第12話:夏にサンダルを履く女は二流
鉄格子の隙間から投げ出された、女盗賊の足をじっと見つめた。都会の喧騒を闇に紛れて駆け抜けてきた者特有の、極めてしなやかなふくらはぎのラインを描いていた。
「もしかしてさ……君が最近噂になってる、救世主とかいうやつ?」
フードから流れる鎖骨辺りまでの髪を弄りながら、女盗賊が面白そうに目を細めて俺を覗き込んできた。
「あ、え、えーと。まあ……その……」
「へぇー、やっぱり。じゃあさ、私の足、ケアしてよ。毎日泥棒稼業で、もうパンパンなんだよね」
話が早い。牢屋越しに足のやり取りを開始する。俺は吸い寄せられるように鉄格子に這い寄り、彼女の使い込まれた革製のブーツを丁寧に脱がした。そして、おもむろに足ケアを開始する。まずは、足フェチの儀式であり義務、きつく蒸れた匂いの堪能だ。顔を極限まで近づけ、鼻腔の奥までその空気を吸い込む。
(……ッッッ!!!!)
長時間の着用による足先の体温、逃げ場のない汗の僅かな揮発、そして女の子特有の足の香りがブレンドされた蒸気を吸入し、大脳皮質へダイレクトに強烈な刺激が走る。素晴らしい。やはり女の足というのは、きつく蒸れて臭い方がよいのだ。
現実世界(令和の日本)の夏を思い出す。奴らどいつもこいつも「暑いから」とかいう安易な理由でサンダルを履きやがって。なにも分かっていない。通気性を確保してどうする。蒸れを逃がしてどうする。そんなものは足フェチに対する冒涜であり、エンタメ精神の欠如だ。夏にサンダルを履く女は全員二流である。汗と熱気が逃げ場を失い、靴の中で極限まで濃縮されたあの黄金のアロマこそが至高なのだ。
心なしか、俺のあまりの熱量に、女盗賊も少し頬を赤らめて照れている気がする。だが俺の暴走は止まらない。汗が染み込んで、最高のコンディションを保つ彼女の靴下の匂いを堪能しながら、マッサージでほぐし、仕上げにその指の間を舐め上げた。
「ああっ……! すごい…… 本物……本物の、救世主……っ!」
女盗賊は鉄格子に身を預けたまま、恍惚の表情を浮かべてガクガクと震えていた。
「おい、何を騒いで……ひっ!?」
見回りに来た看守が驚愕のあまり武器を落とす、俺が女盗賊の足指を舐め上げ、女が絶頂しているという地獄のような一部始終を目撃した。普通なら一発で死刑確定の狂気。だが、この世界のクソ仕様は、これらの行為を「牢獄の罪人すら慈悲の心で癒す、本物の救世主の奇跡」へと脳内変換させる。
「ま、まさか……! 衣服の汚れに囚われず、罪人の足を自らの口で清められるとは……! 本物の聖者様だったのか! す、すぐに客室へご案内しなければ!!」
震える手で牢の鍵が開けられ、なぜか貴賓用の客室へと案内されることになった。
「……ハッ。まず謝罪からじゃないのか?」
俺はフンと鼻を鳴らし、看守のハゲ頭を睨みつけた。疑っておいて、間違っておいて、聖者だと分かった途端に「いや〜失礼しました!」で終わりかよ。訂正のニュースも謝罪の文面も出さずに、何食わぬ顔で次のトピックに移る、宛ら最近のメディアのようだな。まったく。誰だよ、俺を「犯罪者の挙動だから投獄だ」って言った奴は。
メディアの印象操作で一人の無実のオタク人生がどれだけ狂うか分かってんのか。そんな、マスコミへの恨み(笑)を早口でぶちまけたが、看守たちは
「メディアへの警鐘を鳴らされるとは、どこまでも高徳なお方……っ!」
と涙を流して平伏している。信仰心などこの程度のものだ。もうダメだこの世界。外で待たされていたマルタも、びくびくしながら俺の後ろに続いて客室に入ってくる。こうして、王都の正門で即タイホされた俺は、国家最高レベルの国賓として、王都のVIPルームへと君臨することになったのだった。




