第16話:修道女の脱ぎたて白タイツガスマスク
「あの……君の名前は」
「エレーナと申します」
俺はエレーナの姿を、清潔な修道女のベールを剥ぎ取り、上から下まで舐め回すように眺めた。現実なら教会の宗教裁判にかけられ火炙りのため、脳内で限界まで想像する。胸元で締められた黒い修道服は、彼女の清廉なボディラインを不必要に強調している。そしてロングスカートの裾からチラリと覗く、慎ましやかながらも、確実に極上の質感を保っているであろう白タイツに包まれた足先。
(ほう……っ! 修道女の白タイツ! コンプラの消えた世界でも、これは最大級の禁忌……!)
「おい、条件を追加だ。こいつらを片付けたあと、エレーナの足ケアも行う。いいな! 返事は『はい』か『イエス』だ!」
「えっ? は、はい……? 私の足でよろしければ、いくらでも捧げますが……」
契約成立だ。俺は意気揚々とベッドの老人たちに向かって飛び出した。聖者としての義務(※エレーナの生足)を果たすため、俺は最初の老人の、雑多なゴボウみたいな足を摩り、ツボを押してゆく。
「……アカン、無理。ギブアップ」
開始わずか1分、盛大に白旗を掲げた。あまりの不快さと、長年蓄積されたであろう老人の足の異臭に、熟成されたワインのような角質爆弾に、体の穴という穴から魂が吹き出しそうになった。魔力を納めすぎて枯渇した高齢受給者の足は、想像を絶するほど手強い。加えてマッサージされている老人どもが
「あ〜、そこそこ。そういえば昔の王様はもっと優しくてなぁ……」
噛み合わない冷や水をダラダラと浴びせてくる。認知の歪んだ高齢者の世間話を聞き流すだけでも、ナイーブな陰キャメンタルはガリガリと削られた。
「一回、タイム。退散!!」
たまらず療養所の裏口から外の路地へと逃げ出した。
「救世主さま、お身体は大丈夫ですか……!? 短時間で魔力を使いすぎたのでしょうか」
心配そうについてきたマルタとエレーナが、俺の顔を覗き込む。
「そうだな、そう、そうなんだよ……。はぁ、はぁ……ん? 魔力か」
息も絶え絶えに、休憩がてら2人の足元を眺めていた俺の脳裏に、電流のような閃きが走った。魔力。この世界におけるエネルギー。そして、俺の魔力の源泉は、いつだって『美少女の足』だったはずだ。
「あ、あのさエレーナ。よければなんだけどさ。ふふっ、いや、あの、その、しろ、白タイツ貸してくれない!?!?(限界早口)」
「えっ……!?」
エレーナは目を丸くしながらも、俺のあまりの形相と変態の覚悟に圧され、大人しく靴を脱ぎ始めた。じわりと汗ばんだ彼女の指先が、白タイツの反発を緩め、踵から足先へと引き抜いていく途中、圧縮された修道女の熱と蒸れが解放された。
「あの、1日履いてて、少し恥ずかしいですけど……。これで、いいのですか?」
エレーナから差し出された、体温の残る脱ぎたて白タイツ。それを電光石火の早さでぶんどると、芳醇な御加護の香りが空気中へ揮発して逃げないうちに、一番蒸れと匂いを凝縮させたつま先辺りで鼻と口を完全に覆い、救済の装束のごとく装着した。即席の『ガスマスク』の完成である。
(……スゥゥゥゥウウウウウハァァァアアアアアッッッ!!!!)
脳内にエレーナの純朴な、拝礼と努力の結晶、母なる大地を踏みしめた恩寵を賜り、肺胞の空気をダイレクトに浄化する。神格化を好む崇拝者への、最も残酷で即効性のあるリアリズム、偶像崇拝への無慈悲な解毒剤である。魔力がかつてないほどの勢いで、体中から急速に湧き上がってくる。細胞の一つ一つが歓喜の雄叫びを上げた。
(突撃ぃぃいいぃぃぃぃ!!!!(心の中の大声))
俺は療養所の扉を蹴り開けて再び突入した。股間のテントをパンパンに膨らませ、社会の倫理を置き去りにした無敵の状態で、長年の人生の成果を溜め込んだ老人の足を次々とほぐしてゆく。
不思議と不快感はなかった。どれだけ眼前に地獄が広がっていようが、呼吸するたびに肺に満ちるのは『エレーナの脱ぎたて白タイツの匂い』なのだから。美少女の残り香を堪能しながらの、国家的な社会福祉活動。えも言われぬ甘美なエロティシズムに包まれながら、俺の精神は、民を救う『聖人』と、欲望のままに突き進む『俗人(変態)』の境目を激しく往還していた。
足を揉まれた老人たちは、まるで回遊魚のように次々とベッドの上で生き返り、体内の魔力を急速に回復させ、療養所から飛び出していく。
「おお、歩ける、歩けるぞい……!」
「聖者様の奇跡じゃあ……!」
股間をテントにした白タイツガスマスク姿の変態が、老人の足を高速で揉みほぐしては、国家の崩壊を食い止めていくという、王都の歴史上、最も狂気に満ちた救済劇であった。教科書の一ページに載ることを祈る。




