閑話 他視点 『魔寄せ』探し タコスの町 2
今日は彼女が森に『魔寄せ』を探しに行っているはずだ
マルレーヌ「サザンヤと仲良くやっているかしら?」
たくさんの書類と睨めっこして、疲れた時に
ふとそんな事を思った
彼女とサザンヤはなんとなく気が合うような気がする、女の勘だけどね
ふっと笑いがこぼれた
この忙しい時に「手合わせしたい」とか言い出さないといいけれど
普段は真面目な男だけど、実力者をみると手合わせしたくなるらしく
高ランク冒険者で気に入った人には、手合わせを願っているのを何度も見た事がある
この有事でなければ止めたりはしないんだけどね
さすがに今ではないだろう
そんな事を思って、お茶を一口飲んだ
コンコンコン「ギルドマスター失礼します。カンリンより連絡が来ました」
マルレーヌ「ありがとう」
冒険者ギルドが持つ連絡手段、『文字転送』は手紙を入れて、ギルド番号を入力して
魔力を送れば、中に書かれた文字が希望のギルドまで届く魔道具だ
こちらに設置してある紙に同じ文字が転写されて、連絡が取れる仕組みで
ギルド設立当初から使われている
ギルド設立当時に関わっていたエルフの発明によるものらしい
これがなければ、こんなに迅速に対応できないだろう
それもこれも、当時の『魔物大氾濫』がきっかけだ
二度と同じような事が起こらないように、もしくは対処できるように
当時の設立者はそんな事を思っていたのだろう
マルレーヌ「あなた達の意思はここに紡がれていますよ」
自分の見た事もない時代を思って、そんな言葉が口から出た
紙を開いて読む
マルレーヌ「どうやら本当に『魔物大氾濫』の予兆らしいわね」
書かれていたのは、彼女が次に向かう場所だ
休む時間はないらしい
ここのように困っている所がある
町から近い場所ならば応援を送る事もできたが、馬車を飛ばしても5日はかかるだろう
彼女に任せるしかない、歯がゆくはあるが
彼女に任せれば、この難所も乗り越えていける気がした
マルレーヌ「若いっていいわね、ふふふ」
お昼を過ぎた頃に彼女が戻って来た
『魔寄せ』を持って
回収と、魔物をかなり討伐してきた事の報告を受けて
『魔寄せ』の情報を書き留めておく必要があるので、翌朝に彼女が旅立つ時に返すのを約束して
『魔寄せ』を預かる
代わりに渡したのはカンリンからの手紙だ
目を通してすぐに、「次は北ですね」という
どうやら、次が来る事は予見していたようで驚く事も無かった
残りの魔物を狩りに行こうとする彼女を止めて、休むように言う
どっかの身長の高い男のようだ
雑用は私たちに任せて、彼女には昨日の宿で休むように言った
申し訳なさそうな顔をする彼女は責任感の塊のようだ
しかし、どんなに心苦しくても彼女の一番やるべきことは
各地の『魔寄せ』を探す事であって、ここの魔物の殲滅ではない
魔物の残党狩りくらいは、ここの冒険者でも事足りる
可愛い従魔を指さして、休むようにいえば、やっと納得してくれた
「すみません、あとはよろしくお願いします」
頭を下げるのを見るに、まだ申し訳ないと思っているようだ
本当に頑固なんだから・・・
彼女に早く休むように言って
やっと行く気になったかと思ったら、「先に休ませてもらって心苦しいので、せめて差し入れさせて下さい」
そう言って、机の上に置かれたのはポーション各種とクッキーが入ったカゴだ
「趣味でたくさん保存してあるんです。ご飯も食べれてないでしょうし、差し入れです」
そう言われて、これを断れば彼女が心苦しいままなので素直に受け取る
そしてようやく部屋を出て行った彼女を見送って
改めてカゴの中身を確認する
ポーションは低級~中級・・・・特級まである・・・・
マルレーヌ「なんてものを置いていったの・・・・」
呆れてしまった
趣味でたくさん保存してあると言っていた
こんなに簡単に出すのだから、もっと手元にはあるのだろう・・・・・
正直今回の事で重症を負った冒険者も数名いる
治癒師の手に負えないものだ・・・・これなら助けてやれるかもしれない
そう考えたら自然と足が動いた
冒険者ギルドの診療室に寝ている重傷者の元へ行く
「ギルドマスターどうされました?」
マルレーヌ「特級ポーションが手に入ったの、彼らに使って」
「本当ですか!?」
カゴから3本取り出したポーションを医師に渡して
寝ている患者にかけたり、飲ましたりする
自分も肩に深いえぐれた傷のある冒険者に近づき
血止めの為にグルグル巻きになった包帯を取って
患部にポーションをかけた
強く光り、みるみる失った肉や骨が戻って行く
マルレーヌ「素晴らしい効き目だわ」
まるで何事もなかったかのように肩が戻った
ケガ人はまだ気を失って起きて来ないが、傷が治っても体力が回復するには時間がかかるだろう
「素晴らしい効き目です!これなら千切れかけても戻るかもしれません!」
マルレーヌ「あと1本しかないわ、大事に使うのよ。命に関わる傷のみに使って、他の所は上級ポーションで対処して、人命優先よ」
「わかりました。お任せ下さい」
残った特級ポーション1本と、上級ポーション数本を渡して部屋を出た
残りのポーションとクッキーは現場に届けてもらう事にした
ルラからの差し入れだというカードを書いて入れ
