王都の劇場の公演事情
2時間以上待って、やっと開演した
司会の人だろうか、男の人がステージの真ん中に立ち
今日の公演についてタラタラと説明を始める
内容は王立楽団の歴史や、ポチェータさんが歌う歌に関しての話で
聞いていて思ったのは・・・・長い・・・・・
っていうか、毎回これやってんの?
虚無になって、話を聞き流していると、やっと終わった・・・・
『それでは、今夜も夢のような時間をお楽しみ下さい』
そう言い残して、はけていった
すんごい尊大な言い方だな・・・・貴族ってこういうのが好きなのかな・・・・
あまりに待たされ過ぎて、変な思考になってきた
ゆっくりとステージのカーテンが開き、出て来たのは楽団だ
中心には、これでもかと豪勢なドレスを着た女性が立っている
裾はとんでもなく長いし、動くたびにキラキラと光っている
あれは一人でトイレも行けないな・・・
またそんな雑念が頭に浮かんだ
ステージ中心に立つ女性が、歌姫のポチェータさんなんだろう
優雅に一礼した後に、演奏が始まった
『あ~♪この国を作りたもうたのは、誇り高き王バルボッサ・テリダス・ニクン様~♪』
最初に男性が話していた時にも思ったけど、何か拡声できるマイクのようなものがステージにあるらしい
ここで聴いていても、とても迫力のある声が聞こえてくる
前世でいうオペラ的な歌い方で、凄い声量なのはわかるし、上手だなって思う
しかし
歌詞の思想が強いってばよ!!
彼女が歌うのは、建国時の話の歌のようだけど
初代国王を褒めたたえる、武勇伝なんかを延々と歌っている
歌声に集中したいけど、どうしても歌詞が気になる・・・・
『ドラゴンを素手で倒し~♪貧しい市民を助ける王~♪』
気になるーーー!
素手で倒したは無理あるって!
称えたいのはわかるけど!
ちょっと無理があるって!
もしかしてグーパン?グーパンなの!?
身体強化爆盛りでも難しくない?
ドラゴンを倒した身としてはツッコミたい!
一応、澄ました顔で見ていたけど
内心は荒れに荒れていた
2曲目は恋の歌だったけど、それも初代国王の話っぽかった
『恋に落ちたニクン~♪彼女が結婚していると知りながら~想い続ける~♪』
え?!不倫?略奪婚!?
そこがもう衝撃だった、最初からそれ?って
結局、2人は恋に落ちて
彼女は夫を捨てて、初代国王と結婚するって歌だ
純愛みたいな感じで歌っているけど・・・・ただの不倫、略奪・・・
もう、そこが気になって歌声に集中できない
どれだけツッコませたら気が済むんだ・・・・
ってか、初代国王もこんなの歌われて嬉しいか?
歴史に残る不倫って・・・・
その後に続く歌も、歴代の国王についての歌
そんなのばっかり・・・これって国民が聴いて楽しいもの?
ちょっと・・・どれだけ歌声が良くても・・・・ねぇ
歌っている本人も、もっと他の物が歌いたいってならないのかな?
どれだけ素晴らしい音楽でもなー
ちょっと単調だし、これじゃあ庶民からの人気はあんまり無いんじゃない?
