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黒の波動を携えて  作者:
第2章 鬼火の森と呪われた一族
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第10話 1人の夜に少女は想う

 魔物領より南の地域には広大な森林地帯が広がっており、エルフやドワーフも住んでいる。そして、この世界で最も大きく古くから存在するエルフの里がある。今回、そのエルフの里から救援要請があったので、遊撃の任についていた五番隊が派遣された。


 レイトが今回、帯同する大きな理由はその魔物の強さにある。帝国とストレニア王国は魔物領に隣接する地域をたえず警戒をしているため、魔物が人間領に迷い込み、放置されるケースは少ない。しかし、南の森林地帯は「鬼火の森」とも言われており、迷い込んだ魔物が放置されているケースが多い。結果的に強い魔物が多くなり魔物の強さが上がってゆく。


 しかも、未だ自分の「能力」を制御できていないと言うこともあり、騎士団随一の魔術師であるネセリンはその管理には適任と判断された。五番隊本隊との合流までにネセリンの指導や指摘もあって、なんとか実践で使えそうな形にはできあがった。しかし、魔物や獣には道中に一度も遭遇せず、試せる機会が無ないまま、南の防衛の要である城塞都市「マルク」に到着してしまった。


 すでに日は落ちて、夜になっているにも関わらず、人の往来がある。レイトは馬を降り、滞在中に使う宿に案内された。そして、少しだけ問題が発生した。


「では、勇者様。アリッサ姫の護衛もお願いします」


 ルルは表情一つ変えずにそう言った。姫がこの街に来ることはまだ伏せてあるが、噂になるのは時間の問題である。この場所は王国領土内で今は国家間の争い事はないと言っても、護衛をつけないわけにはいかない。レイトはこれを承諾した。部屋を案内されるまでは。


「で、なんでこうなるんだ?」


 レイトは案内された部屋で横に居るルルに聞いた。


「部屋を別にするわけにはいかないでしょう? もし何かあったらどうするんですか?」


 ルルは表所を変えずにさも当然のように言った。宿で一番大きな部屋にアリッサとレイトは、同室と言うことで通された。2人の後ろでそれを見たアリッサは固まっていた。


「部屋の中で何かあった時はどうする気なんだ?」


「……騎士団の副隊長としては遺憾ですか。同じ男として尊敬します。あなたにはそこまでの勇気はないと思いますけど」


 ルルがフンと鼻で笑う。


「ほっとけ!」


 レイトのツッコミにルルは一礼すると、業務があるらしく去って行った。残されたレイトとアリッサはとりあえず荷物を部屋に置いた。


(ベッドが二つあるのは不幸中の幸いだな)


 レイトは自分のベッドに座りそう思った。


「あの、レイトさん……?」


「なに?」


 身体をアリッサの方へ向ける。彼女もベッドに座り、向かい合う形となる。


「部屋の中で何かって、どうゆうことですか?」


「……」


 レイトは顎に手を当て、できるだけ冷静な顔でいかにも理論的に考えているフリをする。背中には冷たい汗が流れるのを感じながら。


(やばい、やばい、やばい。どうする俺!?)


 思っていることを口に出すのは不可能だ。そもそも、王族に手を出したら、それこそ大変なことになる。レイトが適当な言い訳を絞り出そうと、脳をフル回転させ考えているとアリッサが頬を赤らめ恥ずかしそうに少し俯き呟いた。


「レイトさんが……そうしたいのであれば……私は……いいですよ?」


(これはなんて言う、エロゲーだ?)


 思わず心の中でツッコミを入れてしまう。アリッサがレイトの反応を伺うように目線を上にあげた。この角度はマズイと悟る。今の角度はレイトが最もアリッサを可愛いと思う、あの角度である。


「あ、アリッサさん? 一回、自分が何を言っているか冷静になってみようか」


「に、2回も言わせないでくださいっ」


(いつだ!? いつフラグを立てた!?)


「メイド長が夜、レイトさんが布団の中でごそごそしてて……その、溜まってるんじゃないかって……だから、抜いてあげなさいって……何を抜くのか分からないんですけど……だから」


(メイド長!? なんで、そんなこと知ってるの!? しかも、あんたは王女様に何を教えてるんだ!!!?)


