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黒の波動を携えて  作者: 達
第5章 平和な世界で
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第44話 どんなもんだい


 レイトが王都に帰還し二カ月が経とうとしていた。魔物侵攻時ほどではないにせよ、魔物は度々、小規模ながら街や村を襲う。王都決戦後、戦力の大部分を失い。残りの戦力の半分以上を魔物領の警戒に当てている騎士団にとって、それらをすべてカバーすることは不可能だった。


 そこで元帝国軍人にして『鬼人』の異名を持つベルソスが立ち上げた、新しい組織『ギルド』の手を借りることにした。傭兵集団が母体となっているので、魔物を狩ることに関してはプロである。


 ギルドの本部は北の商業都市「ラムザ」に置かれ、王国から来た依頼をこなす。いつしか、その噂が広がり物資の運搬や、薬の素材集めなど様々な依頼が一般人からも集まるようになり、人の手が足りなくなっていった。


 そこで職を探している一般人からも募集者を募り、人を集めた。中には、魔物と戦う術に乏しい者もいたので、ギルドに入った者をランク別に区別し、依頼もそのランクに応じたモノしか受注できないようにした。


 ギルド創設時、すでに自警団に所属していたメンバーはギルドの運営側として、上位役職が与えられた。ネニヴァスの世界に現れた新たな秩序として、ギルドは驚異的な速度で発展していった。







「ロス! 村の者の避難は!?」


「もう少しで完了しやす!!」


「急がせろ! 次が来るよ!!」


 ミフアとロスブルクはギルドの本部がある「ラムザ」から、少し離れた村で魔物狩りを行なっていた。巨大なイノシシ型の魔物が村近くの山で大量発生し、群れをなして村を襲った。背の低い草が生い茂った平原の向こう側から、魔物たちが走ってくる。


 村の者は近くのにある山の洞窟に避難させている途中だ。村の中にはすでに魔物が一度、入り込み、蹂躙されている。イノシシ型の魔物は一度、狙い定めた場所を何度も通り、全てが無くなるまでそれを繰り返す。魔術師が居れば遠くから魔法を放り込み、一方的に勝てる。


 しかし、緊急の依頼だったため、ミフアとロスブルクを中心に編成された討伐隊の数は少なく、魔術師は居ない。ギルドの支部として、依頼を受け付ける場所を設置している最中なので、今回のような小さな村からの依頼は後手に回ることが多い。


(チッ! これ以上は)


 ミフアは弓を構え、突進してくるイノシシ型の魔物に向かって矢を放つ。矢は確かに当たったが、固い皮膚に弾かれてしまう。倒すには魔法か、近接戦闘しかない。しかし、接近を許せば村にさらなる被害が出る。村はすでに半壊状態で、怪我人を動ける者でなんとか運んでいる状態だ。


(状況は最悪って所だね)


 時間をかければ勝てるだろうが、今回は村の被害を抑えなければならない。ただ、勝つだけでは意味がないのだ。


(何か、良い手は無いのかい……?)


 ミフアは辺りを見渡す。その時、足を挫き座り込んでいる少年が目に入った。立とうとしているが上手く動けないようだ。あの少年はこのままでは、魔物大軍に飲み込まれる。走って少年に近づき、声をかける。


「坊主! 立てるかい?」


「痛くて無理……」


「男が泣きごと言うじゃないよ!」


「うぅぅ……」


 ミフアは少年に肩を貸し、なんとか立ち上がらせる。もう、魔物の群れは近くまで来ている。急いで離脱しなければ少年と共に魔物に轢かれてしまう。


「頑張りな! 絶対に助かるから!」


「うん……」


 少年を励まし、一歩ずつ歩くが間に合いそうにない。


「お嬢! 第二波が来ます!!」


 ロスブルクの声だ。振り返るとイノシシ型の魔物の群れが、すぐ近くまで来ている。ミフアは少年を包み込むように抱きしめ、魔物との衝撃に備える。魔物群れが村へと侵入する。討伐隊の面々は侵攻ルートの外れから、攻撃をして魔物を仕留める。それでも、数体しか仕留めることが出来ず、魔物の数はあまり減らない。


