この世で一番強いのは
無事、期末試験に合格した蟻宮は、カフェ・ミストラルで店員を続けることになった。そこへ―――
「ありりん、ご指名だよ」
ある日の日曜日の昼下がり、店長の芦原が店の奥に向かって声を掛けた。
「あ、はーい!」
晴れた空のような色をした、クラシカル・メイドデザインの制服を着た小柄な少女が走り出てきた。
カフェ・ミストラルでは、仕事がない時は、店員も好きに過ごしていいことになっている。客がまばらなこの時間、蟻宮も店員専用の休憩室で、のんびり過ごしていた。制服が伝統的なメイド服だからといって、用事もないのに、フロアに直立不動で立ち、お客様をお出迎えするような時代錯誤とは無縁の店なのである。
「お!おぉぉぉ―――を?」
厨房で、ぐつぐつと煮立つ鍋を前にして、喜んでいるのか、驚いているのか、わからない奇妙な声を上げたのは、笠木瑠璃子だ。在職年数が長めになりがちなカフェ・ミストラルでも古参の部類に数えられる。ぱっと見、高校生のように見える可愛らしい女性だが、実年齢は30代半ばと噂されている。通称ルル。
そのルルが没頭しているのは趣味のスパイスコーヒーづくりだ。カフェ・ミストラルでは、仕事に結びつくものであれば、店にある物を好きに使っていいことになっている。加えて、ルルの鮮やかな青色のメイド服は、仕入れ権限をもつ〝マネージャークラス〟の証だ。つまり、店の運営資金を使って、やりたい放題というわけだ。
ルルは、低血圧と低気圧が天敵らしく、朝と天気の悪い日は滅多に店に出てこない。その代わり、よく晴れた日の午後から夜までは、平日、休日を問わず、店に入り浸っている。
ルルの場合は、仕事?に夢中になるあまり、うっかりすると週40時間の労働時間上限にあっさり達してしまい、陰の店長と呼ばれている全方位AIカメラ〝ユグドラシル・システム〟に、強制退店させてしまうこともよくあった。
そんなルルの淹れるコーヒーを求めて、午後になると、スパイスコーヒー愛好家が、どこからともなく店に集まってくる。〝ユグドラシル・システム〟の生みの親、浦野教授も、その一人だ。なんなら、浦野教授は、今日も店の一角に陣取って、コーヒーカップを片手に、テーブルに積み上げた本を脇目も振らずに読み耽っていた。
ルルに限らず、自分の好きなことをやり続けた店員は、特殊な能力に目覚めるらしく、その店員が作り出す唯一無二のブツを求めて、全国から人が集まってくる。
そんな、カフェ・ミストラルだが、店員は、自分が働く時間も曜日も好きに決められる。店にメニューというものはなく、それぞれの店員が自分が得意としているものだけを提供するので、ある時はカレーショップになり、ある時はラーメン屋になり、ある時はイーネオヤ(トルコの伝統的な編み物)の展示即売&編み物教室になりと、変幻自在の変化を見せていた。
カレーショップに比べれば、ほら!ルルが口元を三日月型に吊り上げ、中世の魔女のように、真っ黒に煮立った鍋を掻き混ぜている光景など、最もカフェらしいといえなくもない?
