陽光の幕府、常闇の魔領
異世界に足を踏み入れてから半年。松平春希は己の無力さを知ると同時に、この世界の壮大な輪郭を見出していきます。魔力を持たぬ「来訪者」である彼が歩むべきは、血の滲むような肉体の修練のみ。過酷な運命に抗うための、静かなる挑戦が幕を開けます。
半年という月日が瞬く間に流れ去った。その間、春希は修道院に深く根を下ろし、この世界特有の『エオン(Eon)』と呼ばれる格闘術と、精神を研ぎ澄ます瞑想の訓練に没頭した。さらに、同じ境内の一角で修行に励む修行僧の**ヨケハス(Yokehasu)**からは、基礎的な剣術の指南を受けた。日々の鍛錬は過酷を極めたが、高校時代に培った春希の身体能力と天性の集中力は、驚くべき速度で新たな技を吸収していった。
修業の合間に、春希はこの世界の広大な地理と情勢についても多くを学んだ。老師ヨウゼイの話によれば、この世界は一つの巨大な超大陸と、その西側に位置する中規模の島、そして北方の極圏と大陸沿岸の間に広がる海域から構成されているという。その北の海には、海賊の三合会が支配する熱帯の群島が点在していた。
そして今、彼が身を置いている土地は**『陽光幕府(Sunlight Shogunate)』**と呼ばれる国だった。そこは世襲制の王が統治する、どこか近代化の混ざり合った半現代的な封建国家であり、その支配者は自らを皇帝や王ではなく、頑なに「将軍」と呼ばせていた。超大陸には他にも様々な国々が割拠していたが、この陽光幕府は超大陸の東部一帯を堂々と支配している。
しかし、春希が最も衝撃を受けたのは、幕府の領土のすぐ東隣に広がる広大な大地の存在だった。
そこは**『黒い森(The Dark Forest)』**。土壌は漆黒に染まり、立ち並ぶ巨木はすべて黒い葉を茂らせ、太陽の光が地表に届くことはほとんどないという不気味な暗黒地帯である。
その暗闇の領域を支配しているのが、**「魔族(Demons)」と呼ばれる種族だった。彼らは一様に背が高く、非常に強靭で逞しい体躯を持つ人型の存在であり、肌の色によっていくつかの氏族に分かれていた。彼らを統べるのは、古代からの極めて古い血筋を持つ世襲の魔王たちである。彼らは生まれながらにして莫大で底知れない魔力を宿しており、指一本動かすことなく、己の意志だけで周囲の自然や万物を文字通り支配することができた。こうした50の古き家系がそれぞれの領地を分割統治するその領域は、総称して『常闇の五十諸侯領(50 Dark Principalities)』**と呼ばれていた。
この世界では、ほとんどの人間が体内にマナを持っており、あらゆる種類の魔法をマスターしていた。中には世界を揺るがすような大魔導士も存在し、老師ヨウゼイもまた、極めて高度な魔法の使い手であった。
しかし、我らが主人公・春希には、生まれつきマナが**『ゼロ』であった。彼は異界の人間である「来訪者」なのだ。この世界に生まれ落ちていない異邦人のほとんどは、どうあがいても魔力を体に宿すことができず、いかなる魔法も使うことができない。
魔法が当たり前の世界で、絶対的な魔力ゼロ。春希がこの過酷な世界で生き残り、己の存在を証明するためには、マナの crutch(杖)に頼ることなく、己の手で鍛え上げた肉体と純粋な技の力のみ**で戦い抜くしかなかった。
第4話をお読みいただきありがとうございました!
ついにこの世界の全体像と、のちに春希の運命の相手となる「魔族」の存在が語られました。周りが魔法を乱舞させる中、純粋な筋肉と剣技だけで挑む春希のスタイルがここから確立されていきます。次回、ついに彼の修行の成果が試される最初の事件が…? ぜひ応援よろしくお願いします!




