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足フェチが歓迎される異世界にバンザイ  作者: 足元日和


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第21話:エリートスメルと異端審問

 案内されたルミナの研究室は、王都の最高学府にふさわしい洗練された空間だった。壁一面の書架には難解な魔導書が並び、デスクの上には怪しいフラスコや魔力測定器が整然と配置されている。


「すごーい! 魔法の道具がいっぱいです!」


 マルタは相変わらず呑気に部屋を見回しているが、俺の視線はルミナの挙動に釘付けになっていた。ルミナは、上質なローファーの踵を鳴らし、デスク前の革椅子に深く腰掛けた。長い足を優雅に組み、ローブの裾から覗く黒タイツを見せつけながら、こちらを見下ろす。


「勘違いしないこと。 私はただ、正門を木っ端微塵にしたあの異常な魔力システムを、学術的に解明してあげようって言ってるの。アンタみたいな前例のないイレギュラーは、分析してモルモットにしてあげるわ」


 ドS全開のツンデレ研究者マウント。高圧的かつ傲慢で、自らが絶対に優位に立っていると信じて疑わないエリートの態度だ。表向きの俺は、エリートの理不尽な実験に付き合わされている哀れな被害者の顔をして、消え入るような声で


「は、はいぃ……」


 と怯えてみせる。だが内面は歓喜のスタンディングオベーションを捧げていた。現実世界では替の利く社会の歯車、異世界では唯一無二の救世主。上司から生産性(笑)の奴隷として扱われるの比べたら、美少女の足元でコキ使われるのは本望である。合法的にエリート美少女の罵倒を貪れる。この倒錯的な反転構造に気づいていないルミナが、いつもの調子で続ける。


「アンタの魔力ってさ、足を媒介として励起するんでしょ? 門を壊したときの姿、全部見てたわよ」


 ルミナは椅子の背もたれに体重を預け、履いていたローファーを爪先で弄び始めた。硬質な革がタイツの足先に引っかかり、小さく擦れる音が密室に響く。


「みられ…てました?」


「……学園首席の私の足でどれだけ出力が出るか、試してあげる」


 そう言うと、彼女はローファーを足先から落とし、黒タイツ脱ぎ捨てた。


「ほら、まずは『講義と実技で一日履いてたタイツ』を使いなさい。……息を吸う許可をあげるわ」


 床に正座させられた俺の鼻先へ温もりを帯びた黒タイツが突き出される。エリート魔導少女の生命活動と、知的労働のカロリーを限界まで凝縮した、高圧蒸気カプセルである。


(へぇあっっ……ッッッ!!!!)


 躊躇なく黒タイツのに顔を埋めた。その香りへの執着は、呪物的な、物神的な崇拝である。現代社会のコンプライアンスや道徳がどれだけ規制しようとも、人間のDNAに刻まれた根源的なフェティシズムの信仰なのだ。


 この世で最も過小評価されている天然資源がここにある。再生可能エネルギーや持続可能な開発目標(SDGs)だのと、偉そうに講釈を垂れる暇があるなら、世界中の首脳陣はこの温もり残る黒タイツの熱効率を今すぐ計測するべきだ。国家のエネルギー危機など、この布切れ一枚で即座に解決してしまうに違いない。


「な、なによその吸い方……っ。本当に気味が悪いわね。でも、魔力計の数値は確かに上昇しているわ。……ちょっと、変な息遣いしないでよ。波長が乱れるじゃない」


 冷たい瞳で俺を蔑み、ゴミのように扱いながらも、必死に深呼吸して体内の魔力を膨らませていく様子を見て、ルミナの白い頬もほんのりと赤く上気していく。自分が実験を主導しているという万能感の裏で、彼女の隠しきれないツンデレサディズムが満たされているのがよく分かる。


「こ、こんなの…どの文献にも載っていなかった」


 国家最高学府のエリートが、一介のキモオタのテント(魔力炉)を前に、未知との遭遇を果たした。まさにその瞬間だった。背後の扉が勢いよく蹴り開けられた。


「そこまでだ、異端者!!」


 地獄の底から響くような重低音と共に、部屋へ土足でと踏み込んできたのは、全身を鉄の甲冑で固めた物々しい教会の男性騎士達だった。


「王都の治安と信仰の平穏を乱す不届き者が、魔導学園の密室で邪教の儀式を行っていると聞き及んだ! 救世主を騙る狂人、お前だな!」


「ひぇっ……!」


 あまりの迫力と国家権力を前にして、俺は驚愕のあまり目と背中を丸め、完全なる「ダンゴムシ」と化して床に転がった。甘美な服従から一転、甲冑男のドアマットへ降格した。歩道の敷石以下の靴底テスターにされる。


「見苦しいやつだな、この街の女どもの足をケアし、あまつさえ『生命の香水』などと狂った教義を広めている思想犯め」


 騎士達が床に転がる俺を冷酷に見下ろす。


「いいか、よく聞け! 足というものはな、我ら人類が母なる大地と接する、最も厳かで、最も『隠されるべき』部位なのだ! 朽ちゆく運命(タコや角質)にあるのなら、そのまま大地に還るに任せるのがこの国の伝統であり、正統なる信仰である!」


 やってることが中世の魔女狩りと変わりない。正義を盾にした表現弾圧への不満をぶちまけようとしたが、今は恐怖で歯の根が鳴るだけで声が出ない。


「連行しろ! この男を王都魔導学園の異端審問裁判にかける!」


「え、まって、アッ――」


 背を丸めた姿勢のまま転がされ、教会の騎士たちの荷物同様引きずられていった。

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