第20話:ツンデレ魔導士の罵りは栄養剤
老害教授に門前払いをくらい、学術界の冷酷な現実の前に立ち尽くしていると、小気味いい靴音を鳴らして、先程の金髪ツインテール魔導少女が近づいてきた。胸元の名札には『ルミナ』と刻まれている。
「わあ……! 本物の魔法使いさんの服、とっても素敵です!」
隣でマルタが目を輝かせている。ルミナの仕立ての良い制服と上質な防魔ローブに興味津々である。田舎娘の素朴な反応はいつ見ても癒やされる。
「それ、みせなさい」
ルミナは、まるで道端の犬のフンでもつまみ上げるかのように、指先だけで汚いものを持つ仕草で俺の論文をひったくる。そして近くの椅子に腰掛け、おもむろに脚を組んだ。
(ふほほほふっ……ッッッ!!!!)
ローブの裾が大きく割れ、そこから現れたのは、都会のエリート魔導士にふさわしい、デニール数が高そうな「黒タイツ」に包まれた脚だった。それはまるで、夜の闇をそのまま切り取り、美少女の輪郭に縫い付けたかのような芸術。靴のストラップが、彼女の甲高で引き締まった足のラインを強調している。肉厚な太ももの圧迫感と、タイツ越しに透ける膝の艶やかさは、限界オタクの視覚を狂わせるのに十分すぎる破壊力だった。
「あのー……ルミナさん」
「きやすく呼ばないでくれる?」
氷点下の視線を送られる。元居た現実でこんな冷めた言葉をかけられれば、昆虫標本のようにその場に硬直して張り付いてしまうだろう。だがコンプラの消えたこの世界では、これが単なる「ご褒美」に変わる。外界から隔離された培養液の中で、都合のいい夢だけを見ているマトリックス状態。無菌室で育ったひ弱なキモオタにとっては、彼女が放つ猛毒の罵倒すら、極上の栄養源として細胞に吸収されていくのだ。今、歓喜の脳汁を垂らしている。
「これさ……本気で言ってるの?」
ルミナは論文を机に置き、退屈を誇示するかのように脚を組み替えた。タイツの擦れる音が心地良く耳腔をくすぐる。彼女の意識の外で無防備に動く足先、その動きに合わせて濃淡を彩る黒タイツ。俺への蔑みの目は、いっそう強度を増していた。
「……さい、あ、再現性はあります」
「なら、証明してよ」
「ちょえっ」
ルミナは退屈そうに金髪のツインテールを指先でいじり、心底つまらなそうな呆れ顔で外の景色を眺めている。
(……見た目は最高に可愛いけど、中身はハズレの風俗嬢みたいだな)
先ほどまでの都合のいい妄想の夢から一転、現実の壁が牙を剥く。俺は人生において一度も「選ばれたことのない人間(負け組)」なんだ、心の中くらいは「選ぶ側の席」に座り込んで、全能感に浸らせろ。そんな悪夢の縮図が目の前にあった。
「ここでは、ねぇ……。その、破廉恥といいますか、公衆の面前ですし」
「意味わかんない。じゃあどこなら証明できるのよ」
キモオタは、死の淵で生に縋り付いてもがく哀れな虫のように、その場でもじもじと指先を弄るしかない。ルミナはため息混じりに言葉を発する。
「二人とも、私の研究室にきなさい。そこなら道具も揃ってる」
「は、はいぃ……」
「せっかく興味持ってあげてるんだから、ちゃんとして」
ルミナは姿勢良く前を歩いていった。マルタは相変わらず呑気についていく。部屋に飾られた怪しい魔法瓶や、見たこともない魔道具への期待を膨らませている。こうして、金髪ツインテール黒タイツ魔導少女の「研究室」へ招待されることになった。既得権益の牙城である魔導学園の奥深くで、俺の変態的論文の正当性を証明するための、真の『実験』が幕を開けようとしていた。




