性悪男爵が来たその後と、新しい従業員
性悪男爵が来たあと
従業員達には「不審者に注意」とだけ通達しておいた
どこかに出かける時は複数で、出来れば冒険者の誰かと一緒がいい
口に出してちょっかいをかけて来たのが、あの男爵なだけで
他にも同じ考えの人間が居ないとは限らないからね
そして数日後にお店にやって来たダスティン公爵に呼ばれた
ダスティン「もう心配いらないぞ。しっかりと釘を刺しておいた」
にこにことそう言う公爵
「へ?わざわざ刺してくれたんですか?」
ダスティン「ああ、リーヴァからの報告を聞いてすぐに母上が行った。私は貴族連中に吹聴しておいたぞ、『あの店は私の贔屓だ』ってな」
「おお、それはありがとうございます。これ以上ないくらい効きそうです」
ダスティン「これで口や手を出してくるのは、国か国王ぐらいだろう」
「た、確かに・・・」
ダスティン「念には念をでな、これを用意させた」
いつもの護衛の騎士さんが布に包まれた何かを持ってきた
布を取ると、中身は立て看板だった
でもただの立て看板じゃない
木製の縁は豪華な飾り彫りがあり、看板の右下には公爵家の紋章が入っている
『来店時の注意、当店の演者は奴隷では無く、人身売買には一切応じない』
『店への苦情はパチュリー公爵家が一切を請け負う。いつでも対応可能だ』
『ダスティン・パチュリー公爵より』
「うわぁ、お店に置いても良いんですか?」
ダスティン「ああ、もちろんだ、母上が用意したものだから置いてくれないと私が叱られる。母上も大層怒っていたが、金貨100枚で買おうとしたそうだな」
「そうなんですよね。失礼な話です」
ダスティン「思い上がりも甚だしいな。あの男爵は良い噂は聞かないし、出入り禁止にしても良いと思うがな・・・・」
「そうなんですね。あれ以来来ていないのでもう大丈夫そうですが。もし次に来ておかしな動きをすれば即出入り禁止にしますね」
にこっと微笑んでおく
ダスティン「ああ、それが良い。質の悪い客がいるとこっちの興も削がれるからな」
「公爵様がいらっしゃっていたらすぐにでも追い出していたんですけどね、ちょっと楽しくなっちゃって、ふふっ」
ダスティン「ああ、相当からかったらしいな。リーヴァも悪い顔をしていたよ」
「すこーしだけ現実のお話をしてあげただけですよ」
ダスティン「ははは、またあんな奴が来ても君が居れば大丈夫そうだ。しかし君が常駐しているわけではないからな、十分過ぎるほど注意はしておくように」
「はい、私が居ない時はガロルドが居るか、冒険者の数を増やしてますので」
ダスティン「うんうん、それぐらいがいいな。では今日も楽しませてもらうよ」
「はい、色々とありがとうございました。ごゆっくりとお楽しみください」
VIP席を出て、改めて頂いた立て看板を見る
「すっごいな、豪華だし、一目で公爵家ご用達ってわかる」
これは絶対お客さんが通る入り口に置いておこう
お礼として、今日はお酒をボトルで送ろう
日に日に貴族のお客さんは増えていたけど、アレ以降問題が起こる事は無かった
公爵家の立て看板の効果はバツグンだ
これなら安心して、道路の続きを作りにいけそうだなーとか思っていたら
お店で声をかけられた
「失礼、オーナーのルラさんですね」
「あ、はい。何か御用でしょうか?」
楽屋に戻ろうとしている所を呼び止められて、顔をみて見ると
どこかで見た事があるような気がする・・・・
じっと見つめていると
「あれ?覚えてもらってないか、俺はネッカリーデ男爵の所で騎士をやっていた者だ」
「あ、・・・・ああ!あの最後尾にいた騎士さん!」
「そうそう、思い出してくれたか?」
「はいはい!騎士服じゃないからわからなかったです。お店に来て下さったんですね、ありがとうございます」
あの時のようにかしこまった騎士服ではなく、とてもラフな感じだ
シャツにズボン、飾り気も何もない
町ですれ違ってもわからないだろう
「改めて店を見てみたいと思っていたから来た。それであの時の話を覚えているか?」
「あー、えっと・・・・」
何て言っただろうか?
