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監禁からのSOS

 こうして、コバヤシくんの勇ましい逃走劇も無残に失敗にと終わり、彼とマユミちゃんは、二人いっしょに、監禁用の部屋に閉じ込められてしまったのでした。

 監禁と言っても、実際には、軟禁に近いのです。二人とも、手足はいっさい縛られておらず、目隠しや猿ぐつわも強要されていません。監禁用の部屋も、ベッドやテーブルなどが完備されていて、まるで普通の客室のようなのです。夕食だって、美味しいご馳走が用意されました。ただし、部屋の入り口だけが、外から鍵を掛けられていて、部屋から出る事ができないのでした。

 こうなると、もう打つ手もありません。

 さすがのコバヤシくんの、自分用のベッドの上にと座り込んでしまい、ブツブツ言いながら、何かを考え続けていたのでした。

「う〜ん。やっぱり、どう考えても、おかしいよ。ここが、あのセタガヤの洋館だったとしたら、ぼく達は、ヨコハマからトーキョーまで、北の方へと走って来た事になる。だとすれば、その車が角を曲がる回数は、右も左も、大体、均等のはずなんだ。なのに、ぼくがトラックの中で曲がる回数を数えた限りでは、右に曲がる回数が30回以上で、左に曲がったのが5回程度だった。これはやっぱり、ヘンだよ。ぼくの数え方が間違っていなければ、これじゃあ、車はまっすぐ前進はしていない。同じ地域ばかりを、ずっとグルグルと回っていた事になる」

 コバヤシくんは、腕を組んで、そんな事をずっと呟いていたのです。

 そこに、緊張感のない様子で、マユミちゃんが寄ってきました。

「ねえ、ヨシオ兄ちゃん。もう逃げ出そうとはしないの?」彼女が言います。

「そりゃあ、何とか、ここから脱出はしたいよ。でも、もうお手上げなんだ」と、コバヤシくん。

「入り口からは逃げられないの?ほら、ヨシオ兄ちゃんだって、タンテイの見習いだったら、ドアの鍵をハリガネだけで開けたりも出来るんでしょう?」

「それがダメなんだよ」

 コバヤシくんは、覗き窓のついていない入り口のドアの方へと歩み寄りました。彼が、そのドアに、そっと自分の耳を当ててみます。すると、途端に、ドアの向こう側からは、うおおおっと言う、凄まじい猛獣の吠え声が聞こえてきたのでした。

「ほら、まだダメだ。きっと、ドアの向こうの廊下には、さっきの虎が、番兵をしているんだよ。そりゃあ、ぼくでも、この程度のドアの鍵は、簡単にピッキングできるけどさ。でも、外に出たら、たちまち虎に襲われちゃうよ」

「何よ。意気地のないのね」

 マユミちゃんは呆れたように言いましたが、コバヤシくんだって、明らかに危険な行為には手を出せないのです。

「だったら、窓から逃げたりは出来ないの?」マユミちゃんは、入り口のドアとは反対側の壁にある窓へと目をやりました。

 そこには、30センチ四方ほどの小窓が付いていたのです。この部屋で唯一の窓でした。

 もちろん、コバヤシくんは、この部屋に連れて来られたら、すぐに、この窓も確認してみたのです。でも、窓の磨りガラスを開いてみますと、そこには、10センチ間隔で、鉄格子がはまっていました。これでは、小柄なマユミちゃんだって、この窓をくぐり抜ける事は不可能なのです。

 言うまでもなく、この鉄格子を外せそうな道具は、この部屋の中にはありませんでした。コバヤシくんの探偵七つ道具だって、敵に取り上げられてしまっているのです。

 ちなみに、窓の外の景色はと言うと、この館の塀らしき壁しか、見えませんでした。この部屋から大声で叫んでみたとしても、塀の向こうにいるかも知れない人間に、その声が聞こえたかどうかは分からないのです。そもそも、魔法博士だって、外部の人間に声が聞こえるような部屋には人質を監禁はしないはずでしょう。