 ミフアの身体にイノシシ型の魔物の突進がまともにヒットした。少年と共に宙に舞い、そのまま地面に叩きつけられる。


「お嬢!!!」


 ロスブルクの声がする。ミフアは全身に痛みを感じながら、胸元に顔をうずめた少年の安否を確認する。


「坊主。大丈夫かい?」


「う、うん……お姉ちゃんは?」


「大丈夫さ」


 魔物領遠征後、体術系の魔法に磨きをかけていた。今回はそれのお陰で、身体を少しだけ固くすることで、なんとか衝撃から耐えることが出来た。ただ、今すぐこの場を離れなければ。


 しかし、後続で来た一頭の魔物がこちらに向かってきた。すぐにでも回避に移らなければと立ちあがろうとするが、足に力が入らない。


(折れたか)


 足から発せられる痛みでそう確信する。逃げようにも逃げられない。少年だけでも逃がそうと考えていると、黒い一筋の光がイノシシ型の魔物を貫き、貫かれた魔物はドシンと音を立てて地面に倒れた。


「すげぇ……」


 胸の中の少年が声を上げた。そして、黒い光を発した本人が目の前に現れる。


「随分と大変なことになってんな」


 黒の外套を身に纏った黒髪の少年は、腰に差した剣を抜いた。


「兄貴ぃぃぃい!!!」


 ロスブルクが嬉しそうな声を出しているが、気にしない。


「あんたがどうしてここに?」


「偶然、近くを通っただけですよ」


 女性の声だ。身体を起こすと、蒼い髪を持った姫が居た。


「キレイ……」


 少年が呟いた。蒼い女神は少年の足に手をかざすと、魔法かけた。


「はい。これで、大丈夫ですよ。急いで避難して下さい」


「あ、ありがとうございます!!」


 少年は元気に走って行った。


「相変わらず。便利な魔法だね」


「そうかもしれませんね」


 蒼い女神はミフアの足にも同じように魔法をかけた。次第に痛みが取れ、動けるようになる。


「ミフア。怪我人の所へアリッサを連れて行ってくれ。後は俺がやる」


「分かった。黒の勇者のお手並み拝見させてもらおうよ。野郎ども! 後退の準備しな!!」


 ミフアの合図で討伐隊は黒の勇者に任せて、村人が避難している洞窟へと移動を開始した。平原の向こうからは第三波を村に加えようと、魔物たちが走ってくる。


「広域殲滅形態」


 黒の勇者が呟くと同時に、振り上げた剣の刀身が黒く染まり、黒い雲が頭上に広がる。そして、剣を振り下ろすと同時に、雲が広がり、魔物たちをあっと言う間に、飲み込んでしまった。一瞬での大量虐殺。まさに、黒の勇者は規格外の力を有していた。


「どんなもんだい」


 振り返ったレイトの笑顔は年相応の少年のモノだった。















「兄貴! お久しぶりっす!!」


「おぉ、久しぶりー、魔物領遠征以来だな」


 レイトは村の瓦礫の片付けをロスブルクたちと共に手伝っていた。ミフアは村の再建を依頼で出すために、被害の確認で何処かへ行ってしまった。アリッサもまた、洞窟に避難した人々の治療でこの場にはいない。


 ラムザに用事があり、アリッサの護衛として偶然近くを通らなければ、どうなっていたか分からなかった。ある意味で今回は幸運と言えた。村人もミフアたちの懸命な活動により、怪我人は居ても死者は無し。


「いやぁ、兄貴たちが来てくれなかったら、どうなってたか」


「偶然通りかかってよかったよ。ギルドの方が順調か?」


「はい! 日に日に集まる依頼の量も増えて、順調ってお嬢が言ってやした!!


