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黒の波動を携えて  作者: 達
第2章 鬼火の森と呪われた一族
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第11話 エルフの里

 エルフの里へはネセリンとルル、そしてレイトとアリッサの4人だけで向かうことになった。最も古いエルフの里と言うだけあって外からの人の出入りも厳しく、隊全体で行くのは不可能とのこと。向こうから救援を要請してきたのに随分な態度だなと、レイトは思ったが、制限をのみ込み救援に兵を派遣する、ストレニア王国の方針には少しだけ感心した。


(でも、リスクを犯してまで救援を出す理由があると考えるべきか)


 自国のことで手一杯のはずが、危険な地域に騎士団の一隊を派遣し、王女と勇者をつける徹底ぶり。ただの善意で救援に応じるにはあまりにもリスクが高過ぎる。ならば、それに見合った利がストレニア王国にはあるのだろう。


(俺にはどうでもいい話だけど)


 まだうす暗い夜明け、広大な森林地帯を駆ける馬に揺られながらレイトはそう思った。難しいこの世界の情勢など知らないし、自分がどうこう出来る問題では無い。魔物を一体でも多く殺し、一人でも死ぬ人を減らし、できればこの戦いを早く終わらせる。それがレイトにとって優先すべきことだった。


 ゆえに、魔物領の次に強い魔物がすむこの「鬼火の森」は格好の場所と言えた。しかし、不思議な事に城塞都市マルクを出てから魔物はおろか獣もいない。前の街からここまで来る時も出会うことが無かった。


 ネセリンやルルが言うにはここ数日、魔物の侵攻頻度が落ちているとのこと。魔物領との境目である最前線でも魔物の数が減り、逆に不気味だと言われているらしい。原因はもちろん不明、全てにおいて人は受身であり、常に人間領側は対処療法しか取ることが出来ない。


「着きました。ここです」


 先頭を走っていたネセリンが馬を止め、場所を指で示す。しかし、その場所にそれらしいものは何もない、樹齢100年はあろうかという大木があるだけで、里と呼べるようなものは何処にも見当たらない。


「見事な結界ですね」


 ルルが呟くと空間に裂け目が出て来た。その裂け目はどんどん広がり現れたのは、樹の上に造られた里への入り口だった。馬を結界内に入れ、ネセリンを先頭にレイトは最後尾で馬から降りて里へと入る。


 里のエルフたちはレイトたちのことを遠目で見ている。出迎えもなければ歓迎の言葉も無い。レイトは顔の整った、耳長の様々なエルフに目を奪われる。里の中心付近にある一番大きな二階建ての建物の前でネセリンが足を止めた。


「ルル、ノックして大丈夫だよね?」


 建物のドアの前でネセリンがいつもの人見知りを発動している。


「早く、してください。長を待たせる気ですか?」


 ルルがいつもの毒舌でネセリンを急かす。彼女はドアをノックするとゆるりと開けた。中から低い男の声で「どうぞ」と聞こえた。ネセリンらに続いて最後尾で建物に入ろうとしたレイトを後頭部からの衝撃が襲った。後ろから殴打されたレイトの視界は真っ黒に染まり、そこで意識が途絶えた。











 最初に動いたのはアリッサだった。レイトの前を歩いていた彼女は、持っていた長杖をレイトを襲撃した男のエルフに向かって振った。レイトが殴られたことによる、反射に近い反応で動いたので、何故レイトが攻撃を受けたのか考える暇も無かった。


「アリッサ様! お待ちください!」


 ルルの言葉が耳に聞こえた。反応したアリッサは振った長杖を男のエルフの目の前で止めた。


「エルフの長、ラーヴァイカ様。これはどうゆうことか説明していただけますね?」


 ネセリンが部屋の真ん中で椅子に座る男に尋ねた。その雰囲気にいつも弱腰のネセリンではなく、一隊を預かる隊長としての威厳と騎士団最強の魔術師としての風格があった。対する最古のエルフの里の長ラーヴァイカ・ジャートは口端をつり上げた。


「そう、魔力を荒立てないでください。五番隊隊長、ネセリン・サロタニア」


 ラーヴァカは手に持ったティーカップを口に運んだ。淹れられた紅茶を一口飲むと、ふうっとため息をついた。胸のあたりまで伸びた白い髭をさわり、金色の瞳を持つ、細くなった眼でネセリン達を見つめる。


「この里には『よその者を入れない』という習慣がある。非常時とはいえ、王国の人間であるあなた達を招いているだけでも、非常に異例のことなのです。ましてや、その少年は魔力を見るに、この世界の人間ではない。このままでは外の者に不慣れな。若い者たちが暴動を起こしかねない。そのための最善策です」


