第5話 虫喰
◇◇◇
〜森〜
ニトさんに連れられ俺は森に来た。能力、試してみようという言葉、森、嫌な予感しかしない。そして、その予感は見事に的中した。
「はい、あーん」
「あーんじゃねぇよ!!」
あーんと俺に食べさせようとしたもの。それは紛れもないダンゴムシだ。しかも、なんか角の生えたやつ。マジで気持ち悪い、吐き気がする。
「魔王倒すために食わないとダメじゃん、ちっちゃいし行けるよ」
「それはそうだけど! 嫌なもんは嫌なんだよ!」
逃げても逃げてもあの天使は追いかけてくる。どんだけ食わせたいんだろう。確かに、食べないと強くなれないが、それでも心の準備ってもんがある。走り回ってると、ニトは動きを止めて、何かを唱えた。
「聖音 縛螺」
何かを唱え終わると、俺の体は途端に動きを止めた。俺が止めたのではない、勝手に動きを止めたのだ。よく見ると俺の体に光の釘が打たれている。痛み……は感じないが、本当に身動きが取れない。……まさか、まさかこの状態で、動けないこの状態の俺に、無理やり食べさせる訳じゃないよな、この天使は……!
「な、なんで動かない……!?」
「あなたがちょこまか逃げ回るから、動きを止めたのよ。じゃ、あーん」
「ぁ、あぁ……」
少しずつ近づく美少女、本来ならば嬉しい場面なのだろうが、今は地獄でしかない。こいつは天使なんかじゃない。悪魔だ。……なんだあいつ! 笑ってやがる! 俺は泣きそうだってのに笑ってやがる! この、クソ天使! なんとか抵抗して口を開けないようにすると、ニトはこう言う。
「もう、こんな美少女にあーんして貰えるのよ? 拒否なんか、するんじゃないわよ!」
ニトがそう言うと同時に俺の口の中にダンゴムシが投入された。幸い、ダンゴムシは丸まったまま。この時、俺の脳内にはとある考えが浮かんだ。それは、今飲み込んでしまうという事。この虫は今、丸まっている。ならば! 今! 飲み込めば気持ち悪い思いせずになるかもしれない! ……いや、今も気持ち悪いのだけど。でも、動き出すよりはマシ。
行くぞ! 飲むぞ! 飲む……………………いや無理だろ。普通に無理だろ。丸まっていても虫は虫だ。丸まっているダンゴムシを飲んでくださいなんて言われて、素直に飲む人はそうそういないだろう。どうしようと考えてた時、ダンゴムシが動き出した。俺は……飲み込んでしまった。驚きと恐怖から、不本意ながら飲み込んでしまった。
「……お゛ぇ」
「あ、飲み込めた? もー、そんなんでへたり込んでたら魔王なんて倒せないわよ?」
こいつ、俺の気も知らないで……! とにかく、飲み込めたのはよかった。良くないけど。でも、これで能力が使えるようになるのか、なら、まぁ、いいか。
「……で、どうやって特異能力を発動させるんだ?」
「詠唱で発動するわよ。ちなみに特異能力の名前決まってる? 決まってないなら今決めちゃいなよ」
「詠唱?」
「そう。でも、あなたのって神様からの貰い物でしょ? となると詠唱は分からないわね、まぁいいや。能力名決めて、それを唱えれば一応発現するわ」
「能力名……虫食べる能力だしな、虫喰でいいや」
「なにその名前。ダサいわね」
天弩にだけは言われたくない。
「じゃあはい。虫喰って唱えて」
「虫喰……っ!?」
唱えるとすぐに体に異変が起こった。唱えた瞬間、喉の奥が焼けるように熱くなった。胃の奥でなにかが蠢く。まるで無数の小さな生き物が体内を走り回っているみたいだ。
「うっ……なんだこれ……!?」
背骨がミシミシと軋み、背中の皮膚が盛り上がる。骨が押し広げられるような感覚とともに、背中に硬い殻が生えてきたようだ。黒光りする装甲、筋のように分かれ、丸みを帯びた背甲、腕にも金属のような光沢のある外骨格が纏わりついてくる。俺は自分の腕を見た。関節には鋭い装甲。指先には小さな爪。虫というより、甲冑のような感じがする。
しかし、その変化は右腕から背中にしか見えなかった。顔はそのまま。どうやら、右腕から背中にしか発現しなかったようだ。まぁ、いきなり全身は強すぎるか。
「ニトさん、どんな見た目?」
「意外といいんじゃない? 気持ち悪くはないわよ」
まじか、ならいいかもしれない。正直、こんな辛い思いしてダサい見た目だったら普通に病んでた。
「で、解除はどうするんだ?」
「普通に力抜いたら解除できるわよ」
なるほど、力を抜く……
……
…………
………………
お、ほんとに戻った。便利だな。で、俺は思いついた。俺1人じゃ絶対魔王を倒せない、だからこそ!
「それで、折り入ってお願いがあるんですけど」
「なに?」
「魔王倒すの手伝ってくれませんか? 一人で絶対倒せないと思うんですよ。ニトさんみたいな強い人、天使か。強い天使がいた方がいいと思ったんですよ。もちろん! ニトさんのお願いも聞きますよ」
ひとりじゃ絶対無理だ。どうにかここで頼むしかない。
「無理よ。私には成すべきことがあるの」
「そこを何とか!」
「無理ったら無理なのよ、あなたにも同情するけど、それでも自分を優先するわ」
「……成すべきことってなんですか?」
「なんであなたに言わないといけないのよ」
「もしかしたら、魔王を倒す道のりで、その成すべきことに繋がることがあるかも知れませんよ!」
「……まぁ、あるかもしれないけど」
「もちろん、俺もその成すべきことに協力します。一人でやるより二人でやった方が達成率は上がると思うんですよ!」
「……まぁ、まぁそうね、」
「どうです? 一緒に行動しませんか? ニトさんは俺の魔王討伐に手伝ってもらって、俺はニトさんの成すべきことに協力する。ギブアンドテイクですよ」
「……んー」
「ね? 悪い話じゃないでしょ?」
「…分かったわよ、手伝ってあげるわ」
「! ありがとうございます!」
「ただし、私にもちゃんと協力してよね」
「もちろんですとも! これからよろしくお願いしますね、ニトさん」
良かった、ひとまず安心だ。持ちつ持たれつの関係ならどっちもありがたいだろう。
「あと、これからやっていくんだからそのニトさんっての、やめて。呼び捨てでいいわよ」
「でも」
「いーから」
まぁ、これから長い付き合いになるか、
「それじゃ、これからよろしく。ニト」
「ん」
こうして、俺は1人の天使と共に、異世界から帰るための魔王討伐を目指すこととなった。あと、ニトがいれば無理やり虫を食わしてくれるだろう。自分から食べるなんて死んでもごめんだね。
◇◇◇
食べた虫紹介のコーナー
今回の話で食べたのは
《クロガネダンゴ》
漢字にすると黒鉄団子
クロガネダンゴはカルボナラー大陸、ペペロンツナ大陸の両大陸でよく見られるダンゴムシ。
肉食で他の虫の死骸やミミズ等を食す。
体長は最大で2センチ。
特徴としては青い目と青い角。
食べた感想は、殻はガリッと肉は意外とジューシーで、味は鶏肉に似ている。
食べた虫紹介のコーナーでした。
◇◇◇
第5話 虫喰 完。




