程度の動画だ。再生数が、こんなに伸びるのは明らかにおかしい。


「よく見たら、待機50人もいるじゃん」


待機というのは、YouTubeの予約ライブ配信のサムネイルに、リスナーが視聴するつもりで待っている状態のことだ。


「ごじゅうにん―――」


詩子は鼻がくっつくほど顔をスマホに近付けた。配信は5日後だ。人気ライバーであっても、5日も前から50人も待機することなんてありえない。再生数といい、明らかに異常事態が起きているのだが、原因がさっぱりわからない。繰り返すようだが、配信者としては、喜ぶべき事態だが、恐怖の方が勝る。


「あ、そうだ!」


詩子は、ぱぱっとスマホを操作した。


「あー!もー!やっぱり!」


昨夜作って、アリーに入ってもらったパーティ募集(事前に一緒に遊ぶ約束をできる公式サイトの機能)に、申請が100人以上届いていた。


「ど、ど、ど、どうしよう!」


こんな事態は予測してなかったので、いわば開きっぱなしになっていたドアに、とんでもない数の人が押しかけている状態だ。詩子は、若干、パニクりながらも、先着順で6人を選び、承認した。これで、残りの人には、「申し込んだパーティ募集は規定人数に達したため締め切られました」的なメッセージが、自動的に送信されたはずだ。


「やばっ!お昼休み、終わっちゃう!」


時計を見ると、12時半を回っていた。休憩時間は13:00までなので、急いでお昼ご飯を食べて自席に戻らなくてはならない。詩子は、慌ててコンビニ袋から弁当を取り出した。


まあ、考えてもしょうがないよね。たまたま、Googleのお勧めに載ったのかもしれないし。


スマホのGoogleアプリには「Discover」という、検索をしなくてもAIが検索履歴を読み取り、ユーザーごとに興味のありそうな記事を表示してくれる機能がある。この機能により、自分が作った物が、お勧め記事に載ることがあり、アクセス数が爆上がりすることがある。どの記事がお勧めに載るのかは人によって違うので、有名人に関する記事など、多くの人が興味をもちそうな記事ほど、バズ(特定の記事が瞬間的に注目を集め、多くの人の間で話題になること)りやすいようだが、たまに、一般人の記事がお勧めに上がることもあるのだ。


鳴かず飛ばずのまま、ライバーとして3年も活動を続けてきた詩子だ。売れたい、有名になりたいという気持ちはあったが、3年のうちに「どうせ、わたしなんか」という気持ちが強くなった。もはや拗らせまくっており、降ってわいた幸運にも、もはや素直に一喜一憂することさえできなくなっていた。


再生数が伸びたのは単なる偶然。


そう「納得」することで、心の平安を保つことにした。詩子は、ささっと昼食を済ませると、スマホの画面をOFFにして、午後の仕事へと戻って行った。




それからは、時間があっという間に過ぎ、気が付けば土曜日20:00。配信開始の時刻を迎えていた。


「ヤバすぎる」


詩子は茫然と呟(つぶや)いた。


待機110,443人。


東京ドームのコンサート開催時の最大収容人数が5万5千人だといえば、この数字のヤバさをわかってもらえるだろうか。


「ありえないんだけど」


ニンダイ(Nintendo Direct:任天堂の公式発表配信)だと100万人以上集まるので、配信の世界ではありえない数字ではない。しかし、詩子は、ベテランの域に差し掛かった配信者とはいえ無名だ。同接10万人超えは、まさにありえない数字だった。


「やるっきゃない!」


何が起きているかはわからないが、配信を待っている人がいるなら、詩子がやることは、ただ一つだ。詩子は、2、3回、両手で頬を強く叩くと、配信開始のボタンを押した。


「みなさん、こんばんは! あかねみこだよ! 今日は見に来てくれてありがとう!」


詩子がマイクに声を吹き込むと、とんでもない速さでチャットが流れた。


読めん―――。


どんなコメントが載ってるかなんて、もはや気にしても仕方ない。読めないのだから。詩子は気を取り直して、いつもどおり進行することにした。


「今日は、メインストーリー最後の討滅戦をやります。もちろん初見未予習です。みんな、よろしくね!」


FF14には、予習という文化があり、難しいコンテンツは、攻略方法を事前に頭に叩き込んでから参加する。そうしないとクリアできないコンテンツがあるから生まれた文化だが、予習することでゲームを楽しめないという一面もある。そこで、初めて、そのコンテンツに挑む場合は、初見未予習で挑むことも多かった。まあ、どちらかというと、一般的なゲームでは、初見未予習が当たり前なのだが―――。


