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足フェチが歓迎される異世界にバンザイ  作者: 足元日和


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2/21

第2話:コンプラの消えた世界で、キモオタは聖者になる

「え?……マ、マジで言ってる?」


 脳内コンプライアンス委員会が緊急アラートを鳴らす。だが、目の前の村娘は、まるで宝くじの当選者を見るような目で俺を見つめている。


「はい! 私の足なんかでよければ、いくらでも愛でてください! ああ、神様……まさかこんな辺境の村に『御足の審美眼レッグ・マイスター』様が現れるなんて……っ!」


 レッグ・マイスター。何だその頭の悪そうな、しかし俺にとってはノーベル平和賞より価値のある肩書きは。彼女は嬉々として、年季の入ったショートブーツの紐を解き始めた。


(おいおいおい、夢のくせに解像度が高すぎるだろ。革の擦れる音とか、妙に生々しいぞ)


 現実世界(令和の日本)は地獄だった。ちょっと女の子の足元を見ただけで「視覚的ハラスメント」だの「キモい」だの、SNSで一発開示請求の対象になるクソみたいな監視社会。


 ルッキズムを否定するくせに、結局はイケメンの犯罪には優しくて、俺みたいなルックスの社会的弱者がただ息をして、たまに御御足を鑑賞するだけで前科者予備軍扱いされる。


 多様性を認めろって言ったのはお前らだろ。俺の足フェチという多様性はどこに守られてるんだよ。そんな、歪んだ現代の社会問題(笑)に対する怒りがフツフツと湧き上がる。だが、この夢の中は違った。


「お、お待たせしました……っ!」


 地面に置かれたブーツ。現れたのは、真っ白で、少し汗ばんだ、それでいて信じられないほど形の整った生足だった。


「おおおおおおおおお……っ!!」


 俺は叫んだ。心の中で。現実と同じく、叫ぶ勇気はない。いや、あまりの神聖さに声すら出ない。五体投地ごたいとうちの勢いでその足元へスライディングする。


 村娘の足指を広げ、土踏まずをしつこいほどに揉みほぐすたび、村娘の可愛らしい声が森に響く。もちろん変態的探求心はこれだけでは収まらない。


 足フェチの領域において、切っても切り離せない重要な要素、それが「匂い」だ。脱ぎたてのショートブーツ。そして厚手の靴下。先ほどまで歩き回っていた彼女の足が、どれほどの至高の蒸れを溜め込んでいるか。考えただけで背筋がゾクゾクする。


「あの、ちょっ(笑)……ちょっとだけ、失礼するよ」


「えっ……あっ、何を——」


 俺は両手で彼女の足を包み込むと、そのまま顔を近づけた。鼻先が、蒸れた足裏へ、汗ばんだ足指の付け根に触れるか触れないかの距離まで迫る。


(くぅぅ……っ!! きたきたきた!!)


 ふわりと鼻腔をくすぐったのは、柔らかな少女の体臭と、革靴特有の香り、そして微かに混ざり合う、甘い香り。不快感など微塵もない。むしろ最高のご褒美だ。呼吸を深くし、肺を通して村娘の足臭を摂取する。


(うっひょーーーっ! たまらん! 蒸れてやがる! 最高のコンディションだ!!)


「あ、あの、救世主様……? その、そんなに顔を近づけられると、恥ずかしいです……。畑仕事の後だから、少し臭いかも……」


「馬鹿野郎!!!!!」


 俺はガバッと起き上がった。少女がびくりと肩を揺らす。


「いいか!? これは『単なる女の子の足の匂い』じゃない! それはな、今を懸命に生きて、代謝を繰り返した果てに生まれた『生命の香水』なんだよ!無菌室で育ったプラスチック人形じゃねえんだ! 足の独特な匂いと、微かな汗の酸味、それが靴の中で絶妙に熟成されたこのアロマを『臭い』の一言で片付ける奴は、今すぐSNSのクソみたいな炎上論争に巻き込まれてアカウント消滅しろ!!」


 一息にまくし立てた。息が荒い。我ながら夢の中まで早口で、キモオタ特有のクソ長構文オタク・ロジックを展開している自分が最高に哀れで愛おしい。


 少女は呆然としていた。


(あ、やべ。さすがに夢の住人も引いたか。コンプラ違反で夢強制終了か?)


 しかし、彼女の目から、大粒の涙がぽろぽろと溢れ出した。


「これほどまでに…私たちの労働を全肯定してくれるなんて……! やっぱり本物の救世主さま……!」


「……は?」


 救世主?聖者? 俺が?週に3日は風呂に入らず、部屋で2次元の足裏画像をスクロールしてるだけの、社会の底辺で粗大ゴミ人間が、聖者?


 その時視界の端に、日本の格安スマホの画面でも見たことのない「システムログ」のような半透明の文字が浮かび上がった。


【固有スキル:『全肯定・足ケア』が発動しました】

【対象の『魔力』が回復し、身体能力が上昇します】

【警告:これは夢ではありません。あなたの現在の社会的ステータスは『無職キモオタ』から『救世主(変態)』に更新されました】


 文字が網膜に突き刺さる。ちょっと待て。夢じゃない?てことは、今初対面の女の子に向かって、足の匂いを「生命の香水」とか力説したってことか?


「……よし、存在ごと消えよう」


 現実だと理解した瞬間、日々背中を丸めて歩いていた感覚が蘇った。

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