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第239話 骸の壁は、一歩も退かない

 第二隊、百一名が白い霧を越えた。


 先頭に立っていたのは、ヴァレスト公爵家の私兵隊長、ベルガ・ハインズ。


 指揮官だからと後方には残らない。


 砕かれた白い壁。


 焼けた小型軍用路。


 床に残された三人分の血。


 それらを一つずつ確認しながら、第一隊の生存者たちのもとへ歩いていく。


「隊長!」


 副隊長が、血に濡れた長剣を下げた。


「第一隊、報告」


「侵入時、七十二名」


「死者三名。重傷五名。軽傷十一名です」


「魔物側は」


「強化されたゴブリンを三体、確実に討ち取りました。負傷はそれ以上です」


「三体か」


 ベルガは、白布をかけられた三人の兵を見た。


 その場で片膝をつく。


「すまない」


 短く告げ、立ち上がった。


「重傷者は第二隊の治療班へ渡せ。歩ける者も回復薬を惜しむな」


「しかし、公子のための薬が――」


「公子へ届ける者が死ねば、何を持ち帰っても意味がない」


 副隊長は一度だけ目を見開き、深く頭を下げた。


「はっ!」


 余は、その様子を白い部屋から見ていた。


 赫月の晩餐とは、まるで違う。


 兵を捨て駒として扱ってはいない。


 死者の名を覚え。


 傷ついた者を後ろへ下げ。


 生きて帰ることまで、戦いの一部として考えている。


 だからといって、通すわけにはいかない。


「情があるから殺せない、とはならんぞ」


《はい》


「こいつらは芽の根まで持ち帰るつもりだ」


《はい》


 守りたい者がいるのは、向こうだけではない。


    ◇


 ベルガは、副隊長から戦闘記録を受け取った。


「壁内からゴブリンが出現」


「はい」


「天井にも弓兵」


「はい」


「声を真似る魔物が、命令を乱す」


「手信号へ切り替えてからは、被害を抑えられました」


「負傷した魔物は後退した?」


「死ぬまで戦いませんでした」


 ベルガの眉がわずかに動く。


「魔物が交代戦をするのか」


「はい」


「しかも、命令を受けて即座に」


 ベルガは、修復された白い壁へ手を触れた。


「壊した壁も戻っている」


「先ほどより、わずかに厚くなっています」


「なら、同じ攻め方は使わない」


 工兵たちへ向き直る。


城砕杭しろくだきぐいは温存。壁ではなく、敵の陣形を壊すために使う」


「了解!」


「高熱油も、小型軍用路へ無闇に流すな」


 副隊長が不思議そうに聞く。


「なぜです?」


「一度焼いた道へ、同じように魔物を入れるほど愚かな相手ではない」


 その通りだった。


「……こいつ」


 余は呟く。


「一度見ただけで、余の対策まで読んでいる」


《経験豊富な指揮官と推定》


「面倒だな」


 だが。


 こちらも、同じ戦い方を繰り返すつもりはない。


    ◇


 第二防衛線。


 冥月骸将めいげつがいしょうカゲツが、百体の骸骨騎士を率いて待っていた。


 前列。


 百骸盾騎士、二十体。


 その背後。


 百骸槍騎士、三十体。


 左右には剣騎士。


 高い足場には弓騎士。


 最後方には、青い骨杖を持つ術騎士。


 百体全ての頭蓋に、青白い光が灯っている。


 騒がない。


 武器も鳴らさない。


 ただ、カゲツの命令を待っている。


「カゲツ」


「ロード」


「初陣だ」


「承知」


「正面から受けろ」


「一歩モ退カヌ」


「死ぬな、という意味も含めているからな」


「承知」


 カゲツの大剣が、ゆっくり持ち上がる。


「百骸騎士団」


 百の青い光が、一斉に強まった。


「城ト成レ」


 盾が重なる。


 骨が噛み合う。