っていうか、ステータスの為に見に来てるって感じかな・・・
もうそんな事ばっかりしか頭に浮かんでこなくなった
1時間ちょっとぐらいの公演が終わり
「はぁ」
ため息をつきながら、天を仰いだ
疲れた・・・正直疲れた・・・・
昨日の野営でリフレッシュしたはずなのに・・・疲れた
会場は拍手に包まれているけど、私は立つ気力もない・・・
マッキンリー「どうだった?素晴らしい歌声だろう?」
セリーネ「はい、いつ聴いても素晴らしいですね」
ペディス「まだお若いのに素晴らしいですよね」
3人は感動したようだ
何でだ?私だけ感動出来ない・・・
マッキンリー「ん?ルラさんは気に入らなかったのか?どうした?」
口から魂が出そうな私に意見を求めてくるマッキンリーさん
「ちょっと・・・馬車の中で言いますね・・・」
マッキンリー「え・・・」
ここでは言えない・・・だって誰が聞いているかもわからない
今話すと暴言を吐きそうだ・・・
セリーネ「ええ?嘘ですよね・・・素晴らしさが伝わりませんでしたか?」
ペディス「ルラさんは独特の感性をお持ちなのでは?」
ちょっと心配するような感じだ
「いえ、歌声は素晴らしいと思います。歌声は・・・」
マッキンリー「なるほど・・・続きは馬車で聞いた方が良さそうだな」
「はい・・・」
何だか申し訳ない気持ちはあるが、ここで嘘を言っても仕方ない
ゆっくりとしている貴族たちより早く、馬車の所へ行く為に少し早歩きで出て行く
馬車の行列に巻き込まれるのは嫌だからね
ささっと馬車に乗り込み、ほっと一息ついた
マッキンリー「では、素直な感想を聞こうかな。何がそんなにダメだったのだろうか?」
「うーーん、ダメっていうか・・・歌声以外は全部イマイチでした」
マッキンリー「なっ!」
セリーネ「ええ!」
ペディス「ほ、本気ですか?」
3人とも驚きすぎたのか、のけぞっている
え?そんな変な事言ったかな?
「そんな変な事言っていますか?」
素直に聞く
マッキンリー「いや・・・・そこまで酷評している人には初めて会った・・・」
セリーネ「はい、私もです」
ペディス「いや、さすがに、王立楽団は良かったのでは?」
「あー、いやー、そのー」
ペディス「嘘でしょ・・・・」
「誤解があるといけないので、率直な感想を言いますが、楽団自体は素晴らしいのだと思います。しかし」
マッキンリー「しかし?」
「凄く単調です。これは原曲のせいもあるんでしょうけど、耳に残らない、印象に残っているのは歌姫である彼女の声だけです。最初の曲の伴奏を口ずさめますか?思い出して、鼻歌を歌う事はありますか?」
マッキンリー「・・・言われてみれば・・・そう・・・かも知れない」
ペディス「彼女の歌は覚えているのに・・・・」
セリーネ「言われるまで気が付きませんでした・・・」
「私も思い出せないです、全部の曲の伴奏が。・・・・耳に残ったのは彼女の声だけです」
マッキンリー「言いたい事はわかった。しかしそれは作曲をした人の問題なのでは?」
「うーん、私は楽器にはあまり詳しくはないので、何とも言えないですけど。少なくとも楽団だけの演奏会があったとしても、今回の公演を見て、自分はお金を払って聴きに行こうとは思いません。もっと他にいい曲があるかもしれないですけどね」
マッキンリー「た、確かに・・・楽団だけの演奏会はあまりないし、人気もない」
やっぱりそうなんだ
「これも私の感想なんですけど・・・」
マッキンリー「ああ、聞かせてくれ」
「あの公演って自己満足じゃないですか?」
「「「!?」」」
驚きに固まる3人
「ちょっと率直に言い過ぎましたけど・・・どうして国王の話ばかりが楽曲になって、歌詞も国と国王を称えるものばっかり。音楽を聴かせたいんじゃなくて、国の素晴らしさと、国王の偉大さを知らしめたいだけでは?貴族から人気があるのもわかります。あれはステータスの為に見るものですね」
ペディス「ちょ、ちょっと待ってください。さすがに言い過ぎではないですか?」
マッキンリー「ルラさんは初めて行くので知らないかもしれないが、王都の劇場とはこういうものなのだ、どこの国も建国を歌い、国王や英雄を称える歌を公演する。劇もそうだ、英雄譚や、建国の話を公演する」
「そ、そんな・・・」
衝撃の事実だ・・・そんな物を何回も見に行くのか?