詩子の挨拶の後、「よろしくお願いします」という。声が複数重なり合った。パーティ募集で「VC(ボイスチャット)自由」と伝えてあったが、今回は、全員がVCを使用しているようだ。男女が半々ぐらいだろうか。


声で性別がわかってしまう上に生活音が入り込んで地域が特定されてしまうこともあるので、全員がVCを使用しているのは珍しいことだった。もっとも、最近はボイスチェンジャー(声を変える機能)やノイズキャンセラー(声以外の音声をカットする機能)が優秀なので、事故は起こりにくくなっているが。


詩子とアリーが、それぞれタンク(盾役)を務めた。アリーは、戦闘が得意と言うだけあって、危なげない動きでギミック(プレーヤーを攻撃する仕掛け)を処理していった。詩子の方も、長年、FFをプレイしているので、初見であっても、何となくクセがわかる。被弾しながらも戦闘不能になることなく立ち回る。途中、危うい場面は何度かあったものの、20分ほどでクリアすることができた。


「みなさん、ありがとうございました!おかげで漆黒クリアできました!」


詩子が挨拶すると、参加メンバーからは、「クリアおめでとうございます」「この先も頑張ってくださいね」といった言葉が返ってきた。


「蟻宮さんと、ご一緒できて幸せでした」


参加メンバーの一人が発した言葉が、その場を凍り付かせた。


え?どういうこと?


詩子は、頭の中が真っ白になった。一晩で5,000人もが再生した予告動画。配信が始まるのを今か今かと待機所で待つ10万人もの人。Vチューバーアイドルグループ〝FREESiA(フリージア)〟の元メンバー、蟻宮吉野。全てが頭の中で結び付いた。


「あ、あの、この配信で、そのこと言うのは―――」

「あっ!ごめんなさい!」

アリーが遠慮がちに言うと、さっき発言した参加メンバーが、慌てて謝った。コレボでもない配信中に、配信者以外の名前を口にするのはマナー違反だ。


みんな知ってたんだ。わたしだけが、わかっていなかった。


詩子は、顔面からスーっと血の気が引いていくのを感じた。


「みんな、今日は集まってくれてありがとう。パーティを解散しますね」


参加メンバーの「ありがとうございました」「お疲れ様でした」「この後も頑張ってください」と口々に言う声が耳を通り抜けて行った。詩子がパーティを解散すると、VCも自動的に終了した。一切の音が消え、しんと静まり返ったステージに、詩子は、一人、取り残された。


「リスナーのみんなも、今日は来てくれてありがとう! よかったらチャンネル登録といいねをお願いします! またね~!」


手がルーティン通りに動き、OBS(配信用アプリ)を終了させた。


オレンジ色の蝶が飛んできて、詩子の前で羽を広げてくるりと回った。色とりどりの鱗粉が飛び散った。


詩子が蝶をクリックすると、「Allie Yoshino さんからパーティ申請されました。パーティーに参加しますか?」というメッセージが表示された。詩子は「はい」を押した。


「あかねさん、さっきはごめんなさい」

焦ったような声が飛び込んできた。

「―――アリーさんが謝ることじゃないよ。さっきの人もわざとじゃないと思うし」

詩子は、淡々と言った。沈黙が流れた。


「ねえ」

「―――はい」

「どうして、わたしとパーティ組んだの?」

「―――それは―――わたしも手伝ってもらったから―――お礼にと思って―――」

途切れ途切れの細い声。

「同接10万人って、舞い上がっちゃってさ、バカみたいだよね、わたし」

息を呑む音がした。

「今日は疲れたから落ちる(ログアウトすること)ね」

答えは返ってこなかった。詩子は、PCごと電源を落とした。


詩子は防音室を出ると、ベッドに倒れこんだ。10畳一間のワンルームマンションが広く感じた。


「ほんと、バカみたいじゃん」


たった一人の部屋の中、詩子の声は夜に呑み込まれ、消えて行った。

はい。読んでいただき、ありがとうございました。


え? こんな重苦しいところで終わるなって?


うんうん。わかるよ。わたしもそう思う。でも、続きが、まだできてないんだよね。書けてないっていうより、わたしの頭の中でできてない。続きを読もうと思ったら、わたしが、頑張って書くより他にないんだよなあ。


ということで、頑張って続きを書いていきますので、また、読みに来てくれるとうれしいです!

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