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第一章凪のような放課後

第一章凪のような放課後

 まばらに埋まった席と、レジに並ぶ人々。ドーナツ屋の角席に座ってホットコーヒーを啜り、小説を読む。僕のいつもの放課後である。コーヒーのおかわりは無料という破格のサービスが僕をここに誘っている。マスターと二人きりになるカフェや呪文を言わなくては商品を購入できない場所とは違い、程よい人の数と、注文のしやすいこの場所を僕は愛している。

 僕の名は高遠文哉。高校二年生である。放課後でありながらも僕のスマホは静寂を好む。しかし、そんな静かな生活を僕は謳歌している。そもそも、他人といる時間というのは僕にとってストレス以外の何物でもない。相手の思考を読めるエスパーなら話が別かもしれないが、そんなことはできない。人の沸点とはわからないものだ。だから僕は沸騰しない本が好きなのだ。相手に共感するだけの会話は苦手である。

「これもか。」

誰にも聞こえない声量で呆れたように独り言を漏らす。僕がつまらないと思ったこれはよくある王道の恋愛小説である。運命の出会いという名のご都合展開に、僕は辟易していた。主人公が知り合う以前からヒロインが知っていた。そんなありふれた小説に嫌悪感を抱く。そんなことを思うならば恋愛小説など読まない方が良いのかもしれない。しかし、それでも僕は恋愛小説に拘ってしまう。理由は僕にもわからない。

 お気に入りの栞を挟み、店を出た。波ひとつない水面のようにいつも通りの放課後である。まさか、この放課後があっさりと崩壊するとは、この時の僕は知る由もない。


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