第11話:冤罪の檻と黒歴史
逃げるように商業都市グランセルを後にし、俺たちはついにこの国の中心、『王都』の正門へとたどり着いた。
「はぁ……やっとついた……」
マルタが万歳をして歓声を上げているが、万年運動不足の限界キモオタの身体はすでにバキバキだ。最後にこんなに歩いたのはいつだろうか。小学生の頃、休み時間に元気に蹴鞠に興じていた時以来か。
あの頃はまだ無邪気だった。いつしか中学、高校と進むにつれ、体育の時間はただの苦痛に変わった。サッカーをやればボールから逃げ回り、グラウンドの隅に突っ立っているだけなのに、なぜか過呼吸になるほど息苦しかった。まあ、そんなクソみたいな過去の回想も、隣で歩くマルタの引き締まった足を眺めれば全て解決されるのだが。
「よしマルタ、入ろう。中で俺の救いを待っている美少女たちの生足が待っている!」
俺が鼻息荒く門をくぐろうとしたその時、フルプレートアーマーに身を包んだ、いかつい門番が立ち塞がった。
「身分証を」
「へ?」
「身分証を持っていないのか?」
「あ、いや、えっと、その、あ、あのー……」
完全にコミュ障が発動した。助けを求めようとマルタを見ると、彼女は都会の兵士の威圧感に怯えて首をブンブンと横に振っているだけだ。頼りにならん。所詮、俺はネットの海だけで無敵を誇っていた弁慶だ。強いのは自室での独り言だけ。こうしてリアルな国家権力を前にすると、何も悪いことをしていないのに、挙動が完全に犯罪者のそれになってしまう。目が泳ぎ、冷や汗が吹き出し、身体が小刻みに震え出す。
「怪しいな。スパイか、さもなくば犯罪者か。投獄だ」
「ちょ、ちょっと待っ、え、ちょ笑」
ガシャン、と重苦しい音を立てて鉄格子が閉まる。抵抗する間もなく、俺は王都の地下牢へと放り込まれていた。
薄暗い牢屋の隅で、俺は膝を抱えて丸くなった。鉄格子の向こうでは、マルタが今にも泣き出しそうな目でこちらを見ている。すまんマルタ、救世主のはずの男が、王都の土を踏む前に前科一犯になった。周りを見渡すと、他にも犯罪者らしき連中が収監されていた。別の檻には、露出度の高いレザー装備を身にまとった「盗賊の女」と、大斧を背負っていそうなワイルドな「山賊の女」がいる。いかにもWeb小説の序盤で主人公にボコられるタイプのモブだ。その山賊の女が、退屈しのぎとばかりに鉄格子に背を預け、こちらを睨んできた。
「おい、おい。そこの男」
「ひいっ……!」
「お前、そんな情けない面して何したんだ? 密輸か? 追剥か?」
「な、何もしてません……!(震え声)」
畜生。本当に何もしてないんだ。ただ挙動がおかしかっただけで犯罪者扱いかよ。現実世界の記憶がフラッシュバックする。あそこも地獄だった。満員電車で偶然女子高生の後ろの位置になってしまっただけで、周囲の乗客から「痴漢予備軍」を見るような軽蔑の目を向けられていたあの頃が懐かしいな。
高校時代、クラスの誰かの上履きが盗まれた時にも、担任のクソ教師は真っ先に俺の机の周りを疑いやがった。ふざけるな。まあ、確かに放課後の下駄箱で、その上履きの匂いをテイスティングしていたが、盗んではいない! 現場からは一歩も持ち出していない!だから『上履き泥棒』としては完全に冤罪だ。俺のピュアなフェティシズムへの風評被害だ。
そんな、脳内では完全有罪のクズロジックを心の中で熱弁していると、隣の檻から盗賊の女が呆れたような笑い声を漏らした。
「ふふっ、君おかしいね。ただの書類不備で捕まっただけなのに、怯えすぎ。何か他に、後ろ暗いことでもあるんじゃないの?」
盗賊の女が、檻の隙間から細くしなやかな「足」を投げ出し、足先を動かして俺を挑発するように見つめてきた。




