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第2話 異世界なんて行きたくない

「単刀直入に聞くけど……君異世界行ってくれない?」



「えっ!」

 まじか! 神様から直々にお誘いが来た、こんな事あるんだな。しかしなんで俺なんだ? いやそこじゃないか。なんで異世界に行って欲しいんだ? なんてことを聞こうとしたら、聞く前に女神から話してくれた。


「いや実はね? その世界に《《魔王ククラロゥトカ》》って奴がいんだけど、そいつが手ぇ付けられなくてね。それで、その魔王をぶっ倒して欲しいんだよね」

 なんてテンプレなんだ……っ! こんなありきたりな設定の異世界があるのか。


「今まで何人も異世界に送ってきたんだけど、みんな帰ってこないんだよねぇ」

「みんなに能力とかあげてるのに、上手く使ってくれないしー」

 女神は呆れたような、拗ねたような、何とも言えない顔をしながら言った。みんな帰ってこない、つまり魔王討伐を達成できなかったのか。はたまた……死んだのか。そんなの分からないけど、とりあえず1つだけ気になる事がある。


「なぁ。女神さんはなんで俺を選んだんだ? 確かに異世界行きてーとは思ったけど、そう思ってる奴はこの世界にいくらでもいるぞ?」

 女神に言った通り、異世界に行きたいと思ってる人なんて俺以外にもいくらでもいる。その中から何故、わざわざ俺を選んだのか。なにか特別な理由でもあるのか? 実は俺が勇者の系譜とか? 女神は腕組みしながら少し考え、答えを出した。

 しかし、その答えは俺の予想とは外れるものだった。


「んー、特に理由は無いよ」


「へ?」

 嘘、理由ないの? 女神はまるでこちらがおかしいかのような顔をしてる。俺がおかしいのか? 選ばれたってことは特別な理由とかあると思うんだけど。


「いやほら、実は俺が勇者の系譜で、俺にしかその魔王を倒せないから選ばれたとかじゃないの?」


「そんな訳ないじゃん。それとも君、自分の事勇者とかだと思ってるの?」


「いや……別に」

 でも、そう思ってた時期もありました。中学生の時です。


「そうだね。強いて言うなら近くにいたからかな。どうせ能力あげれば皆強くなるし」

 なんだよそれ、じゃあ俺じゃなくてもいいじゃん。えーなんかやる気失せたわ。どうせってなんだよ。すげー雑に扱われてる気がする。しかも前に行った人達は帰って来ない、最悪死んでる可能性もある。それなのに異世界に行って私の願いを聞けだと? なんて女神だよ。


「ま、でも君は割と面白そうだから選んだんだよ? すぐ死なないでね、退屈だから」

 本当になんなんだ? この態度は。急に人が変わったようだぞ。女神はそのまま紅茶を1杯飲み干し、もう一言言い放つ。


「そんなに気張らなくて大丈夫だよ。君が死んだところで、また次の人間探すだけだから」

 いよいよムカついてきたぞ。こんな言葉言われて異世界に行きたいやつなんているのだろうか。先に異世界に行った人たちはなんで断らずに異世界に向かったんだ? まぁそんな事はもうどうでもいい。俺は断る事にした。


「あーやっぱりやめとく――――」

 申し訳ないが、今回はご縁が無かったとしてお断りさせてもらおうと口を開いた瞬間、女神は被せるように発言した。


「じゃあ君にあげる能力だけど、やっぱり面白い能力がいいよね」

 この女神はまだ俺が異世界に行きたいと思っているらしい。そんな気はとっくに無いというのに。しかしながら、この能力次第ではまだ考える余地はある。どんなにこの女神の性格が悪くとも、能力が強ければいいかもしれない…………いいのかな?