よっぽど面白い建国だったら見るけど・・・・王都を全部土魔法で作った、とか
セリーネ「そこで衝撃を受けるという事は、知らなかったんですね」
「はい、もっと楽しいものだと思ってました・・・・。だって王様がいかに偉くて強くてって話を聞いて楽しいですかね?2曲目なんて浮気の話ですよ?ただの略奪婚・・・。ドラゴンを素手で倒したってのも・・・笑いを取りに行ってるとしか・・・」
マッキンリー「わかった!ルラさんの言いたい事はわかった!これ以上言うと不敬罪になる」
「すみません・・・・」
劇場の中で話さなくて良かった・・・
セリーネ「不倫・・・言われてみれば・・・確かに・・・・」
ペディス「セリーネさん!いけません!」
セリーネ「あ、すみません」
「まあ、劇場でどんなものが披露されているのか良く分かりました。連れて来てもらって助かりました。とても参考になりました」
マッキンリー「は?酷評していたのに参考になったのか?」
「はい、とても・・・」
痛いほどわかった
ペディス「本当かしら?」
セリーネ「もしかして王都公演を諦めましたか?」
「いえいえ!逆です!凄くヤル気が出てきました」
「「「は?」」」
「だって、これ以外の演目ならもっとお客さんを集められそうです。建国や国王の話ではなくて、もっと一般的にウケが良さそうなものを」
マッキンリー「一般的にウケがいいとは?」
ペディス「ええ、気になりますね」
セリーネ「うんうん」
「そうですね、恋物語とか・・・不倫じゃないやつで。あとは楽しくなる音楽とか歌ですね。踊りたくなるような」
マッキンリー「ちょっと想像がつかないな・・・」
ペディス「はい・・・私もです」
「ほら、子供達が歌う歌って、耳に残って歌いたくなるじゃないですか」
マッキンリー「風の歌みたいなやつか?」
「そうそう」
風の歌っていうのは、子供に聴かせる子守歌みたいなものだ
『風が吹いてビュービュー♪家の隙間でピューピュー鳴る♪』っていう
とてもリズミカルな歌なんだけど、ちょっと貧乏感を感じる
しかし、一般庶民には広く知られていて
ヒューヒューや、ビュービューという音が繰り返されて耳に残るし歌いやすい
セリーネ「なるほど・・・言いたい事はわかります。しかし劇場でそんな歌を?」
「まあ、そのままではないですけど、うちの拠点ではみんな歌を口ずさみます。それって耳に残る歌と音楽なんですよね」
ペディス「耳に残る歌と音楽・・・なんとなくわかる気がします・・・。しかしどういった歌なんですか?」
マッキンリー「そうだな、それが気になる」
セリーネ「ルラさんは舞台でも歌うと言っていましたね、聴かせてくれませんか?」
「あー、改めて言われると恥ずかしいですけど・・・ちょっとだけなら・・・・」
何を歌うか迷ったけど、拠点で子供も大人も一番歌っていた歌を歌う事にした
『愛してる~♪』
サビだけを歌う、伴奏も何もないけど
口ずさみたくなる歌だ
マッキンリー「素晴らしい・・・」
ペディス「なんて素敵な歌なの・・・」
セリーネ「素敵ですぅ」
「えへへ、ちょっと歌いたくなりません?」
「「「なった」」」
どうやら言っている事を理解してもらえたようだ
劇場に行けて本当に良かった
現地調査って本当に大事だな
念のため、「国を称える以外の演目は禁止されていないですよね?」と確認した
答えは「不敬罪になるようなものでなければ、問題はないだろう」って
それだけ聞ければOKだ
商業ギルドにつくまで、何度も歌を歌った
3人が気に入ったからだ、結局サビだけでなく全部歌った
気に入ってくれて嬉しいんだけどね
さすがに何度も歌うのは恥ずかしい
連れて行ってくれたお礼だと思って、歌った
あーーー、早くついてくれーーーって何度も思った・・・・
ありがとござした!