物資を運ぶ冒険者に託しておく、奪い合いにならないといいけど・・・・
甘いお菓子なんて、きっと取り合いね・・・・
でも、渡さないという選択肢はない
運が良ければサザンヤがみんなに配るかしらね
ふふっ
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一方その頃 サザンヤ
彼女が町に戻ってから、休憩を挟みつつ魔物殲滅に尽力している
丁度休憩に入った所で、物資の運搬をしてくれている冒険者に声をかけられた
「あの、こちらギルドマスターより渡された差し入れなのですが・・・冒険者に分配してよろしいでしょうか?」
サザンヤ「差し入れ?ギルドマスターからか?」
「どうでしょうか?渡されたのはギルドマスターからでしたが」
カゴを覗くとカードが入っていた
『ルラさんからの差し入れよ』と書かれている
サザンヤ「ルラから?」
休めばいいものを、差し入れをくれるとは嬉しい
中身を確認するとポーションが多数に、クッキーが大量に入っていた
サザンヤ「これは美味そうだ・・・・」
一枚も大きくて配りやすそうだ・・・・・・が
まずは味見だろう・・・・一つ取ってかじる
ざくっざくざく
中にはナッツが入っていて、ほんのり甘い
疲れた体に沁みる味だ
サザンヤ「・・・・・美味い」
あっという間に一枚食べてしまった・・・・・これは取り合いになりそうだ
サザンヤ「これは俺が配ろう」
「はい、お願いします」
カゴごと受け取って、自らで配る事にした
一枚食べて、奪い合いになるかもしれない・・・・これは貴重な物だ
大事に抱えて、休憩中の冒険者を回る
サザンヤ「差し入れだ、ポーションは足りているか?」
「ありがたい、初級か中級が欲しいです」
サザンヤ「ほら」
1本ずつ渡すと、さっそく飲んでいる
腕や脇にあった傷がみるみる治って行く
「うめえ!不味くない!なんですかこれ?」
サザンヤ「は?美味い?ポーションがか?」
「そうです!美味いです!苦くない!」
サザンヤ「もしや・・・・美味しいポーションというやつか?」
「それだ!高いやつですね、初めて飲んだぜ」
「いいなー!俺も飲みたい!」
「お前は怪我してねえじゃねえか!」
なんと彼女は高いポーションを差し入れてくれたのか
これも奪い合いになりそうだ・・・
サザンヤ「これは内緒にしておけ、奪い合いになる・・・・代わりにクッキーをやろう」
「え?いいんですか?ラッキー」
「わかりました。内緒にしときます」
「やったー」
ここで見ていた全員にクッキーを一枚ずつ配ると、笑顔で食べ出す
「ああーー、美味い」
「沁みるなー」
「ナッツがいいな」
「こんな良い差し入れしてくれるなんてサザンヤさんさすがっす」
みんな疲れているので、甘い物が嬉しいらしい
自分と一緒だ
しかしなんて物を差し入れてくれたのだ・・・・もう一枚食べたい
ポーションを飲んでみたい・・・・・そんな欲望を押さえこみつつ
差し入れを配り歩いた
たまたまポーションを切らした冒険者たちは相当ラッキーだ
美味しいポーションだとは知らずに受け取って
飲んで初めて美味さに驚く
「もっと味わえばよかったー!」なんて声も聞こえて来るくらいだ
サザンヤ「バカを言ってないで早く飲め」なんて叱責しつつも配り終えた
クッキーを食べれなかったもの達もいただろうが、これも運命だ
魔物の殲滅を完了して、町に戻ってギルドマスターに報告して
これで一安心だろうとなって
マルレーヌ「ルラさんの差し入れはどうだった?」
サザンヤ「それですよ!彼女はとんでもない物を渡して行きましたね!」
マルレーヌ「あら、そんなに美味しかったの?」
サザンヤ「それはもう!・・・・じゃなくてですね、あれは全て美味しいポーションと呼ばれている物でした、冒険者たちにバレると暴徒化するかと思いまして、内緒で渡して、口止めとしてクッキーを配る作戦でなんとか乗り切りましたが・・・・俺も飲みたかった・・・・・」
これが本音だ
マルレーヌ「ふっふっふっ、あなたもそんな所があるのね。美味しいポーションだったのは知らなかったわ。今度会った時におねだりしてみたら?」
サザンヤ「そうですね、手合わせを頼むついでに勝ったら要求してみましょうか」
マルレーヌ「まあ!あんな若い子に挑むつもり?」
サザンヤ「人聞きの悪い!彼女から『いつか手合わせできるといいですね』と言われたんですよ!」
マルレーヌ「・・・・あっはっはっはっはっは!」
大笑いされてしまった・・・・こんなに笑うギルドマスターを見るのは初めてかもしれない
サザンヤ「そんなに笑う事ですか?」
マルレーヌ「ふっふっふっ、いえね。実は予想していたのよ・・・・・」
かくかくしかじか
どうやら俺と彼女が似ている所があると思って
「手合わせをしたい」って言っているかもしれないと、予想していたらしい
しかもそれが彼女から出るとは・・・・予想を超えて笑えてしまったらしい
どうやらギルドマスターには俺がどういう人間か丸わかりらしい
しかも彼女とは似ている所があるらしい、これは光栄な事だ
ますます手合わせをしてみたい
まだ、くすくすと笑うギルドマスターを見て自分も笑ってしまった
ああ、彼女に次に会えるのが楽しみだ
ありがとござした!