 1人でパニックを起こすレイト。自分のプライバシーを侵したメイド長とは、いつか話し合わなければならないと確信する。しかし、今は目の前で起きているこのイベントをどう処理するかに全力を注がなければならない。


「部屋のドアを全開で何をやっているのですか?」


 レイトが振りかえると部屋の入り口にルルと、その横で真っ赤な顔で「今はダメだよ! もうちょっと待たないと!」とルルの腕を掴むネセリンの姿があった。


「ネセリンにルル!? そ、そのこれは……」


 アリッサが立ち上がりこの経緯を説明しようとする。


「アリッサ様も意外と大胆なのですね。他人に見られる露出プレイを選択されるとは、さすが我が国の王女です」


「あう……」


 ルルにまくし立てられアリッサはベッドに座りなおした。


「隊長と副隊長がわざわざ何の用ですか? 覗きは目的ではないでしょう?」


 レイトの問いに目的を思い出した2人は目を合わせ、ルルはネセリンに要件を話せと催促している。ネセリンが前に出て「コホン」と咳払いをすると口を開いた。


「明日の朝一番にエルフの里に向かいます。レイト君とアリッサ様にもご同行のお願いをしに来ました。だから……後はごゆっくり……」


 2人は扉を閉め去って行った。残されたアリッサとレイトの間に気まずい空気が流れる。


「あ、明日、早いし寝るか」


「そ、そうですね」


 ベッドで横になる2人。しかし、レイトは隣にアリッサが寝ていると思うと妙に意識をしてしまい、なかなか寝付くことが出来ない。このままでは寝るのは無理だと判断したレイトはベッドから抜けだし部屋を出た。







 ――パタン


 レイトが部屋を出て行ったことに気がついたアリッサは身体を起こし、さきほどまでレイトのいた場所を見た。


(ネセリンに『レイト君』って呼ばれてるんだ)


 この城塞都市マルクに来るまでの間にネセリンとレイトは随分と仲が良くなったように見える。人見知りのネセリンと上手くやっているので、よかったと思う反面、2人が話しているのを見て、それに対して素直に喜べない自分が居る。


 呼び名にしても、自分以外の誰かかが「レイト」と呼んでいることに、何故か不満を抱く自分が居る。それが彼の名前なのだから誰が呼んだって構わないのに。


(ホント嫌な女)


 少しばかりの自己嫌悪。今まで感じた事の無い感情を、自分はどうしたらいいのか分からない。でも、よくない感情だと言うことは分かる。


(嫌われても仕方ないくせに)


 異界人の召喚、それは切り札であり、先の見えないこの戦争を終わらせることのできる希望でもあった。周りの人は都合よく、召喚すべきと言う人もいれば、保身にはしり、召喚すべきでないと言う人もいた。しかし、両方とも自分たちのことしか考えていない。


 人を呼ぶと言うことは、その人の前の世界での全てを奪うと言うことだ。逆の立場で考えた時、アリッサは召喚することに反対した。その人の全てを奪う行為が、一方的な理由で許されると思わなかったからだ。


 しかし、戦地に赴き人々が死んでゆく姿、傷つき倒れて行く姿を見て決意した。自分にしか出来ないのなら召喚すると。そして、召喚した異界人がもし不満を抱くのなら、自分の命を捧げると。それで、異界人の者が力を貸してくれるかは分からない。もしかすると、国に敵意を抱くかもしれない。


 それでも、僅かな可能性にすがりたくなるくらい、希望が見えなかった。そして、召喚された彼は全てを奪った張本人である自分を生かし、人々の為に戦っている。


 本当は知りたい、彼が自分のことをどう思っているのか。しかし、真実を知るのは怖い。頭では恨まれても仕方がないと分かっていても、本当は恨まれたくない、好かれていたいと心が叫ぶ。優しい彼は何も言わない。そんな彼に甘えて、今もこうして自分は隣に居る。


(……いつか、聞かないといけない。そして、受け入れなくちゃ)


 いつの日か尋ねる日がやってくる。その時、彼がどんな選択をしようともそれは受け入れなければいけない。本当は憎んでいて殺したいと言ったとしても。その刃を自分は受け入れなければ。


(でも……ホントは)


 きっと、口にすることの無い本当の気持ちを、アリッサは胸の奥にしまいこむ。もし、それを口にするのはきっと彼が自分を許した時だけだろう。でも、そんな都合のいい未来が、他人の全てを奪った自分に待っている訳が無いと言い聞かせ、アリッサは再び横になり目を閉じた。


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