「そうか」


 レイトは瓦礫を拾うと、端の方へと避けた。その後も、ロスブルクと近状報告で盛り上がっていると、村人の治療を終えたアリッサが合流。ミフアも依頼としての報告をまとめ、とりあえず一度、ラムザに向こうこととなった。


「で、なんで俺の横にミフアがいるんだ?」


「久しぶりなんだしいいだろ」


 ミフアはレイトの腕に抱きついた。狭い馬車にアリッサと三人で揺られている。目の前のアリッサがジト目で睨んで来る。何も言わないだけに、恐怖を感じる。


「女神さん。あたしの好きにさせていいのかい?」


 ミフアの挑発的な態度にアリッサの眉間がピクリと反応した。


「構いませんよ。久しぶりに会ったんですから。積もる話もあるでしょうし」


「じゃあ、遠慮なく」


 ミフアはレイトの顔を強引に近づけると、そのまま唇を奪った。


「ん!!?」


「な!!」


 レイトは口を塞がれたまま驚き。アリッサは声にならない声を出した。


「お前! 何考えてる!!?」


 レイトは口をミフアから離し、狭い車内で彼女から逃げようと距離を開ける。実際はほとんど距離は空いていないが。


「レイトを我がモノにする方法」


「真顔で恐ろしいことを言うな!」


 ミフアが距離を詰めて来る。狭い車内に逃げ場は無く、簡単に追い詰められる。


「アリッサ! 助けてくれ!!」


「知りません! 自力で何とかしたらどうですか!」


「レイト……好きな女の前で犯される気分ってどんな気分なんだろう?」


「知らないし、知りたくもない!!」


 半ばパニックに陥った車内。何とか、ミフアの追撃を逃れラムザへと到着した。ミフアは報告があるからと言って、レイトの頬にキスを一発入れて何処かへ行ってしまった。


「あのぉ……アリッサ姫?」


「なんですか?」


 レイトとアリッサはギルドの長であるベルソスに用があるので、ギルドの本部を目指し歩いている。先ほどからアリッサがレイトの前を早足で歩き、目を合わせてくれない。ミフアが絡むと、いつも彼女の機嫌を損ねてしまう。


(あいつの絡みがあんなせいで……)


 思わずため息が出てしまう。どうやって機嫌を直そうかと考えていると、ギルド本部に着いてしまった。


「早めに用事を済ましましょう」


 アリッサはスタスタと2階建ての建物へと入って行った。レイトも後に続いて入り、事情を説明すると、ベルソスの私室へと案内された。


「失礼します」


 ドアをノックし、二人で中へと入る。そこには坊主頭で迫力あるベルソスが居た。


「久しぶりだな。二人とも」


「どうも」


「お久しぶりです」


 それぞれ挨拶をすませると、中央のソファーにアリッサと並んで腰を下ろした。目の前に座ったベルソスは足を組んでいる。


「姫と黒の勇者が来るなど、どういった要件だ?」


「次期王位継承の挨拶です。我が国では他の同盟組織に顔を出すのが習わしですので」


 アリッサが頭を下げた。今回、ラムザを訪れたのはベルソスへの挨拶が目的で、レイトはその護衛である。村を助けたのは本当に偶然だった。


「それは丁寧にどうも。王国のお陰でギルドは日に日に力を付けている。同盟を結んだことは正解だったようだ」


「ガノ総隊長がお聞きになれば喜ぶでしょう。それに、あなた方のおかげで、魔物からの脅威から人々を守れております。これからも力を貸して頂きたく思っております」


「当然だ。あなたが即位すれば新しい時代が来るだろう。楽しみにしている」


「ありがとうございます」


 挨拶はホンの数分で終わった。アリッサとベルソスのやり取りを聞いていただけのレイトは早々に立ちあがり、ドアを開けた。先にアリッサを退出させ、自分が最後に出る。


「おい、小僧」


 呼び止められ、レイトは足を止めた。


「なに?」


「ちゃんと姫を守れよ」


「言われなくても分かってる」


 その言葉にベルソスは笑みを浮かべ。


「またな」


 そう呟いた。レイトは一礼すると、部屋を後にした。


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