第19話:王都魔導学園の門前払い
浮き足立つままにギルドを後にし、インテリ系エリートが集う王都魔導学園へ辿り着く。不気味なほど恭しい扉の前で、マルタと共に立ちすくむことになった。
「これ、どうやって入るのでしょうか……」
マルタが困惑するのも無理はない。門には何やら難しい幾何学的な魔導回路のような、あるいは歯車のようなものが蠢いている。押しても引いてもびくともしない。息を上げながら試行錯誤していると、金髪ツインテールの、いかにもなエリート魔導少女が、通り掛かりにこちらへ冷ややかな蔑みの目をくれた。
地べたから見上げてくる蛆虫を眺めるために、わざわざエリート魔導少女の首の角度を下げさせてしまって本当に申し訳ない。「こんな簡単な仕掛けすら開けられないの?」 という、被害妄想の声が脳内に直接響いてくる。彼女は、頭の左右にぶら下げた自己顕示欲レーダー兼、劣等生探知機を振りながら、魔導学園の扉に魔力を流した。機械音を立てて仕掛けが次々と複雑に作動し、重厚な扉が開いていく。
「救世主さま! 魔力ですよ!」
「そうみたいだ。でも、マルタ……今日の俺の魔力は、もう萎れたよ」
「ええっ……!?」
「大抵の男はな、一回魔力を抜いたら、補充に丸一日はかかる生き物なんだよ」
賢者モード全開の俺が、ふにゃちん並みに頼りないスカスカの魔力を何度か流してみても、当然ながら扉の仕掛けはピクリとも動かない。他のエリート魔導士どもから嘲笑の声が飛び交う。
完全に力尽きて路端に座り込むと、マルタも残念そうに肩を落とした。都会の学術機関の入り口で、ホームレスのようにただ茫然と横たわっている俺を見て、マルタは意を決したように拳を握り、立ち上がった。
「救世主さまには……やっぱり、これですっ!」
何を言い出すんだマルタ、俺は今、宇宙の真理に到達した後の「賢者のまどろみタイム」を謳歌しているんだぞ。しかしマルタは止まらずなく、両手でブーツの履き口を押し広げ、踵を浮かせながらゆっくりと引き抜いていく。密着していた内張りと靴下が擦れ合い、生々しい摩擦音を立てる。衣擦れとともに現れたのは、薄手の綿靴下に包まれた華奢な足先だった。そしてその奥から、限界集落の純朴さと、都会の洗練が奇跡の融合を果たした、至高の生足が現れた。
マルタは顔を背けながら、その小さな生足を、路端に寝転ぶ俺の顔にそっと乗せてきた。長時間の歩行による汗と熱気が、指先の皮膚へ張り付いている。じんわりと湿った足指の隙間から、凝縮された若々しく甘やかな香りが立ち上る。羞恥でためらいながらも、一生懸命足を差し出しているその姿。マルタの生足の裏から放出される芳醇なピュア・マナが、鼻腔からダイレクトに脳へと注ぎ込まれる。素晴らしい。下腹部の魔法射出レーダーが、天を突くような勢いで屹立していく。魔力の自家発電が完了した。
「今なら、いけるッッッ!!」
俺は立ち上がると、有り余る魔力を手のひらに込め、目の前の扉に向かって、一思いに放出した。緻密な魔導回路も、歴史ある歯車の仕掛けも、この魔力の前にはただの選挙前の公約にすぎない。扉は音を立てて粉砕され、周囲の魔導士どもはドン引きしている。
俺はただ、エリート特有の鼻に突く閉鎖的な空気を「換気」してやっただけだ。感謝してほしい。破壊された正門を堂々と突破し、偉そうにふんぞり返る教授のデスクへと、書き上げたばかりの論文を叩きつけた。
「論文を査読してもらいたいのだが!」
老害教授は、粉々になった門の惨状を気にも止めず、こちらと論文を交互に見た後、冷酷に言い放った。
「無理だ」
「へ?」
「どこの誰だお前は? 実績は?」
「な、え……ないです」
「ふっ。実績がないなら受け取れない。査読の対象にすらならん。お帰り頂こう」
「あ、そうなんですかあ(上ずり声)」
じゃあ最初にどうやって実績を作るんだよ。ここが最初だろうが論文なんだから。内容の正確さエビデンスよりも、どこの大学を出たか、過去にどれだけ論文を書いたかという「肩書き」ばかりを重視する既得権益の老人ども。そうやって、実績のない若き天才(変態)のイノベーションを「前例がない」「ルールだから」という言葉で潰し、閉鎖的なコミュニティで自慰を繰り返すタコツボエコーチェンバーが。一生男同士で傷を舐め合ってろ。
「あーあ。帰って一人で魔力の放出でもするか」
変態的アカデミズムは完全に門前払いを食らってしまった。興醒めして振り返ると、先ほどご褒美目線をくれた魔導少女が佇んでいた。