「んーそうだな。名前に虫が2つも入ってるから、虫になれる能力にしよっか」


「……は?」


「あ、嫌だった? そっか、じゃあ《《食べた虫の能力を使える能力》》にしとくね」

 この話は終わりだ。なんだ、このクソみたいな能力は。食べた虫の能力を使える能力だと? 本当に嫌すぎる。ちなみに、俺は虫が大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大大っ嫌いだ。ダンゴムシですら触れない、家にゴキブリが出たら家ごと燃やしてもいいと思うほど嫌いだ。それなのにこんな能力で、こんな性格の悪い女神のお願いを、死ぬかもしれない異世界で叶えろってのか? まったく笑えない冗談だ。


「なぁ、俺虫本当に嫌いなんだよ。せめて他の能力にしてくれよ」

 期待はできないが、望みをかけて頼んでみる。女神は依然と足を組み、まるで自分が一番偉いかのようなオーラをだしている。非常にだるい。そして、帰ってきた言葉に、俺は耳を疑った。




「知ってるよ」



「え?」


「だから、君が虫嫌いなこと知ってるよって」

 ……え?


「君が虫を本気で、死ぬほど嫌ってる事知ってる。だからこの能力にしたんじゃん。だって、そっちの方が面白いだろ?」

 こいつは、こいつは本当に女神か? 俺が虫嫌いな事を知っててわざとこの能力にしたのか? 性格が悪いなんてレベルじゃないぞ、こいつは悪魔だ、女神なんかじゃない。しかもなんだ? だってそっちの方が面白いだろ、だと? こいつは……本当になんなんだ?


「……ふざけんなよ」


「んん〜?」


「ふざけんなって言ったんだ」


「ふざけて無いけど」

 これでふざけてないだと、なら、なおさらタチが悪い。


「俺は行かねぇぞ! こんな能力で、お前の願いなんか叶えてたまるか! 黙って聞いてりゃ調子乗りやがって、いい加減にしろ!」

 勢いよく立ち上がり、女神に言い放つ。しかし、女神の方はと言うと目も合わせず自身の凝った装飾の短剣を見つめている。こいつは人の話も聞けないのか。

 と考えていると、女神は一気に不機嫌な顔になり、口を開いた。


「うるさいなぁ、まるで虫の羽音だよ。君さ、たかが人間の癖に僕に意見するなよ。君は異世界に行きたい、僕は魔王を殺して欲しい。ウィンウィンの関係だろ? それなのに僕に意見するなんて、君は神にでもなったつもりかい?」

 いちいち腹の立つやつだ。やはりこいつは女神なんかじゃない。誰が異世界なんて行くか。


「まーでも、上手くいくとは思わないし気長に待ってるよ。あと、異世界にはもう行くことになってるから。今更変更はできないよ」

 重要なことも後から言う、腹立たしい。漫画やアニメで見る異世界転生、異世界転移はもっといい条件だったよな。女神もこんな言葉使わないだろ。しかも、変更できないってことは異世界行き決定かよ……最悪だ。こんな能力で魔王なんか倒せるのかよ。


「もし魔王を殺せたら元の世界に返してあげるよ。それだけは約束してあげる。約束破ると僕も殺されちゃうしね」

 女神がそう言い終わると同時に、そいつは指をパチンと鳴らした。すると俺の背後に裂け目が現れた。どういう原理か知らないが、きっとこの先は異世界に繋がっているんだろう。行きたくない。今すぐ帰ってベッドで寝たい。


「おい! 俺は行かねぇぞ! 今すぐ帰らせろ!」

 そう言うと女神は呆れたように言う。


「だーかーらー、もう変更できないんだよね。諦めて行ってらっしゃい」

 すると裂け目が空気を吸い込み始めた。いや、空気だけじゃない。地面や空をも吸い込み始めた。体が徐々に裂け目に誘われていく。なんとか抵抗しようともがくも、段々と吸い込まれる。


「……ヴィクトワールゥ!」

 女神に向けて吠える。なんとも情けない。吸われゆく体では何も出来ず、ただ吠えるのみ。自分でも情けないと思う。


「うるさいなぁ。もう黙りな。 聖音マルカ断識シャット

 ヴィクトワールがそれを唱え、指を振ると途端に意識が揺らぎ始めた。はっきりしていた意識が急におかしくなってきた。なんだこれは、やばい…………異世界……なん……て……………………

















「んー、ホタル君はどれくらい生きられるかなー。もって数日って所かな?」













第2話 異世界なんて行きたくない 完。

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