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黒の波動を携えて  作者:
第2章 鬼火の森と呪われた一族
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第18話 約束だ

 城塞都市マルクに帰還した五番隊は傷ついた身体を癒すため、しばらくの休暇を余儀なくされていた。しかし、人型魔物が大型の魔物たちを狩っていたおかげで、驚くほど穏やかな日々が流れている。


 まだ日の高い日中、隊が泊まっている宿の一室で、隊長と副隊長である、ネセリンとルルは報告書などの任に追われていた。呪われた一族の少女であるロリフィと勇者のレイトは、マルクに帰還途中でレイトが彼女を村へ送るため別行動となった。そして、レイトはこの5日、まだ帰ってこない。


「あのバカっ……どこで何やってるんですか……」


 ネセリンらが作業する一室で、イラついた様子のアリッサが呟いた。


「心配なら、アリッサ様もついて行けばよろしかったのでは?」


「おんな幼い子に抱きつかれて、喜んでいる変態の顔なんて、見たくありません!」


「今頃、勇者様はあの村娘とお楽しみなのでしょうね」


「な!? やっぱり、小さい子が好みなの……」


 アリッサががっくりと肩を落とす。


「ルル、お楽しみって何?」


 報告書を書いていたネセリンが手を止めた。


「……コホン。早く、報告書を書いてくれますか?」


「誤魔化した! 絶対、誤魔化した!!」


「それより、ドラゴンの話はちゃんと書きましたか?」


「う、うん。バッチリだよ」


 人型魔物との戦闘後に現れた、人の言葉を話すほど知能が高いドラゴンは、人型魔物が造った結界のせいで外に出ることが出来なかったそうだ。それの礼として、この魔物侵攻の原因を教えてくれた。

 

 まだ、不確定の要素が多いため、確認と検討が必要だが、ネセリンはラ―ヴァイカよりも信用できるとして、ドラゴンの話を王都へ伝えることを決定した。


 魔物討伐の報告の際にネセリンはラ―ヴァイカの協力を断っている。ラ―ヴァイカの言っていた原因を知るモノとは、目の前に現れたドラゴンのことだったようだ。それも、すでに聞いたことだったので、協力すればラ―ヴァイカはドラゴンまでの行き方を教えると言ったが、意味の無いことだった。


「あとは、勇者様の帰りを待つだけですね」


「……レイト君、遅いね」


「知りません! あんな変態!!」


 アリッサはざわつく気持ちを静めようと、窓の外を見た。広大な森が視界いっぱいに広がっている。その森から、彼はまだ帰ってこない。


(ホントに……帰ってくるのかな……)


 不安がよぎる。もしかすると彼が帰ってこないかもしれないと、思うだけで胸が締め付けられ、息が苦しくなる。離れて初めて分かるその存在。王女として振り舞う自分に、彼は真っすぐに向き合ってくれた。この残酷な世界に放り込んだ自分にだ。


 少なくともレイトと居ると、王女とか女神とか関係なく素の自分でいることができる。彼が自分をどう思っているか、怖くて聞けない。一緒に居たいのであればそれは聞かなければいけないような気がした。けれど、それも彼が居なければ聞けないことだ。


 ただ、彼の帰還が待ち遠しかった。















「ロリフィ、そろそろ離れてくれるか?」


「やだやだ!! 残ってくれるって言うまで離さない!!」


 レイトは村の入り口でロリフィに足止めを食らっていた。彼女を村に送った後、数日は村の手伝いとして魔物狩りをやっていた。食料の補給を村に届けると、蒼いドラゴンに会いに行き、村を守ってくれるよう頼んでみた。ドラゴンはレイトの頼みならとこれを快諾してくれ、呪われた一族と蒼いドラゴンとの間にちょっとした協定が結ばれた。


 村の安全の確保を完了し、すでにやることはない。これ以上、騎士団から離れるわけにもいかずレイトは城塞都市マルクへの帰還を決め、朝一に村を発つ予定だった。しかし、村の入り口で待ちかまえていたロリフィに邪魔をされ、かれこれ数時間が経っている。


「俺は戻らないといけないんだ。そのために来たんだから」


「あの蒼髪女神様の所へ? あたしの方が、将来絶対美人になるよ! 先行投資だと思って残って!!」


「お前が何処でそんな言葉を覚えたのかは知らんが、とにかく離せ」


「一緒の布団で寝たり、肌を暖めあった仲である、あたしを捨てるの!!?」


「おい待て! その言い方は変な誤解を招くだろ! ちょ! 村の皆さん! 俺をそんな蔑んだ目で見ないで!!」


 朝起きるとなぜか、いつもロリフィはレイトの布に入り込んでいた。最初は無視していのだが、最近は裸で抱きついて来るなど、日を追うごとに過剰なスキンシップは増長していく。


(好意を持ってくれているのは嬉しいんだけど……)


