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黒の波動を携えて  作者: 達
第3章 帝国生まれの傭兵たち
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第30話 不吉な予感

「全隊! 真ん中に固まれ!!」


 ガノの合図で全隊が中央に固まる。そして、ガノの魔剣から発した炎が部隊を囲む。今、現在部隊は魔物に囲まれている。魔物領に入って途中までは、遠距離から魔術師たちが魔法で攻撃し、速やかに離脱することで戦闘を避けられていた。


 しかし、目的の遺跡がある森に入った途端に、魔物の数が激増した。まるで何かを守っているかのように、部隊の進行を邪魔しようとしている。手はず通りに魔術師部隊が魔法で先制攻撃をしたものの、魔物の第二波が押し寄せてきた。


 次の魔法が使用可能になるまで、少し時間がかかる。その時間を稼ぐために、ガノは炎の壁で魔物と部隊との距離を開けた。


「ベルソス! 力を貸せ!」


「俺に命令するな!」


 ガノとベルソス、二人が炎上する壁の外に出る。時間を稼ぐ気なのだろう。ガノの手に持つ剣の刀身が炎を身に纏う。ひと振りすれば炎が魔物を襲い、身体を燃やす。ベルソスは地面の形を自在に変えて、魔物たちを押しつぶす。


 王国と帝国の頂点に立つ、二人の戦闘を同時に見る機会など普通はない。犬型の魔物や、サイクロプスなど大型の魔物を相手に引け取らない、彼らの戦いに誰もが目を奪われていた。


「ガノ総隊長! ベルソスさん! 避けてください!!」


 魔術師部隊の隊長を任されたネセリンが、二人に魔法攻撃の意志を伝える。二人は部隊の傍まで引くと、ガノは炎の壁を解除した。魔術師たちが放った魔法が魔物たちを襲い、大多数の魔物が飲み込まれた、しかし、部隊に近づいていた魔物はそのまま、部隊へと直進してくる。


「よし! 全隊、戦闘開始!! 魔法で漏れた敵を倒し、この場の安全を確保しろ!!」


 ガノの合図で近距離を主にする者たちが馬を降りる。遠距離を得意とする者と魔術師を中心に、円陣型に防御を展開する。近づいてきた魔物を近距離部隊が迎撃し、まだ距離のある魔物には矢か、魔法が打ち込まれる。


 レイトはアリッサの護衛があるため、部隊の中央の位置から、黒い波動で魔物を狙撃していた。味方を巻き込んでしまう魔法と違い、レイトの魔法はピンポイントでの狙撃が可能である。


 ゴブリンに襲われそうな剣士がいれば、ゴブリンの頭を正確に打ち抜き。頭上を飛ぶハーピーが居れば撃ち落とし、遠くからサイクロプスが近づけば、目を貫いた。


 戦闘が終わる頃には周りは魔物の死体で埋め尽くされていた。最後の魔物にトドメを刺し、一帯の魔物を殲滅し終えた。アリッサとアルセレナが慌ただしく怪我人の治療を開始する。


「怪我人の手当が完了し次第、ここを離れるぞ。目的はもうすぐだ」


 ガノの指示で各自が行動を始める。今のところ、被害はごく僅かと言っていい。順調に来ている。しかし、ガノにはどうも腑に落ちない。それは横にいるベルソスも同じのようだ。


「ガノ。気づいているか?」


「ああ。魔物の数が少なすぎる」


 自分が魔物領に入ったときは、こんな順調に進むことは不可能だった。足を止めればすぐさま、周りを囲まれ、倒しても、倒しても、魔物は血の匂いを嗅ぎつけて集まってくる。


(何故だ? 最近の侵攻が少なかったのは、魔物領に居るからではなかったのか?)


 最近、魔物たちの活動が落ち着いているとは、魔物領から出てくる魔物が少ないと言うことだ。最前線でもそれは確認されている。街一つを簡単に飲み込む魔物の数は、最近では報告がない。


 では、魔物の侵攻が止まったと聞かれれば、それは違うと断言できる。数は少ないといえど、魔物は魔物領から溢れている。凶暴化した状態でだ。ならば、魔物領には凶暴化した魔物たちが控えているはずだった。


 しかし、その数すら凶暴化していない時より少ない。魔物領の外にも中にも魔物はいない。ならば、何処に居るのか……ガノは頭を悩ませる。そして、考えたくもない可能性がひとつ浮かび上がる。


(まさか、俺たちの突入と同時に魔物が外に移動した?)


 考えられる話だ。魔物領の中で力を蓄えた魔物たちが、一斉に外に移動した。そのタイミングと突入のタイミングが偶然にも一致した。もしそうならば、急がなければならない。今の王国は二人の隊長格と勇者が不在だ。最前線も三・四番隊だけでは対処しきれないだろう。戦力を分散している所に、相手の大戦力をぶつけられるのは戦争において最も困ることだ。


「ガノ総隊長。怪我人の治療が完了しました」


 ネセリンが報告に来た。


「よし。このまま、遺跡へと突入するぞ!」


 ガノは馬にまたがり、部隊の先頭を走る。皆を牽引し任務を成功させるためだ。祈るような気持ちで、ガノは馬を走らせる。思いすごしであってくれと、魔物領の外は今、魔物侵攻になどあっていないと。


(どちらにせよ。急ぐ必要があるな)


