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プロローグ

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『ハッピーエンドは…好き?』


王道なハッピーエンドが嫌いだった。出会って運命を感じ、ロマンチックな告白で付き合う。そんな恋愛、この世のどこにあるというのか。こんなものが好きなやつの脳みそには、さぞ綺麗なお花畑が広がっているのだろう。恋愛は少しずつ距離を詰めて相手と心を交わし、告白はただの確認作業である。それが僕の理想であった。あくまで“あった”である。

「若さは恐ろしい。思い出すだけで過去の自分に説教したくなる。」

そんな思い出したくもない負の遺産は、僕の人生の中で一際異彩を放ち、首から下げたなんの変哲もないピンキーリングを見る度に思い出してしまう。しかしながら、僕の若さは負の遺産であると同時に翼だった。

そんなことを思い出していると、つい自分がここにいる理由を忘れてしまいそうになる。今日は水族館に行く予定なのだ。なのに、僕はなぜか水族館近くの公園のベンチに座っている。一緒に行くと約束した相手はスマホのアラームと喧嘩をしてしまったらしい。

『ごめん寝坊しちゃった!遅刻しちゃいそうなんだけど、もう家出ちゃった?』

こんな時、世の男性はどのように返すのだろうか。少し返信に迷いながらもメッセージを返す。

『今出ようと思ってた。少し遅れて家出るね。どれくらい遅れそう?』

嘘をついた。まだ集合時間の1時間前ではあるが、僕は集合時間の30分前にはいつも到着している。彼女は知らない僕のいつも通りである。

『今から準備するから結構遅い!行けそうになったらまたラインする!』

そんなメッセージが届いた時、僕の目の前には水族館が見えていた。水族館は少し臭かった。これが海水の臭いなのか、生き物の体臭なのかはわからない。わかる必要もない。今重要なのは彼女がどの程度遅刻するかだ。それによって考えていたプランを変更せざるを得ない。しかしながら相手の家から水族館は近いので、そこまで時間はかからないだろうと、朝の喧騒が静まった頃の僕は呑気にそう思っていた。

『化粧長引く!ごめん!』

『化粧しなくても可愛いよ』

『しないとダメなの!』

いつものように僕を困らせる。でも、彼女はそれでいいのだ。しかし、午前中に行くはずだった水族館は、僕の影が消えてしまいそうになる今でも行けそうにはない。熱い太陽の日差しから逃れるため、日陰のあるベンチに腰を下ろし、人を待つ。ピンキーリングを見つめながらまた昔の自分を思い出す。

どれだけ時間が経ったのだろうか。気づけば、せっかく逃れたはずの太陽が近くにあった。

「ごめんね、遅くなって!」

この暑さのせいで僕はスマホの通知に気づかなかったらしい。おもむろに立ち上がり、いつものセリフを吐く。

「大丈夫、僕も今来たところ。今日もかわいいね。」

あの日から数年が経った今でも僕は、彼女の前でバレバレな嘘を吐く。なんの意味もないその嘘を。


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