第10話:選挙演説という名の推し活
意識高い系のクソヴィーガンカフェを抜け出し、お口直しにまともな肉の店でも探そうと適当に歩いていると、広場の方から騒がしい人だかりが見えてきた。見れば、王政の選挙演説の真っ最中だった。お立ち台の上で声を張り上げているのは、いかにも見目麗しい、貴族上がりのボンボン女政治家だ。
「この国はこのままではダメです! 異国の民を差別し、性別を軽視している! 挙句の果てに、軍事力を強化して隣国を刺激するだなんて言語道断です! 我々が力を合わせ、他国との衝突を止めるのです!」
綺麗事である。あまりにも中身のない、耳障りだけが良い綺麗事のオンパレードだ。演説が終わると、その貴族女は集まった聴衆の一人一人と、愛想よく感謝の言葉を述べながら「握手」を始めた。
(政治の実態なんて、結局はアイドルの握手会みたいなものかよ)
集まっている連中を見れば一目瞭然だ。エビデンスなどの客観的事実よりも、自分の思想を優先する偏向主義者、小汚い見てくれの社会不適合者、そして彼女の容姿目当ての限界キモオタどもが、我慢汁を垂らしながら長蛇の列をなしている。令和の日本の地下アイドルの物販列と完全に一致している。
「聖者様、あの人とても人気な方です! 私、辺境の村にいた頃からポスターで見たことあります!」
マルタがまた、おのぼりさん全開で目を輝かせている。俺は彼女の肩を掴み、グイと視線を逸らさせた。
「いいかねマルタ、目を合わせるんじゃない。あの女の、ビジネス用に張り付いて引き攣った笑顔が見えないのかね、きみ」
このやってる感を出すためだけのパフォーマンスが本当に反吐が出る。公金を吸い上げ貴族の館で会食している暇があるなら、お立ち台から降りてさっさと実務に取り掛かれよ。俺たち一般労働者は、毎日そうやって血反吐を吐きながら働いているんだ。今日初めて会っただけの、理不尽極まりない取引先の人間に、生きていくためだけに必死で頭を下げているんだぞ。あんたらが『大変そうに政治活動(笑)やってます』ってアピールしてる泥臭い仕事を、俺たちは365日でやってんだよ。
国民に夢と希望を与えるはずの政治は、もはやキモオタの妄想を搾取するアイドルビジネスと同義だ。自国のインフラや国民の営みがままなっていない限界集落(ババア村)があるっていうのに、何が差別撤廃だ、何が他国との衝突回避だ。足元すら見えていないくせに、他所にばかり目を向けている暇があるのかよ。
さすがグローバリズム、聞いてるこっちの耳が腐りそうだ。もちろん、この「ただの一般サラリーマンのルサンチマン」も、世界の狂った仕様によって、最上級の『国家の根幹を揺るがす聖者の神託』へと翻訳される。
「ハッ……! なんという恐ろしい慧眼……! 国民の労働を真に理解し、我が党の空虚なマニフェストの本質を剥ぎ取るとは……っ!」
お立ち台の上の女政治家が、俺の言葉(翻訳後)を聞いた瞬間、ガタガタと震え出してその場にへたり込んだ。周辺のキモオタ信者どもが
「聖者様の御言葉だ……!」
「我が党は間違っていたのか……!?」
一斉に五体投地を始める。
「おいマルタ、今のうちにずらかるぞ。アイドルの炎上騒ぎに巻き込まれるのは御免だ」
「あ、はい……っ!」
俺たちは混乱するグランセルの広場を後にし、そのままの勢いで商業都市を脱出した。やはり都会は、人間を傲慢にするクソみたいなシステムが多すぎる。
「救世主様、次はどこへ向かいましょうか?」
「決まってる。もっとデカい場所だ。この世界のすべての既得権益と、最上級の美少女の足が集まる場所……」
街道の先にあるこの国の中心『王都』の方向を指差した。コンプラの消えた世界で、俺の足フェチという多様性を真に開花させるための、本当の戦いがここから始まるのだ。