 馬を走らせること、数時間。部隊は森にある遺跡へと到着した。今は放棄された城のようだ。所々に崩落の跡がある。後ろに居るアリッサが腰に回した手にキュッと力を入れた。


「こんなに魔素が濃い場所があるなんて」


 魔術師である彼女にはそう感じるようだ。もし、本当にそうなら原因となる『何かが』この場所にあるのかもしれない。ガノは部隊を突入組と待機組の二つに分けた。レイトとアリッサは突入組にとなり、馬から降りて遺跡の入口へと向かう。


 入口となる扉の前に立つ。突入のタイミングはガノに一任されている。レイトはすでにアグナの宝剣を抜いている。不意打ちにも対応できるようにだ。そんなレイトを見た、ガノが耳元に顔を近づけた。


「レイト。もし、中で何かあったときはアリッサ様を連れて、お前だけでも脱出しろ。絶対にお前と姫は生きて帰るんだ」


 周りには聞こえない小さな声だった。レイトが返事をするよりも早く、ガノは離れていった。


(そんなこと、なるもんか。絶対に)


 アグナを握る手に力が入る。アリッサはもちろん死なせない。そして、ここにいる人たちを見捨てて、逃げるということもしない。生きて帰る、今はただそれだけだった。


「よし、行くぞ」


 ガノの合図で扉を開ける。見捨てられた城とあって、中は荒んだ状態で放置されていた。レンガが敷き詰められた床を歩くたびに、カツンと音が鳴る。その音が周りの壁と反響して内部に響く。


 先頭を行くベルソスが何かに気がついたように、辺りを見渡す。


「どうやら、地下の方が魔素の濃度が高いようだな。どこかに地下に繋がる道はないか?」


 同じように先頭を行くガノが指示を出す。


「二人一組で辺りを探せ。魔物と遭遇した場合、絶対に無理はしないこと」


 レイトはアリッサと二人で辺りを捜索する。心なしか彼女の顔色は優れないように見える。


「アリッサ? 大丈夫か?」


「はい。ちょっと魔力酔いしているだけです……慣れれば治ると思います」


 魔力酔いは、身体に高い魔力を宿す人間が、魔素の濃度が高い場所に行くと起こる現象だ。アリッサが言うには、胃の中で何かが暴れているような感覚らしい。レイトにはわからない感覚だが、目の前の彼女は額に汗をかき、苦しそうだった。


「地下につながる道を見つけました!!」


 部隊の一人が声を出した。探索していた各自がその場所に集まる。ガノとベルソスを先頭に地下へと繋がる階段を降りる。着いたのは広大な円形の部屋で、天井は見上げても僅かに見えるくらい高い。部屋の奥にはさらにここから奥へと繋がる道が見える。地下に何故、このような広い空間があるのかを今は考えている場合ではない。


 奥の道へ行こうと歩き出した時だった。真ん中に居た部隊の一人が地面に飲み込まれた。その場所のレンガの隙間から赤い液がにじみ出てきた。


「総員! 戦闘態勢!!」


 ガノの合図で各自が武器を構える。どこから敵が来るか分からない状況は、圧倒的に不利と言えた。すでに先手は取られている。


 石段できた地面が生き物ように隆起し、徐々に人型の形になる。石の怪物の数は全部で三体。それぞれの大きさは10mはあろうかという巨大な姿だ。


「ゴーレムとはな……」


「厄介なやつが出てきたな」


 ガノとベルソスの顔に緊張がはしる。ゴーレムの硬度はとても厄介だ。打撃系、斬撃系の物理攻撃や、魔法攻撃もあまり効果が見られない。唯一の弱点であるコアを見つけ出し、攻撃する以外に倒す手段はない。


 対ゴーレムの基本では、相手が2体以上いる場合は逃げるのが鉄則だ。本来ならば一体に火力を集中させ、撃破する。それが今回は3体である。普通ならば即時撤退だが、引くわけにはいかない。この先にある『原因』を取り除かなければ帰ることはできない。


 ガノは決断をした。


「レイト! アリッサ様を連れて奥へ向かえ!! お前が原因となるモノを排除しろ!!」


 原因となるモノが何かは分からない。しかし、レイトの魔法ならばなんでも破壊できると思ったからだ。


 本来ならばこの場にレイトを残し、すべてを破壊する黒い波動を使ってもらうのが、最も早く終わる戦い方だ。しかし、それで負傷されると奥に行った時に、手詰まりになる可能性だってある。ならば、レイトと回復役としてアリッサを行かせば、任務の成功率は高くなる。


「こんな状況で行けるわけないだろ!! この魔物を倒してからだ!!」


 ゴーレムたちとの戦闘が始まった。石段でできた身体を振るえば、地面が簡単に歪む。人がくらえば原型は留めてはいないだろう。


「これは命令だ!! こいつらを倒すことが今回の目的じゃない!! 奥にある原因を取り除くことだ!!」


 ガノが刀身に炎を纏わせ、ゴーレムへと向けるがゴーレムは何事もなかったように立っている。レイトも魔法を発動させ攻撃するが、ゴーレムの身体をなしている石段を消し飛ばしても、すぐに再生する。コアを飛ばさなければ意味がないようだ。


(このままじゃ、消耗するだけか)


 自分が速やかに原因を排除すれば撤退することができる。信じるしかない、ガノたちが無事でいてくれることを。


「アリッサ! 奥に行くぞ!!」


「はい!」


 レイトとアリッサは奥へとつながる道へと走り出した。


「ミフア! ロス! お前たちもついて行け!!」


 ベルソスの指示でミフアとロスブルクもあとに続く。4人は細い道をひたすら走った。後ろからは爆発音や悲鳴が聞こえる。ガノとベルソスと言えど、3体同時は長くは戦えないだろう。レイトは歯を食いしばり、ただ前だけを見て、疾走した。


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