「くそう。ここに、ピッポちゃんでも連れてきていたらなあ」コバヤシくんが、悔しそうに、呟きます。

「ピッポちゃんって?」マユミちゃんが、キョトンとしました。

「ピッポちゃんは、ぼくが飼っているハトだよ。伝書鳩と言ってね、どんな遠くの場所で空に放してみても、最後は、きちんと持ち主の家まで帰ってきてくれるのさ。ねえ、すごいだろう!このピッポちゃんさえ、今ここに居てくれたら、この窓から逃がしてやってさ、すると、うちの事務所まで飛んで行ってくれて、ぼく達の居場所もアケチ先生に知らせてくれたかも知れないんだ」コバヤシくんは、ついつい、説明に熱が入ってしまったのでした。

 マユミちゃんは、醒めた表情で、コバヤシくんの話を聞いていました。でも、コバヤシくんの言っていた事に、呆れていたのではありません。彼女には彼女なりに思いついた事があったのです。

「この窓をくぐる事ができて、アケチ探偵の事務所まで飛んで行けるものだったら、いいの?」マユミちゃんは、ポツンと言いました。

「だからあ、ピッポちゃんは、今、ここには居ないんだよ」

「あたし、もっと良いものを持っているわよ」

 そう言いながら、マユミちゃんは、自分の服のポケットから、何かを取り出したのでした。

 それは、10センチほどの背丈の小さな人形なのです。正確には、金属製のロボットなのであります。魔法博士の一味も、ただのつまらないオモチャだと思ったらしくて、このロボットまではマユミちゃんから取り上げるのをヤメてくれたようなのでした。

「ダメだよ、こんなもの。何ができるって言うんだい。窓から放り投げたところで、外の塀の向こう側までは、絶対に届かないよ」今度は、コバヤシくんの方が、呆れたように言いました。

「届くわよ。だって、これ、特製の防犯グッズなんだもん」

「え?」

「ポケット小僧と言うのよ。福田のおじさんが、あたしへのプレゼントとして、特別に作ってくれたんだ。こないだ、アケチ探偵が福田のおじさんの家に行った時にさ、貰ってきてくれたのよ」

 マユミちゃんが言う、福田おじさんとは、もと軍部の兵器開発部門に勤めていた福田得二郎博士の事です。福田博士は、軍の兵器開発部門では総責任者でもあった、たいへん優れた発明家なのであります。マユミちゃんと福田博士は、実は、近い親戚でもありました。だから、こんな新開発のロボットも特別に譲ってくれたのでしょう。

「このロボットね、ほんとに、あたしの為だけのオリジナル商品で、お店では売ってないんだ。だから、悪い人たちも、これが防犯グッズだったなんて、ちっとも気が付かなかったんでしょうね」

「でも、これ、どうやって、使うんだい」

「起動させるわね」

 マユミちゃんが、ポケット小僧の胴体についていたボタンを押しました。すると、ポケット小僧は、たちまち、ブルブルと震え出して、自動で動く状態になったのです。

「メッセージを書いた紙を、ポケット小僧の体の中に収納する事もできるのよ」

 幸い、この部屋には、ペンとメモ帳は用意されていました。

「空だって飛ぶのよ」

 もう一度、ボタンを押すと、ポケット小僧が飛行形態に変形したのでした。背中から、内蔵されていたプロペラが外へと飛び出したのです。実質上、これは、ミニのドローンなのであります。

「カーナビ機能もついているから、指示さえ出しておけば、あとは、一人で、目的地まで飛んで行ってくれるわ」

 そして、マユミちゃんは、ポケット小僧を、窓から放ったのでした。ポケット小僧は、何の問題もなく、空を浮上すると、ぶーんと彼方かなたへと飛んで行ってしまいました。

 コバヤシくんは、その一連の作業を、最後まで、呆気にとられて、眺めていたのでした。

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