話が逸れたので元に戻そう。
客に呼ばれた蟻宮が向かったのは、店の奥まったコーナーだった。そこには、5台のPCが設置されていた。
「浪川さん、お待たせ」
蟻宮は、大学生ぐらいの若い女性に話しかけた。
「ありりんさん、お願い!一緒にここに行って!」
浪川と呼ばれた女性は、蟻宮の顔を見るなり、両手を合わせて懇願した。ほら、日本昔話とかに出てくる、頭を下げて、合掌した両手を頭より高く上げる〝神様お願い〟ポーズだ。
「そんな拝まなくても―――」
そう言いながら、蟻宮は浪川のPCモニターを見た。そこには、〝FINAL FANTASY XIV(14)(以下FF14)〟という、去年30周年を迎えた、世界でも屈指の老舗MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)の画面が映し出されていた。
「ああ、〝商客物語〟ね」
蟻宮は、その特徴的な背景を一目見るなり言った。
〝商客物語〟は、2026年に実装されたコンテンツで、1~4人でダンジョンを探索するというものだ。つまり、一人でもクリアできるのだが―――
「わたし一人では、どうしても無理なの。でも、一昔前のコンテンツだから、今さらマッチングなんて無理で―――」
浪川は、申し訳なさそうに、もじもじと言った。
ほとんどのMMORPGと同じく、FF14も複数でダンジョンを探索する場合、同行者を募集するマッチング機能を持っている。しかし、あまり人気がなかったり、実装から時間が経ってしまったりしたコンテンツは、1時間待っても誰ともマッチングしないことがあるのだ。
そして、〝商客物語〟は、人数に合わせて難易度が変わるので、一人でもクリアできるといえばできるのだが、戦闘不能になれば即全滅、ボス戦は最初からやり直しなので、ギミック(攻撃パターンや仕掛け)を覚えるまでは、何度もやり直さなくてはならない。体感で言えば、一人よりも二人の方が、圧倒的に楽なコンテンツだった。
「いいよ。一緒に行けばいいのね?」
蟻宮は、あっさりと承諾した。
カフェ・ミストラルでの蟻宮の特別な仕事は、このFF14というゲームの中で攻略のお手伝いをすることだった。蟻宮は、アイドルVチューバーとして活動していた時に、ゲーム配信のネタとしてFF14を始め、元々、負けず嫌いな性格もあって、一度始めたことだからと徹底的にやり、半年経った今では、運営さえも、どれだけあるか把握していないと言われるほどの膨大なコンテンツを、ほとんどやり尽くすぐらいにのめり込んでいたのだ。
およそ、喫茶店らしかぬ仕事だが、カフェ・ミストラルでは、客にどんなサービスを提供するかは、それぞれの店員が決める。それは、何も、食事や飲み物の提供とは限らない。むしろ、食品は消費期限が短いので、採算が合わず、安定して提供するのは難しい。
店員は、自分の特技を生かしたサービスを提供し、需要があれば指名されて注文が入るし、SNSで拡散されるまでの期間を置いても需要がなければ廃止となる。
また、料金は店員ではなく、客が決める。サービスの提供後にその価値を判断し、値段を付けるのだ。日本人はチップを渡す文化がないので、最初は値段を決められなくて戸惑うことが多いが、その場合は、店員に、どのぐらいが適当なのかを尋ねることもできる。
店員には、注文を断る権利があるので、客が、あまりにも低い値段を付けた場合、次回から完全拒否されることになる。
「それで、目的は?何周したいの?」
「それが―――マジックカーペットなんですけど―――」
蟻宮の質問に浪川は、おずおずと答え、それを聞いて蟻宮は、ぐっと奥歯を嚙み締めた。
マジックカーペットは、低・中・高の3つある難易度の〝中〟をクリアすると手に入る〝コルヴォ真鍮貨〟100枚と交換できるマウント(乗り物)だ。そして、〝中〟に挑むためには、〝低〟の3種類のボスを全て倒さなくてはいけない。〝中〟を1回クリアして得られるコルヴォ真鍮貨は4~48枚。つまり―――
「浪川さん」
「はいぃぃ!」
浪川は、蟻宮の声が急に迫力を増したのを感知して震え上がった。
「あなた、さっきの口ぶりだと、まだ、1回も商客物語をクリアしてないのよね?」
「そのとおりですぅぅっ!」
浪川の声が上擦った。
「浪川さん、何時までここにいるの」