 相手は7歳の幼女だ。レイトにそんな変態の趣味はない。これで、手を出してしまったら本当に変態の道に足を踏み入れてしまう。


「とりあえず、一回離せ!」


 レイトは身体に巻きつく、ロリフィの細く白い腕を少し強引に引き離した。


「ようやくあたしを襲う気になってくれた? こんな野外での趣味はないんだけど、レイト君がその方がいいならあたしは……」


「こらこら、俺をとんでもない変態に仕立て上げたようだが、あいにく俺にそんな趣味はない」


 レイトはロリフィを引き離し、彼女の頭に手を乗せた。


「この魔物の侵攻を終わらせたら、また来るよ」


「……ホント?」


「約束だ」


「じゃあ、今回は行っていいよ……」


 寂しそうに肩を落とす彼女の頭をポンポンと軽く2回叩くと、レイトは踵を返した。


「約束だからねー!!」


 ロリフィはレイトに聞こえるように精一杯の声で叫んだ。黒髪の少年は右手を高く上げ、振り返ることはなかった。










 レイトがマルクについたのは日が沈み、すっかり夜になった頃だった。村でもらった火属性の魔法石が無ければ松明が作れず、危うく森の中で迷子になるところだった。門兵に事情を説明すると、ネセリンから指示が下りていたらしくすんなりと通してもらえた。


「勇者様がお帰りだぞーー!!」


(めっちゃ恥ずかしいんですけど!!?)


 門兵の響くわたる大声に、反応した人々が周りに集まってきた。


「あなたが勇者様か!!?」


「今回も凄いご活躍だったそうで!!」


「1人で100匹の魔物を倒したって本当ですか!!?」


 何やら少し誇張して噂が広まっているようだが、レイトが今回の魔物討伐で活躍したことは、城塞都市に住む人々は知っていたようだ。人から褒められるのは悪い気はしない。しかし、これだけ一斉にだと、どう対処したらいいのか分からない。


 レイトは少し戸惑いながら、称賛の声に手を適当に振りつつ、五番隊が宿泊している宿へと向かった。宿につくと、入口からアリッサが飛び出してきた。


「レイトさん!!」


 彼女は胸に飛び込んで来ると、そのまま腕をレイトの首に回し抱きついた。


「うぉおおおお!!! 勇者と姫がラブラブしてるぞ!!」


「戦場に咲く、愛だーーー!!」


「こんな所で……勇者様は節度が無いのかしら……」


「チューだー!! チューしろー!!」


 宿から見ていた兵たちから歓声が上がる。これを聞いて我に返ったのか、アリッサは絡めた腕を離した。


「ご、ごめんなさい! 遅かったものですので、つい……」


 顔を真っ赤にし、視線を泳がせる彼女は必死に言い訳を並べる。


「お、おう」


 レイトはこうゆう時になんと返すのがベストなのか、アリッサに抱きつかれオーバーヒートー寸前の頭で必死に考えていた。


「お二人はなかなか、見せつけて下さいますね」


 声の主は宿から出て来たルルだった。横では何か見てはいけないモノを見てしまったという感じで、ネセリンが顔を手で覆っていたが、指の隙間からバッチリ目は出していた。


「ルル! これは不可抗力だ! 見せつける気なんて無かったんだ!!」


「言い訳など、勇者のすることでは無いですよ。今夜は2人で盛り上がり、ピーやらピーをするのでしょうね」


「皆の前でなんてこと言いやがるんだ!!」


「ネセリン隊長、ここは気を遣って、我々は別の場所で宴会をしましょう」


「ええ!!? き、気を遣うって……よく分からないけど……2人の為だもんね!!」


 ネセリンは意を決したように両拳をグッと握る。


「はい、2人の為です。よし、みんな! 今日は隊長のおごりだ! 好きなだけ食べて来い!!」


「ルル!!? いつも折半だよね!!? 今回もだよね!!?」


「盛り上がった男女の前で金の話など無粋。さぁ、行きましょう!」


「そ、そうなの……って、誤魔化したよね!? 待ってよ、ルル!!」


 嵐のように騎士団の面々は去って行った。取り残されたのはレイトとアリッサの2人だけ。


「……アリッサ」


「は、はい!?」


 声が裏返ったアリッサにレイトは思わず噴き出しそうになった。


「ププ……とりあえず、宿に入ろうぜ。疲れた」


「笑わないでください! 分かりました、ここで立っていても仕方ありませんもんね」


 2人は宿へと入った。レイトは与えられていた部屋につくと、すぐさまベッドに飛び込んだ。初日以来の部屋であり、ロリフィの村では固い木の上で寝ていた。快適な睡眠が得られると思うと思わず飛び込んでしまった。


「やっぱ、睡眠は大事だよなー」


 枕を自分の寝やすい位置にセットしているレイトにアリッサが、声をかけた。


「レイトさん、変な事……聞いてもいいですか?」


「いいけど、どうしたんだ? ルルの言ってたことなら、気にしなくてもいいんだぞ」


「そのことじゃありません! その……私のこと……」


 アリッサの心臓の鼓動が大きくなる。今から聞くことに彼はなんと答えるだろうか。もしかすると、この心地のいい関係にひびが入るかもしれない。しかし、聞かずにして前へは進めない。拳を力強く握り、覚悟を決め、言葉を発した。


「私のこと……恨んでいますか?」


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