呪物
ピッコォォォォン
フルスイングの後に響き渡った軽快な音。
恨めそうに睨んでくる祓い屋たち。
また俺は、祓い屋に嫌われてしまったようだ。
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大きな和室。
俺の前には机を挟んで正面に爺さんが一人。その後ろに控える四人の部下。皆和服に袖を通し、いかにも祓い屋だ、というような雰囲気を纏っている。
「ある呪物を壊して欲しい」
この爺さんが今回の依頼主。強い式を作ろうとしていた部下のヘマにより、制御の効かない呪物を生み出してしまったらしい。
「なまじ力は強い。処分しようにも、私たちでは歯が立たなかったのだ」
今はこの屋敷の一室に封じているが、それもそろそろ持たない。だから、自分のところの尻拭いを俺に、ということらしい。
「白禽には?」
ある男を敬称なしに呼んだ瞬間、この場にいる全員が顔を顰めた。
俺のような家柄の分からない上ふらふらしている人間が、白禽を親しそうに呼び捨てをすれば、睨めつけられるのも当然か。
「もちろんすぐ彼を頼ったのだが、別件で手が離せず、ここに来る頃には間に合いそうにない。その代わりに君をと」
本当に最後の最後に俺を頼ったのだろう。爺さんに依頼される数週間前に、すでに白禽から話を聞いていた。ある件で推薦したから受けてくれないかと。
だが、真っ先に白禽に頼んでからその間、一度も俺に依頼は来ず、話が来たのはつい一昨日だ。
白禽とは、祓い屋界では有名な祓い屋の一人。俺とは違ってある一門に属している、優秀な鷲使いで、あいつは人望が厚い人格者だ。まあ、あいつの詳しい話はまたいつかにして。
そんな優秀な祓い屋さまから推薦されたにもかかわらず、何故ここまで爺さんが俺に頼ろうとしなかったのか。
それは、俺が祓い屋に好かれていないからだ。
今も「猫宮には頼りたくなかった感」がヒシヒシ伝わってくる。理由?出自が不明でいろいろ言われている他には、簡単に言うと「俺らの努力は何だったんだ」というもの。
もちろん、白禽とこんな人間が親しい所も要因だろう。白禽に言わせれば、『普通人間と妖はアリとゾウの構図になるはずなんだけれど、君の場合はそれが逆転しているからね。傍から見れば羨ましいんだと思うよ』らしい。その理論でいくと「羨ましい」で俺は嫌われているのか?だが、白禽は変わってる人間だ。あまり参考にはならない。
「では、その部屋に案内してください」
そっちが頼んでいるのに、何だその渋々といった顔は。
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一室の襖に夥しいほどの札が貼られている。周囲はクマでも暴れたような跡が至る所にあり、道具が数多く橋に寄せられていた。
本当にいろいろやってダメだったという感じか。努力は見られるが、結果は伴わなかったらしい。
札はどれも九割方黒ずんでいた。今もゆっくり黒に侵食され続けている。今日俺が来ていなかったら──。
事前に伝えられていた通り、呪物には核があり、それを破壊すれば呪物自体も破壊できるようだ。
「開けてください」
祓い屋たちによって、札が散り散りに消えていく。
呪物の破壊と聞いて用意してきた「とっておき」が火を噴く時が来た。
全ての札が消え、一気に扉が開け放たれる。
『ア、ァ、ガ、ガ、ァ、ア、ギギ』
歪な形をしたナニカが地を這っていた。
「核はあれか」
こちらに気づいた途端に飛びかかってくる。
『ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』
懐に忍ばせていた「とっておき」に手を伸ばし、核を目掛けて振り下ろす。
「ッラァァァ!!!」
ピッ
コォォォォォォォォォォン
ォォォン
ォォン
ォン
…………。
核が破壊されたことによって、呪物そのものも朽ちて消えた。のだが、
「「「は?」」」
祓い屋たちはこめかみに青筋を立てていた。
「何だそれは!!!?」
「ピコハンです」
何だと聞かれても、至って普通のピコピコハンマーだ。だが、彼らが納得するはずもなく。
「ぴこ……?」
「そんなおもちゃで破壊しただと!?」
「ふざけているのか!!?」
「私たちが必死に道具や人を頼ってもできなかったというのに!!それをお前は、お前は、おもちゃでだと!?」
自分たちが手こずっていた相手に、おもちゃで一撃とあれば矜持が傷ついたのだろう。確かにあんまりだ。怒りのあまり顔が赤く染まっている。そのまま倒れないか心配だ。
「ぴこ……」
「お前は術の何たるかをまるで分っていない!」
「これだから貴様はっ!!」
「待て!あの道具に何か札でも貼っているやもしれない!」
「あるいは特別製の──」
残念だが、淡い期待はただのピコハンによって打ち砕かれる。
「いや、おもちゃ屋のピコピコハンマーですね」
「そんな……!」
「ぴこぴこ……」
(気のせいかと思ったが、『ぴこ』しか言ってないやつ絶対いるよな)
俺が他の祓い屋に嫌われるひとつの理由は、これだ。
術に通ずる者の多くは手順や作法に重きを置いており、無作法に金槌で一振りするような解呪を好まない。「動かない電化製品を叩いて直す原始人」を見ている感覚に近いらしい。つまり俺は原始人ということか。
危機が去ったことに伴い、緊張感まで消えてしまったようだ。
今は気の抜けるカオスな状況だが、もし俺が間に合っていなければ、ここの一門は皆食われていただろう。それほどに呪物は強力だった。
「規制を強化せねばな」
組織に属していない俺にはあまり分からないが、当主はこれから後始末に追われるのだろう。信頼の回復も含め、あとは当主の頑張り次第だ。俺が介入することではない。
あれやこれやと屋敷内で祓い屋たちが、東奔西走しているうちに、俺は屋敷を追い出された。依頼を受けてから半日かけてここへ出向いたというのに、用は済んだから帰れとは、酷く嫌われたようだ。
取っている宿の方へと足を進めていると、留守番を頼んでいたおはぎが迎えに来ていた。
「出迎えありがとうな。歓迎してくれるのはおはぎだけだぜ」
おはぎを肩に乗せて帰路につく。
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依頼主の屋敷に着く前。俺は、警官二人に職務質問されていた。
「君、少し良いかな」
「何ですか」
「さっき玩具屋から出てきたよね?何してたの」
「買ったんですよ」
「何を?」
「おもちゃ」
「……子どもいる?それか小さい兄弟、親戚とか」
「いないですね」
「……。身体検査していいかな」
「どうぞ」
懐から出てきたピコピコハンマーに沈黙する。
「トンカチじゃないっすよ」
鈍器ではないという主張は通ったが、終始「ピコピコハンマーを買った成人男性」という変なものを見る目を向けられた。解せぬ。
★猫宮さんの質問コーナー★
Q1)どうしてピコピコハンマーを持っていたのー?
A1)職質されないため。トンカチ持ってたら所持理由説明できずに捕まりかねない。それを回避するためのピコハンだったのに、祓い屋共にはキレられるわ、警官には結局……。
Q2)あのあとピコピコハンマーはどうしたのー?
A2)おいてきた。今頃調べてたりしてな。……してないよな?