「えと―――えっと―――6時には家に帰らないと―――」
「あと3時間か―――」
蟻宮は時計を見た。
「あのぅ―――」
浪川が恐る恐る、何かを言いかけた。
「浪川さん!」
「ひぃ!」
浪川が悲鳴を上げた。
「世の中には、できることと、できないことがあるの」
浪川は、早送りした首振り人形のように、ぶんぶん首を縦に振った。
「すみません!すみません!わたしみたいなクソ雑魚が、分不相応なお願いをしてすみませんでしたぁっ!」
浪川は色を失って、首をぶんぶん振り続けている。
「商客物語の1周は頑張っても30分。どう考えたって無理だわ」
「そうですよねぇぇ、そんな計算もでき―――」
「だから、明日も来なさい」
「へ?」
浪川の顔から表情というものが全て剥がれ落ちた。
「2日で何とかする」
蟻宮は決意を込めて言い切った。
「浪川さん、絶対に死なせないから」
それは、蟻宮の氷のような貌に、ほんの一差しだけ差し込んだ陽光のような微笑だった。だが、それを間近で見た浪川はひとたまりもない。一気に顔が上気し、酸素不足の金魚のように、口をぱくぱくさせた。
「だ、大丈夫?浪川さん、顔、真っ赤ですよ?」
蟻宮は、浪川にぐっと顔を近づけて呼び掛けたが、それは、逆効果だった。
「ちょ―――まっ―――だ―――じょぶ―――」
浪川は、蟻宮から顔を背けると。息も絶え絶えに答えた。
「ありりん、また、やってるわ」
「あれも無自覚なんだろうなあ」
「浪川が女子でよかったぜ。男子なら即死だな」
「罪つくりですよねえ。顔がいいのも度を過ぎれば業ですよ」
少し離れたテーブルで、蟻宮と浪川のやり取りを見守っていたのは、20歳代ぐらいの若い男女のグループだった。
大柄な4人組の男たちが店に入ってきた。
カフェ・ミストラルには入り口らしきものはない。もともとが、地方銀行と家電量販店をつなぐ連絡通路に、テーブルやカウンターを並べただけの、店とも言えないようなオープンな造りなのだ。
男たちは、テーブルの一つを占領すると、何やら大声で騒ぎ始めた。一段落すると、薄暗い店だ、汚ねえ店だと文句を言い始めた。それでも、誰も注文を取りに来ないので、
「あぁ!?この店は店員がいねえのかよ」
と大声を出した。男の一人が店内をきょろきょろと見回し、椅子に座っている蟻宮を見つけた。
「おい、そこのメイド!おまえ、店員なんだろ?注文取りに来いや!」
怒鳴りつけた。
「ちょっと待ってね、浪川さん。すぐ済ませてくるから」
蟻宮は、怯える浪川ににっこりと笑顔を見せると、立ち上がり、男たちのテーブルに向かった。
「何か御用ですか?」
蟻宮が氷のような目を男たちに向けた。
「御用ですか?じゃねえよ!」
「ここは喫茶店だろ?」
「さっさと水ぐらい持ってこいや」
「来るのが遅えんだよ」
口々に勝手なことを言った。
「注文は専用アプリからどうぞ。それから、おっしゃる通り、ここは喫茶店ですので、静かにしてくださいね。それから、お水は提供していません」
蟻宮が淡々と言った。
「なんだあ、〝お客様〟に向かってその態度は?」
「なめてんのか?」
男たちは、全く聞く耳を持たず、ますますいきり立った。
「待て!こいつ、めちゃ美人やぞ」
「ちょっと幼い感じがまたいいな」
男たちは、蟻宮の顔を見て、目の色を変えた。
「おい!おまえは、ここに座って俺たちの相手をしろ。注文は他の奴が取りに来い」
興奮して早口で言う男たちを、蟻宮は凍り付くような視線で一瞥した。
「おい、おまえら、いい加減しろよ。ここは、そういう店じゃねえんだよ」
先ほど、蟻宮と浪川の様子を見ていた青年が割って入り、後の3人が蟻宮を守るように人垣を作った。
「なんだ、おまえは。邪魔すんじゃねえ」
男は、肩を怒らせながら、威圧感を剝き出しにして青年を押しのけようとした。上背は2m近い。剥き出しの肩や腕には分厚い筋肉が盛り上がっていた。
「ドラちゃん、警察に通報」
蟻宮は、天井の〝ユグドラシル・システム〟に向かって静かに言った。
「蟻宮様、12分37秒前に通報済みです」
男とも女ともとれない柔らかな人工音声が答えた。
その時間だと、〝ユグドラシル・システム〟は、男たちが、まだ、何もしていないうちに、警察への通報を済ませたことになる。
「そう、ありがとう」
