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第五章 水面に浮かぶ月~月島渚~

第五章 水面に浮かぶ月~月島渚~

 俺は月島渚。俺は男であるが、美人という言葉が似合うだろう。昔は嫌だったが今はそれも悪くないと思っている。俺には幼馴染がいて、高遠文哉という男子だ。あいつ、自己評価は相当低いし、口も悪いし、他の人間と絡もうとしない。しかし、俺だけが知っているこいつの良さがある。それは誰よりも他人のことを考えているのだ。口が悪いのに他人のことを考えているのかって?実は考えているんだよな~こいつは。文哉は自分といると俺の評価が下がることを気にして、俺とは仲良くしない。自分が一人になることよりも、俺のメンツを気にする馬鹿野郎なんだ。そんな文哉の意思を俺は無下にし続けている。なぜかって?俺があいつを気に入っているからだよ。

 しかし最近の文哉はどこかおかしい。やたらと機嫌がいい。俺と話すときは相変わらず悪態をつくが、一人でいるときはどこか穏やかだ。それに本も読まずに窓の外を眺めていることもある。変だ。

「おい、渚!何してんだお前!」

うるさい声が聞こえた。体は小さいのに、声と態度は大きい俺のクラスメイトだ。

「なんだよミト」

こいつの名前は月見美兎。中学からの知り合いだ。

「他クラスの入り口でずっとこそこそして気持ち悪いぞ!恋する乙女か!」

恋する乙女。違うと言いたいが、否定しきれない。俺の知らないところで変わっていく文哉が少し気に入らないんだ。小学校から同じで、あいつのことを誰よりも理解しているつもりだった。だからこそ、わからないというのがどうしようもなく気持ち悪い。

「ぼーっとしてないで行くぞ!次の授業始まる!」

強引に俺の腕を掴み、引っ張って行く。体は小さいが、流石強豪バスケ部のスタメン、帰宅部の俺では歯が立たない。そのまま美兎に連行されていく。抗う術はない。

「よっ!お似合い夫婦!」

「ふ、夫婦って呼ぶなぁ!」

満更でもなさそうに美兎は応える。どうやら俺に気があるらしい。しかし、俺は生まれてこの方、女子というものにあまり興味がない。興味があるのはあの不器用バカだけである。しかし、毎日あいつのところへは行けない。そうすればあいつは本気で俺のことを避けていくだろう。

「また文哉かよ」

「え?ああうん」

唐突な質問に吃驚する。

「あいつのどこがいいんだよ。なんか陰気臭いし、誰ともつるもうとしないし…」

これだから文哉ド素人は…まあ、あいつの良さを知っているのは俺だけでいいが。あいつの隣には俺だけが居ればいい。だけど、最近、少し考える。文哉にとって俺は、水面に浮かぶ月みたいなものなのではないかと。凪いでいる時はちゃんと見える。でも波が立てば、簡単に見失われる存在。

「美兎には関係ないよ…」


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