「危害を加えておいてですか?」


 アリッサがラーヴァイカを睨みつける。ラーヴァイカはその視線にフッと笑みを浮かべると木製の椅子から立ち上がり、右手を胸に当て頭を下げた。


「お初にお目にかかります、アリッサ姫。『女神』と呼ばれるあなたの噂はこの里にも届いております。噂にたがわぬ美しい姿、どうかワシの顔に免じて今回のことは許してほしい。少年は安全な場所に待機させますゆえ、これ以上の危害は加えないと約束しましょう。このような魔物の大侵攻時に、王国と敵対することを避けたいのは、我々の総意と思っていただいても構いません」


 ラ―ヴァイカの言うことは一応には理解できる。最も古いエルフの里が救援要請を人間に頼むなど極めて異例の事態だ。それほどまでにこの里は危機に陥っている。殺気立つ若いエルフたちを冷静にし、この会談を穏便に運ぶにはレイトは居ない方がいい。高レベルの魔物がすむ、鬼火の森を4人で安全に通るために。レイトを同伴させたが今回はそれが裏目に出てしまった。


「分かりました。しかし、もしレイトさんに何かあった時は……」


「分かっております。我々もまだ滅ぶのは嫌ですから。その少年を若い衆が行かない安全な場所に避難させなさい」


 ラ―ヴァイカの指示を受けた男のエルフがレイトを担ぎ、部屋を出ていく。心配そうに見つめるアリッサを察したルルが尋ねる。


「本当に安全は保障できるのですか? あの方は我々にとって貴重な戦力である勇者です。もし何かあればこちらの痛手になりかねない」


「小さな結界が張られている場所があります。外からはワシ以外には解除できません。そこにしばらくは居ていただきます」


 ラ―ヴァイカは笑みを浮かべると3人を奥の部屋へと招いた。3人が部屋に入ると、木製の円卓と、同じく4つの木製の椅子が並べられていた。


「どうぞ。お掛けになってください」


 ラ―ヴァイカに言われ3人は腰掛けた。彼もまた、腰掛けると一息置いて口を開いた。


「今回、我々は要請を出したのは、森の奥に住む魔物の退治とこの結界の修復です」


「あなた方の要請は魔物の退治だけと聞きましたが?」


 ルルが尋ねる。


「他言無用でお願いしたいのですが、この結界は年々弱まっている。しかし、高度な医療魔法の使い手であるアリッサ姫ならそれが防げるかもしれない。王族の手を借りようと言うのです。もちろん、対価はご用意させて頂きます」


「と、申しますと?」


「何故、このような魔物の大侵攻が起こったのか。それをお教えしましょう」


 3人はラ―ヴァイカの言葉に目を見開いた。それ見た彼は口端を少しだけつり上げた。










「うん……?」


 レイトが目を覚まし、最初に感じたのは後頭部の痛みだった。そういえば自分は殴られて意識が途絶えた。何故、殴られたのかは分からない。


「ここは何処だ?」


 身体を起こし、辺りを見わたすと地面にはごつごつした石が敷き詰められており、雰囲気はまるで牢屋だが、本来なら柵がしてある部分には半透明の壁がしてある。レイトが半透明の壁に近づき素手で触れると魔力のようなものを感じる。


「結界か」


 エルフ特有の結界のようだ。レイトは腰にぶら下げてあったロングソードが無くなっていることに気がついた。手足は自由だが武器は取り上げられている。この様子から考えるに、どうやら自分はこの里に独房に入れられたらしい。


「なんでこんなことになってんだ」


 呟くレイトまだ気がついていなかった、ここには自分以外にも人がいることに。


「あなた、だぁれ?」


「え?」


 レイトが振り向くとそこには幼い女の子がいた。ボロボロの布で創られた服を上下に身纏う、その少女は紅い瞳と、腰のあたりまで伸びた、同じく瞳と同じ色をした紅い髪を持っていた。燃えるような紅い瞳で自分を見つめる少女にレイトには疑問を抱いた。


(この子、体中あざだらけじゃないか)


 露出した肩から伸びる腕のいたる所に青あざができている。ここで保護されているとは考えづらい、なんせここは独房のはずだ。自分には武器も無く、目の前の女の子もまた丸腰である。つまり、この女の子はこの場所で青あざを作ったと言うことになる。


「俺の名前はレイト。君は?」


 少女は名乗ったレイトに何故か驚いた表情を見せる。視線を上にしてしばらく考えた後、少女は笑顔で言った。


「あたし、ロリフィ! よろしくね!」


 ロリフィと名乗る少女は屈託ない笑顔を見せた。


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