AIの予測能力の高さと、それを作った浦野教授に、蟻宮は、内心で舌を巻いた。
蟻宮は、筋肉男に突き飛ばされて、倒れ掛かってきた青年の身体を軽々と受け止めると、重力を感じさせない動きで、ふわりと床に下ろした。
「青木さん、ありがとう。みんなも、怪我するから下がって。わたしがやる」
蟻宮を守るように立ちはだかっていた人垣が割れ、その後ろから蟻宮の小柄な姿が現れた。水色のメイドカチューシャの下で、同じ色の不敵な瞳が光っていた。
「おとなしく言うこと―――」
一人の男が蟻宮に掴みかかった。一瞬で男と蟻宮の位置が入れ替わった。
「いででででで―――」
男が図体に似合わない甲高い悲鳴を上げた。蟻宮は、男の腕を肘で挟み、ひねるように真上に持ち上げた。男は床に顔面を押し付けられ、身動きできなくなった。
「てめえ、何しやが―――」
床に片膝を付き、しゃがみ込んでいた蟻宮に、もう一人の男が、上から飛び掛かった。男の身体は、蟻宮の小さな身体の上を弧を描いて宙を飛び、背中から床に落ちた。そのまま悶絶して、立ち上がれなくなった。
「へっ、やるじゃねえか。だが、俺はそう簡単には、やられんぞ」
男は、右手で蟻宮に殴りかかり、それを蟻宮が避けたのを横目で確認して、後ろ回しに渾身の蹴りを放った。もはや蟻宮が女子であることも忘れ、容赦のない一撃だった。最低である。
蟻宮は、床にねじ伏せていた男の腕を一瞬で放すと、蹴りを放った男に背中を合わせるようにして、同じ方向に体をひねった。傍目には、蟻宮は、目にも止まらぬ速さで、男の膝の裏側を手のひら打った。それだけで男はバランスを崩し、自らの蹴りのエネルギーを乗せて、独楽のように回転しながら床上を滑っていき、壁に激突して動かなくなった。
蟻宮が、回転しながら滑っていく男を目で追った隙を突いて、最後の一人が背後から掴みかかった。蟻宮は、不用意に差し出された男の腕を掴んだまま、くるっと男の背後に回った。
「ぐぉ―――」
男は、短い悲鳴を上げて床に押し倒され、身動きできなくなった。
「ちょっとでも動いたら骨折れますよ」
蟻宮が冷気を感じさせる声で囁いた。
「そのまま動くな」
そこへ警察が10人近く踏み込んできて、床に転がっている男たちを次々と拘束していった。
「ちょっと待てよ!」
最初に蟻宮に床に倒された筋肉男が、脱臼したのか、だらんと腕が垂れ下がった肩を抑えながら抗議の声をあげた。
「なんで一言も話も聞かずに俺たちを拘束するんだ。おかしいだろ!怪我してる俺たちじゃなく、そこで、ぴんぴんしてる狂暴な女を何とかしろ!」
確かに、床に伏したままピクリとも動かなくなっている男たち、痛そうに腕や足をさすっている男たちは満身創痍だ。涼しい顔をして立っている蟻宮は、息切れどころか、衣服さえ乱れていない。タイミング的に、警察が踏み込んできたとき、蟻宮が男の腕をひねり上げたのも見ているはずだ。
「何言ってるんだ、おまえは」
一人の警察官が言った。大嫌いな虫を踏み潰すような目をしていた。他の警察官の動きがピタリと止まった。男たちも含めて、その場にいた全員に、怯えと緊張が走った。
「お嬢が、自分から手をあげるわけねえだろ」
警察官の低い声からは、純粋な怒りが迸っていた。
「お嬢?」
ルルが警察官のせりふを聞いて、訝しげに首を傾けた。
「はっ!申し訳ありません、師範代!」
警察官が、蟻宮に向かって畏まった。蟻宮は、困ったように額に手を当てた。
「師範代?」
ルルの顔中に?マークが浮かんだ。
4人の男たちは警察に連行されて行ったが、一人の警察官が残り、蟻宮との関係を説明をしてくれた。
「この方は、我々が通う合気道の道場主の娘さんで、若くして師範代の資格を持ち、日々、我々にご指導いただいているのであります」
全員の口がぽかんと開いた。
「―――望月さん、そういうの言わなくていいから」
蟻宮の顔が耳まで真っ赤になっていた。
「お嬢、そうは言っても、お父上にも世話になって―――」
「すとぉぉっぷっ!」
蟻宮が、望月の口を手で押さえようとし、長身の望月の顔まで手が届かず、珍しく慌てた様子でぴょんぴょんした。
「そ、それは、言っちゃだめえ!」
「そ、そうでした!軽率でした」
望月は素直に頭を下げた。
「お騒がせしました。あいつらは、警察署で徹底的に絞って背後関係を吐かせます」
背後関係あるんか?