お客として来て欲しい?
あ、仕える人は選べとか言った気がするな・・・・ヤバかった?
「ふふふ、覚えてないのか?」
「ちょっとは覚えてます・・・仕える人を選べとか失礼な事を言った気が・・・ごめんなさい」
「いやいや、あれで目が覚めたんだ。だから辞めて来た」
「は?」
「騎士を辞めて来た。で、あの時君はこう言ったんだ。『用心棒も演者も募集してますのでいつでもいらして下さい』ってね」
・・・・言ったな、確かに、言った
「言いましたね・・・でも、騎士なんて立派な仕事を辞めても良かったんですか?」
誰もが憧れる仕事ではないんだろうか?
「未練はない。憧れの仕事ではあったが、実際は雑用と訓練、それにあの人の護衛くらいで気分の良いものじゃなかった。だからキッパリと辞めてきた。誘った責任は取ってくれるんだろう?」
「は?え?いいの?働いてくれるのなら大歓迎だけど・・・うちは元奴隷しかほとんどいないよ?」
「俺は奴隷差別はしないよ、もちろん獣人だって俺達と変わらないと思っている」
「嬉しい!じゃあ採用で!」
「え?面接も何もないのか?俺の名前さえ知らないだろう」
「あ、聞くの忘れてた。お名前は?」
「ふふふ、面白いオーナーだな、俺はアキャナ、26歳だ」
「アキャナさんね!よろしく、私はルラ」
アキャナ「知ってるよ、で、俺は何をすればいいんだ?」
「そっか、何を頼もうかな?用心棒的な事もして欲しいんだけど、うちってそれ専属の人はいないんだよね。みんな冒険者兼、ダンサーなんだよね」
アキャナ「まさか両方を?」
「踊った事ない?」
アキャナ「社交ダンスくらいだな・・・」
話を聞きながら楽屋へ向かう
「じゃあ、いけそうだね。練習に混ざってもらおうかな?嫌なら無理強いしないけど・・・」
アキャナ「で、出来るだけ頑張ろう」
「よかった!じゃあみんなに紹介するね!」
楽屋の扉を開けようとする
アキャナ「ちょ、ちょっと待ってくれ。まさかここが楽屋か?」
「うん、演者のみんながいるよ。紹介したい」
アキャナ「いや・・・ちょっと・・・心の準備が・・・」
明らかにきょどっているアキャナさん
「どうしてそんなに緊張してるの?みんないい人達だよ?」
さっぱりわかんない、何にそんなに緊張しているのか
楽屋の扉の前で話を続けていると、扉が開いた
ノーラ「あら、ルラさんどうされたんですか?」
「あ、ノーラさん、あのね新しい人が入ったから紹介しようと思って・・・・」
アキャナさんの顔を見ると、両手で顔を覆って、耳が真っ赤だ
「ど、どうしたの?」
ノーラ「あ、ごめんなさい。ちゃんと隠しますね」
舞台衣装のままセクシーなビスチェだったノーラさんは
バスローブの形をしたものを羽織ってはいたけど、前は全開だった
それを見て赤面しているようだ
アキャナ「あ、いや、すみません。見てしまって」
ノーラ「ふふ、舞台衣装ですから、見られて困るものではないですよ」
アキャナ「いや、しかし・・・」
ノーラ「さ、みなさんに自己紹介をお願いします」
アキャナ「あ、え、あの・・・・」
ノーラさんに手を引かれて楽屋の中へ連れて行かれるアキャナさんは
明らかに戸惑っている
あー、これは・・・・もしかしなくても?
ノーラさんに気があるのでは?
