第13話:ご長寿大国の国政
王都の豪華な客室で紅茶(もちろん紙ストローではない)を飲んでいると、ついにこの国の最高権力者が入ってきた。従者に両脇を支えられながら、一歩進むごとに骨がパキパキ鳴りそうなよぼよぼの爺さんだった。
「……ッ、……ッ……」
口を金魚のようにパクパクと動かし、数秒ほど遅れてから、しわがれた声が部屋に響く。
「……その方が、救世主さま、か……」
年の功とは腹話術のことか。声のトーンと口の動きのタイムラグが、昔の海外映画の吹き替えレベルでズレている。
「救世主に対して、あんな対応はないでしょう」
俺が不満をぶちまけるが、じいさん国王の耳には届いていないのか、話が全く噛み合わない。隣ではマルタが国家元首を前に完全に脳がフリーズし、彫刻のようにガチガチに固まっている。国王は、焦点の合わない目でマルタをぼんやりと見つめた。
「そこの、娘よ……。君が、救世主さまを……見つけたの、かね……?」
「は、はいぃぃ……っ!」
マルタが裏返った声で返事をする。すると国王は
「ほう、か……」
とだけ言い残し、そのまま魂がどこかへ飛んでいったように呆けてしまった。
(おいおいおい、なんだこれ。ここは老人ホームのレクリエーションか?)
学校の体験学習で行かされた介護施設の光景が脳裏をよぎるぞ。じいちゃんの繰り出す超スローマイルドアタックに、周りの大人が気を遣って「お上手ですね〜」って拍手するあの時間か?これが異世界国家の政を決めているトップの姿かよ。どこかで見た事があるな。
国会を見渡せば平均年齢が限界突破したおじいちゃんたちが居眠りし、若者の未来を左右する法案を感覚だけで決めている。異世界にきてまで「ご長寿大国(老害社会)」の縮図を見せられるとは思わなかった。すると、国王の横に控えていた従者が、申し訳なさそうに一歩前に出た。
「救世主様。現在、我が王都にはあなたのように御御足を癒やす『フットケアラー』が一人もおりません。どうかそのお力をお貸しいただきたいのです。そのためにも、まずは王都での活動許可を兼ねた『身分証明書』を作成してください」
「え? 魔法でなんとかしてよ。異世界でしょ?」
「は、はい?」
せっかくファンタジーの世界にいるんだ。王様が「許可する!」と一言叫んだら、全身が光に包まれて登録完了、みたいなシステムはないのか。従者は困ったように眉を下げている。
「はは……仰っている魔法の仕様が、私どもには少し難しいようで……。とにかく、まずは『中央役所』へ行っていただき、申請書に必要事項を記入のうえ、手続きを行ってください」
異世界にまで役者があるのかよ、あの無駄なペーパーワーク。魔法が進んでいるはずの世界で、わざわざ紙の書類に名前と住所を書かせて、窓口をあっちこっちタライ回しにする現代の闇。救世主に頼み事をしておいて、まずはハローワーク的な窓口に並べってか? どこまで労働者を舐め腐ってんだ。
当然、この「役所への自分勝手な八つ当たり」も、この世界の仕様によって「国家の官僚制の硬直化と、民の利便性を無視した行政構造への神聖なる一喝」へと強制翻訳される。
「魔法に頼らず、まずは手続きという『制度の壁』を体験されることで、我が国の役人どもの傲慢さを炙り出そうとされるとは……! どこまで深く国を憂いていらっしゃるのだ……っ!」
従者は涙を流して感動し、国王は相変わらず口をパクパクさせている。
「おいマルタ、行くぞ。王都の役人がどれだけ無能か、俺の固有スキルでハラスメントしてやる」
「あ、はい、救世主様……!(おじいちゃん怖かった……)」
こうして俺とマルタは、王城の客室から直行で、王都の最悪なコンプラの伏魔殿、『中央役所』の窓口へと送り込まれるのだった。




