第3話:救世主の義務と限界集落
マルタの香りと至福の時間を堪能したあと、彼女の村の危機を救うため、救世主としての責務を伴う一歩を踏み出す。
「私の村、すぐそこなんです! 皆さん、聖者様が来てくれたって知ったら、きっと腰を抜かして喜びますよ!」
「おう、任せとけって! 救世主として、この世界の迷える子羊たちの『美脚』を救ってやるからよ!」
俺の足取りは、羽のように軽かった。夢じゃなくてリアル異世界? 最高じゃねえか。あんなクソみたいなコンプラに縛られた日本なんて国、こっちからポイ捨てだ。これからはこの世界で、エルフとか獣耳美少女とかの足を揉み、全肯定し、感謝され、ハーレム王として合法的にのし上がる。
嗚呼、これぞ救世主の特権。テンプレ万歳。トラックに轢かれてすらいないけど、足フェチが歓迎される異世界にバンザイ!と、ウキウキで村の門をくぐった俺の目の前に、地獄が広がっていた。
「おお、この御方が……! 聖者様、頼む、ワシの足も揉んでおくれ……!」
草むらから這い出てきたのは、肌の露出度が高いエルフの美女、ではなく、腰の曲がった、シミだらけの、推定年齢82歳のクソババアだった。
「ひっ……!?」
しかも、一人ではない。周囲のボロ小屋から、ゾロゾロと現れる、ババア、ババア、ババア、たまにジジイ。見渡す限り、平均年齢が限界集落一歩手前の日本の過疎地域と完全に一致している。美少女の比率、わずか数パーセント。
「ちょ、ちょっと待てマルタ! 話が違うぞ! なんだこの高齢化社会の縮図みたいな村は! デジタル庁のホームページかよ!」
「えっ? ですから、村の皆さんの足を愛でてほしいって……」
マルタは純粋な目で首を傾げる。ふざけんな。ヤングケアラーもびっくりだぞこれ。俺は多感な10代を自室のパソコン前で美少女の足裏画像を集めることに費やしてきた超エリートオタクだぞ?なんで異世界にまできて、リアルな老老介護の現場に放り込まれなきゃならないんだ。介護職舐めんなよクソが。厚生労働省に予算申請するぞ。
「おいババア! 気安くそのカサカサの、角質が硬化しきった象みたいな足を俺の前に突き出すな!俺の固有スキル『全肯定・足ケア』はな、ピチピチの美少女の足という最高の『素材』があって初めて駆動する、極めてデリケートな環境配慮型エンジンなんだよ!そんな産業廃棄物みたいな足揉んだら、俺のメンタルが環境破壊で即死するわ!」
「まあ……! なんて高尚な専門用語を……! さすが聖者様、ワシらの足の痛みを、そこまで深く理解してくださるなんて……っ!」
「いや話聞けよ!!!」
ババアたちは涙を流して拝み倒してくる。どうやら俺の暴言すら、この世界の狂ったシステムを通すと「慈愛に満ちた聖者の説法」に自動翻訳されるらしい。このクソ仕様作ったデバッガー出てこい。しかも、じわじわと周りのジジババの目が変わってくる。
「おい、早く揉めよ」
「聖者なら義務だろ」
みたいな、うっすらとした同調圧力を感じる。出たよ。これだよ。『やってくれて当たり前』の精神。ボランティア精神を搾取しようとする、あの現代日本のクソみたいな『お客様は神様』マインドが、まさか異世界の限界集落にまで蔓延してるとは思わなかった。
「……あのさぁ。救世主様がタダで労働するのが当たり前だと思ってんじゃねえぞクソどもが」
俺は、一歩後ろに下がった。俺は優しい主人公じゃない。自分の欲望のためだけに動く、最底辺のキモオタだ。
「マルタ。お前の足は最高だった。だが、この村はビジネスにならん。俺はコンプラの消えたこの世界で、資本主義の恐ろしさを叩き込んでやる」
俺はニヤリと笑い、ババアたちに向かって人差し指と親指で「金」のマークを作った。