まあ、拠点内恋愛は禁止していないので
止めはしない
しかし、ノーラさんはかなり人気だ
どうなる事やら・・・振られたから辞めるとかは無しにして欲しいなー
アキャナさんがみんなに自己紹介しているのを見つつ、そんな事を思った
住む所も決めていないと言うので、拠点へ案内した
アキャナ「いいのか?名前しか知らない俺なんかを連れてきて」
「何か悪い事でもする気ですか?あ、守秘義務は守って下さいね。うちの拠点でお酒を造ったりもしているので、そこを漏らされたら困ります」
アキャナ「いや・・・そんな事はしないが・・・」
「うちの拠点は9割以上が奴隷か、元奴隷です。みんな似たような境遇なのでそこそこ仲良くやっていますよ。アキャナさんにも個室をあげれますし、食事も家事担当に頼めばもらえます。あ、あとお風呂もありますよ。一人暮らしが良いのなら止めませんが、拠点にはノーラさんも居ますし」
アキャナ「うぐっ、の、ノーラさんは関係ないだろう」
明らかに焦っている
「ふーん、隠したいのなら別にいいんですけど、振られても仕事を辞めるとか言わないでくださいね」
アキャナ「・・・・隠しているわけでは・・・ただ素敵な女性だな、なんて思っているだけだ」
「そうですか、うちの拠点は恋愛禁止ではないので好きにして頂いていいんですけど、ノーラさんは競争率がかなり高いですし、そんな事を言っていると他の誰かに持っていかれますよ。だから振られてすぐに辞めるとかは止めてねって言ってるんです」
アキャナ「競争率が高いのか・・・無理もないか・・・」
「素敵な女性ですからね、で、どうします?拠点で生活しますか?」
アキャナ「・・・・ああ、よろしく頼む。出来る限り頑張る」
「はい、誰がノーラさんの恋人になっても後悔しないように頑張って下さいね」
アキャナ「ああ、そうするよ。俺には帰る場所もないしな、振られても辞める事はないって誓うよ」
「そうなんですか・・・・私と一緒ですね」
アキャナ「そうなのか?」
「はい、両親はどこかに行きましたし、姉妹とも別れました。住んでいた町に知り合いがたくさんいるくらいです」
アキャナ「そうか・・・似たようなものだな」
「そうそう、この拠点にも帰る所がない人が多いですから。家族みたいなものです」
アキャナ「家族・・・・それはいいな。楽しくなりそうだ」
嬉しそうなアキャナさん
ここが彼にとって良い居場所になるといいな・・・
アキャナさんには、とりあえず冒険者登録をしてもらった
元騎士なので、そこそこの戦闘能力はあるし
本人曰く、「身体強化は得意だ」って
なので、まずは採取組と一緒に行動してもらった
戻って来た翌日には、激しい筋肉痛に襲われていたけど
アキャナ「訓練より厳しいんだが・・・・」
ハルマ「ここは特殊だからな、慣れれば戦いやすくもなるし、給料も増える、体も仕上がるし良い事ずくめだぞ」
アキャナ「・・・・頑張ろう」
ドーラ「いい根性だ、明日はもう少し走ろうか」
アキャナ「は?まだ体がバキバキなんだが」
ドーラ「その痛い時に走るから意味があるんだ、完全に痛みが無くなった時に走っても、またその激しい筋肉痛になるぞ」
アキャナ「・・・・とんでもない所に来てしまった・・・」
「ふふふっ、最初だけですよ、頑張って下さい」
元騎士なだけあって真面目で、飲み込みも良かった
特にダンスの練習はノーラさんも居るからか、とても熱心に参加していた
筋肉痛が酷い時でも参加していたので、かなりの根性だ
ノーラさんからも「頑張っていて素敵ですね」なんて言われたらしい
2人が話をしているのを見ていると、ノーラさんもまんざらでは無さそうだ
まあ、本心はわからないけど
ノーラさん次第って感じかな?
拠点のカップル率がどんどん上がっていくなー
ありがとござした!




