第7話:見せかけの美の代償とデリバリー救世主
「おいそこ、勘違いインフルエンサー気取りの夜職女!
無理して高いヒール履いて、見栄だけでパンパンに浮腫んだその足、俺のスキルで労働の現実ごと叩き直してやろうか!?」
日陰者の怒号が響く。現代日本のサービス残業で擦り切れた全サラリーマンの怨念を込めた、ただの八つ当たりだ。だがこの狂った異世界のシステムは、このクソ長キモオタ構文を「現代社会の虚栄心を鋭く突き、労働の痛みに寄り添う高尚な聖者の説法」へと強制変換してしまう。
酒場の女の頬を、一筋の涙が伝った。
「は?」
思わず素の声が出る。女は信じられないものを見るように、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
「救世主、さま……。どうして、私が無理してこのヒールを履いて、夜の街で心を削りながら戦っていると分かったのですか……?」
「え、はあ?」
ドギマギする俺を他所に、女はガバッと俺の前に膝をついた。
「どうか……どうか私の足をケアしてください! この痛みに満ちた足を、あなたの慈愛で救ってください……っ!」
心の中で激しいガッツポーズを決める。チョロい。この世界のシステムはチョロすぎる。キモオタの妄言が大預言者並みの言葉として扱われるなんて、やはりここは天国だ。
というわけで、俺とマルタ、酒場のアリアの3人で、近くの宿屋の個室へと移動した。ベッドに腰掛けたアリアは、少し恥ずかしそうに高級ヒールを脱ぐ。ストッキングの薄い布地を、指先でゆっくりと滑らせるようにして引き抜く。
(ほう……っ! これは、素晴らしい……!)
現れたのは、都会の夜にふさわしい、一見して白くスラリとした美しい生足だった。俺は躊躇なく床に膝をつき、その足首を両手で包み込む。まずは、足フェチの基本にして至高の儀式、匂いチェックだ。顔を限界まで近づけ、すうっと息を吸い込む。
(なるほど……! 高級な香水の奥に潜む、夜通し歩き回ったことで分泌されたリアルな汗の、微かな酸味。それが、高級な絹の繊維と混ざり合って、なんとも言えない『都会の夜の頽廃』を醸し出している……!)
鼻腔をくすぐるアロマに脳汁が弾け飛ぶが、俺の手指は、彼女の足の「現実」を瞬時に感知していた。
(……いや、待てよ?)
指先から伝わる感触が、想像していたよりも硬い。親指の付け根、そして小指の側面に、不自然な皮膚の肥厚がある。さらに、足裏のアーチは崩れかけ、踵の皮膚ら劣化していた。
「……これが、見せかけの美の代償か」
俺は冷徹な、しかしどこか哀れむような声で呟いた。
「高いヒールを履いて、他人の視線より高い位置をとっているつもりなんだろ。だがその裏で、お前の足は悲鳴を上げている。いつしか歩行もままならないほどにすり減る。これが都会の、インフルエンサー(笑)どもの縮図か!」
あぶく銭を稼いで優雅に見える夜職女子が、実は重労働とストレスで身体を壊しているという、現代日本のリアルな病理。それがこの異世界の足にも現れていたのだ。
「あっ……あうっ……!?」
俺が足の硬い部分を、固有スキル『全肯定・足ケア』を乗せて親指でグッと加圧する。アリアの口から、官能的とも言える悲鳴が漏れた。魔力が彼女の足裏から全身へと駆け巡り、硬化した角質が、まるで魔法のようにポロポロと剥がれて消えてゆく。
浮腫みきっていた足首は、本来のキュッと引き締まった、最高にエロいラインを取り戻していく。
「あ、信じられない……。足が、軽い……。羽が生えたみたい……!」
施術が終わる頃には、アリアはすっかり骨抜きになり、ベッドの上で呼吸を荒くしていた。我に返った彼女は、顔を真っ赤にしながら、革の袋を俺の手に握らせてきた。
「これ……少ないですが、お礼です! 本当にありがとうございました、救世主様!」
重い音がする。開けると、中にはギッシリと金貨が入っていた。宿屋の廊下に出てマルタが
「さすが救世主様です!」
と褒め称える中、俺は金貨の袋を見つめて、ポツリと溢した。
「……なんだか、俺がデリヘル嬢みたいだな」
部屋に呼び出され、女の体をケアして、終わったら現金を握らされる。異世界で救世主になったはずなのに、俺のやってるビジネスモデルが現代日本の裏風俗と完全に一致していることに、深い虚しさを覚えるのだった。