と全員が内心でつっこんだが、つっこみどころが多すぎて、正直、何からつっこんだらいいのかもわからなかった。
「みなさん、ありがとうございました」
望月が蟻宮に押し出される形で店を出て行った後、蟻宮は、男たちを止めようとしてくれた青年たちに、改めてお礼を言った。
「でも、危ない時は無茶しないでくださいね。いくら〝サポートメンバー〟だからって、そこまでしなくていいですから」
〝サポートメンバー〟というのは、カフェ・ミストラルの店員のクラスの一つだ。普段は客として来店し、何か手伝えることがあれば手伝う。店員として正式登録されているものの、職業的身分としては、ボランティア扱いとなる。給料は出ないが、報酬として現物が支給される。
「はい。じゃあ、コーヒーとケーキ、一つずつ持って行って。他のお客さん方もどうぞ。怖い思いをされた方もいると思うので、お詫びの気持ちです」
ルルともう一人、鮮やかな青色のメイド服を着た女性が、コーヒーとケーキを運んできた。
「ありがとう、ルルさん、饗庭さん」
蟻宮がお礼を言うと、ルルはその場に残ったが、饗庭と呼ばれた女性は、黙って一礼すると厨房へ戻って行った。
男たちの前に立ちはだかった青年たちが、最初にケーキとコーヒーを手に取り、他の客も、それに続いた。
「俺たちは、ありりんの〝親衛隊〟でもあるんだから、こんな時ぐらい、役に立たせてください」
先ほど男たちに突き飛ばされた青年、青木が、爽やかな笑顔で言った。
蟻宮吉野が所属していたVチューバーアイドルユニット『FREESiA』は、Vチューバーでありながら、ステージで顔を晒してリアル出演もするという、仮想空間と現実世界の両方で活動するグループだった。「会いに行けるVチューバー」という、どこかで聞いたようなキャッチコピーが売りで、小規模な会場での出演が多く、ファンとの距離が近い。
駅前で路上ライブをしていた頃はまだよかったが、主にオンラインで名前が売れ始めると、リアルライブにも多くのファンが押し掛けるようになった。バーチャルだけでなく、触れようと思えば触れられるぐらいの距離の近さを案じて、蟻宮推しのファンが、蟻宮を守るために結成したのが〝親衛隊〟と呼ばれるファングループだった。
「やめてよ。わたしは、もう『FREESiA』を辞めたんだから。今はもう、ただの『蟻宮吉野』だよ」
蟻宮が寂しそうな声で言った。
蟻宮が『FREESiA』を無期限休止すると、〝親衛隊〟の一人が、蟻宮にカフェ・ミストラルの存在を伝え、蟻宮は店員となった。その情報は当然のように〝親衛隊〟内部で共有され、数日後には、名古屋近隣の〝親衛隊〟メンバーが、代わる代わる店に集うようになった。
そして、なぜか常連客によって結成されていた〝蟻宮吉野を守る会〟に〝親衛隊〟メンバーが合流し、後に〝名古屋メン〟と呼ばれる新たな親衛隊が結成された。彼ら、彼女らは、カフェ・ミストラルの〝サポートメンバー〟として正式登録し、客として店を利用しながら、店の治安維持に一役買うようになったのだ。ちなみに、晴れた日の午後に来店した場合は、コーヒー1杯無料である。
「ありりんが、合気道習ってるって配信で言ってたけど、まさか、こんなに強いとは―――」
青木が蟻宮を見る目は、まるで敬虔な信仰者のようだった。実際、古参のファンである青木にしてみれば、蟻宮は神にも等しい存在なのだろう。
「もう、青木さん、大げさだよ」
大げさ?
青木だけでなく、その場の全員が「ん?」と疑問を抱いた。さっきの立ち回りを見れば、どう謙遜したって「大げさ」などという表現になるはずがないのだが―――
「わたしよりもママの方がずっと強いんだから」
その場が凍り付いた。
「あっ、いけない!浪川さん、すぐ始めるよ!」
茫然としていた浪川は、蟻宮の声に、はっと我に返った。
慌しくゲームの準備を始めた蟻宮と浪川を見ながら、それぞれが、それぞれの思いで深いため息をついた。
人は見かけに寄らず、事実は小説よりも奇なり、である。
なんか、8千字ぐらいになっちゃった!いつもは1日で書き終わるのに、倍の2日かかってしまった。
この話を書いていて思ったんだけど、書き進めていくうちに、どんどん設定が増えていくのね。もう、これで、29話目になるから、毎話、新しい登場人物が出てくることには、読んでる人も気付いたと思うんだけど、設定も人物も「勝手に」増えていくのね。辻褄合わせも大変なんだけど、果たして、これって、前作読まずに理解できるんだろうかって、ふと、そう思いました。
そこで、この2巻から読んでくれている読者を置いてけぼりにしないために、前作を「原作」とし、こちらを無印の「本作」としたいと思います。そして「原作」からエピソードを剝ぎ取って、追加修正で形を整えて、本作に貼り付けていく作業を開始します。「原作」をリメイクした話や新作は、公開直後は「本作」の一番下に付け、その後、時系列順に並べ直します。「あれ?あの話、どこいった?」ってなると思うんだけど、この作業が進めば、「本作」から読んでくれた人もわかりやすくなると同時に、「本作」の完成度も上がると思います。ご理解をよろしくお願いします。
簡単に言うと、次回は、本作の第一話のリメイクが、この下に貼り付くってこと!一度、読んだ話だけど、今の私の筆力で書いていくから、より、読みやすくなるはす!楽しみに待っていてね!




