おつかい -前-
「君、その子の親御さんじゃあないよね」
「ちょっと来てくれるかな」
猫宮は今、ふたりの警官に言い寄られている。
どうしてこうなったと猫宮は現実から逃避した。
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事が起きる数時間前にさかのぼる。
猫宮はイタチの妖がいる森に来ていた。この日も、土産に持ってきたみかんを摘まんで、寝転がっている。少し前まで共に、みかんを摘まんでいたイタチの妖は、猫宮が食べられる木の実を取りにどこかへ行っていた。
おはぎとまどろんでいると、イタチの妖が戻ってきたのだが、見慣れない種が落ちていると言う。植物に詳しいわけではないが、気になって見に行くと地面に白い粒が点々と落ちていた。
「この白くて小さいのは何?」
「米粒っぽいな」
一粒摘まんでよく見れば、やはり米粒であった。この辺りはあまり人が踏み込んでこない辺りだが、誰か人が迷い込んだのかもしれない。点線のように続いている米粒を頼りに、誰かを追うことにした。
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しばらく歩いていると見つけた。
黄色いシャツを着てリュックを背負い、赤い靴を履いた五歳前後の子どもだ。あえて目立つ服装をしているのかもしれない。米袋を両腕で抱えていることから、米粒を落としていったのはこの子どもだろう。
「あれ何」
「人間の子どもだな」
「あんたの子?」
「俺にガキはいねぇよ」
直接目にしても、本当に人間がいるとは思ってもいなかった。ここは森の奥まった場所であり、散歩で入ってくるようなところではない。今までも猫宮以外の人間に遭遇したことがなかったのが、それを証明している。
「こんな森にいたらパクッといかれそう」
「他より温厚とはいえ、動物も妖もウヨウヨいるからな」
子どもは猫宮たちに気づかず、スタスタと歩いてく。それを一人と二匹でぼうっと眺める。
「……」
「……」
「「マズい!!」」
呆けている場合ではない、と大慌てで子どもの元へと駆け寄る。
案の定周囲には動物や妖がいて、らんらんとした目で子どもを狙っていた。何体かに拳骨を食らわせたことで、囲っていた者たちが四散する。
「坊主。ひとりで何してんだ」
丸い目で見上げる子どもの首が辛そうなので、しゃがんで視線を合わせた。
「おつかい!」
「今いくつだ」
「よんさい!」
子どもはタカハタ町にある、家から少し離れたところの店へ、米を買ってくるというおつかいを頼まれたと言う。二キログラムと書かれた米袋を持っていることから、既に購入は済んでいる。帰宅途中なのだろう。
「米、持とうか?」
両腕で一生懸命に米袋を抱えている様子に、つい手助けをしたくなった。だが、子どもは自力を証明したいのか、猫宮の申し出を断る。
「大丈夫、ぼくひとりでおつかいできるから!」
猫宮には「おつかい」がいまいち分からなかったが、余計な手出しは不要らしい。代わりに、米を抱きかかえるのをやめさせて、背負っていたカラのリュックに入れる。元々これに入れて背負わせるために、持たせたものだったのだろう。子どもにはその意図が伝わっていなかったようだが。
さて、子どもをこのまま放っておけば、何かしらに襲われるのは目に見えている。ならば猫宮がやることは決まっていた。
「ついて行って良いか?」
「いいよ」
あっさりと許可が出た。聞いておいて何だが、人を疑う努力をしてほしい。
イタチの妖が猫宮の肩に乗り「過保護ね」とつぶやいた。決して過保護ではない。決して、と猫宮は誰に言うでもなく言い訳をした。
「頼むぜ、おはぎ」
「にゃあ」
おはぎが先頭となり子どもを先導する。最後尾の猫宮がついて行く形になった。小さな子どもの後をつける大の大人の絵面は、事案な気がしてならない。誰にも見つからないことを祈る。
「いつもおつかいしてんのか」
「んーん、はじめて!」
親はよく許したものだ。見ている側は冷や汗ものだ。
「ちゃんと足元見て歩けよ」
「はーい!」
直後、おはぎに気を取られた子どもがつまづいた。猫宮がとっさにリュックの取ってを掴んだおかげで、顔が地面に衝突するのを免れた。
「おっ前、言ったそばからコケるやつがあるか!!」
「危なっかしいね、この子」
身体が浮いている感覚が楽しいようで、子どもはケラケラと笑っている。いつでも掴めるように、ぴったりそばを歩くことになった。
「マジで誘拐犯に見えないか、これ」
「あたしに聞かないで」
普段はさして気にしていなかったが、この時ばかりは自分のガラの悪さを呪った。
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道中子どもにちょっかいをかけようとする、妖たちを追い払っていた。
「見ろ!ニンゲンの子どもだ」
「本当だ。ここで見るのは初めてじゃないか?」
こそこそ見てくる妖の方へと睨みを聞かせて威嚇する。
「何見てやがる」
「ファッ!?」
「コッチ見た!」
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「転ばせてみようぜ!イヒヒッ──」
「てめぇを握り潰してやろうか」
「ヒョッ……!!」
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「一口くれよ。そのちっこいニンゲ──」
「なんつった?」
「ヒィッ!!」
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「登んな登んな、落ちたらどうする!」
「リスさんいたのー」
「そうかー下から見ようなー!」
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「その人の子を独り占めする気か!ずるいぞ!」
「食わねぇし食わせねぇよ!」
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「だぁーー!何食おうとしてんだ!」
「いちごー」
「これ、いちご、違う!」
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「グルルルッ……!」
「あ゛ぁ?」
「キャウンッ」
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「頼もしいけどさぁ……あんたをみてると、相手が可哀想に思えてくるのは何でだろうね」
「ほんと何でだろうナー」
「にゃー」
★猫宮さんの質問コーナー★
Q1)猫宮さんは今何さいなのー?
A1)25。センセーに拾われてからのカウントは正確だ。その前は知らねぇ。
Q2)猫宮さんは、サングラスとタバコがあれば、あの人に見えなくもないよねー?松田じn──。
A2)やめろ。それ以上言ったら……消されるぞ。