 鎧と鎧の間へ、別の骨が差し込まれる。


 盾騎士だけではない。


 後方の剣騎士まで、自らの肩や腕を前列へ組み込んでいく。


百骸城陣ひゃくがいじょうじん


 白い通路を塞ぐ、巨大な骨の城壁。


 隙間から三十本の長槍。


 壁の上には十体の弓騎士。


 青い魔力膜が、城壁全体を覆う。


「……すごい」


 完全退避室にいるフィルエが呟く。


「ああ」


 余も認めた。


「今までの湿骨王列とは違う」


 一体ずつが騎士。


 百体揃えば城。


 これが、冥月百骸騎士団だった。


    ◇


 ベルガたちが、第二防衛線へ到着した。


 先に白い霧を抜けた斥候が、足を止める。


「前方に敵!」


「数は」


「骨の騎士が……百!」


「百?」


 副隊長が前へ出る。


 白い霧の向こう。


 通路を完全に塞ぐ骨の城壁を見て、息を呑んだ。


「何だ、あれは……」


 ベルガは驚かなかった。


 ただ、城壁の上。


 中央に立つカゲツを見た。


「指揮個体がいる」


「先ほどのゴブリンとは別です」


「この迷宮には、軍が二つあるのか」


 ベルガの言葉を聞き。


 余は、少しだけ満足した。


「そうだ」


 声は届いていない。


「ようやく気づいたか」


 ベルガが剣を抜く。


「全隊、停止」


 百七十名近い兵が、命令一つで止まった。


「盾兵、前方二列」


 鋼の盾が並ぶ。


「槍兵、盾の隙間へ」


 長槍が前を向く。


「弓兵と魔術兵は、前列の頭上を狙える位置へ」


 弓が引かれる。


 杖が上がる。


「工兵、破骨槌はこつついを出せ」


 荷車から、大きな鉄槌が四本下ろされた。


 先端が普通の槌ではない。


 何本もの小さな突起がつき、骨を細かく砕く形になっている。


 さらに。


 白い灰の入った袋が、兵たちへ配られ始めた。


「管理音声」


《はい》


「あの灰は」


《神殿で清められた灰を含有》


《低位アンデッドの再生阻害に使用されるものと推定》


「最初から、骨との戦いも想定していたか」


《探索部隊として、多種の敵への対策を所持しているものと思われます》


 カゲツの再陣を見てから用意したのではない。


 持ってきた道具の中に、最初からあった。


「本当に準備がよいな」


 だからこそ。


 ここで使わせる。


 持っている対策を一つずつ。


 もっと奥へ進む前に。


    ◇


 ベルガが剣を振り下ろした。


「魔術兵、放て!」


 二十五人のうち、前へ出た十五人が同時に術を放つ。


爆炎槍ばくえんそう!」


雷撃矢らいげきし!」


 炎の槍。


 雷の矢。


 合わせて三十を超える攻撃が、骨の城壁へ襲いかかる。


「術騎士」


 カゲツが短く命じた。


冥壁めいへき


 十本の骨杖が、同時に床を叩く。


 青黒い半円の壁が、百骸城陣の前へ広がった。


 爆炎槍がぶつかる。


 雷撃矢が突き刺さる。


 青黒い壁が大きく揺れる。


 一発。


 五発。


 十発。


 亀裂が走る。


 二十発目で。


 冥壁が砕けた。


 残った炎と雷が、百骸城陣へ直撃する。


 轟音。


 白い骨が飛ぶ。


 盾が砕ける。


 槍が折れる。


《百骸騎士団、損傷》


《盾騎士二体、完全破壊》


《剣騎士三体、部分破壊》


「前進!」


 ベルガの号令。


 人間側の盾列が、煙の中へ突っ込んだ。


 骨の壁へ、鋼の盾が激突する。


 どん、と通路全体が震えた。


「押せ!」


 人間兵が足を踏ん張る。


 後ろから、さらに兵が盾を支える。


 二十。


 四十。


 六十人分の力が、骨の城壁へかかる。


 百骸城陣が軋む。


「カゲツ!」


 余が呼ぶ。


「問題ナシ」


 カゲツは動かない。


 百体の中心で。


 青黒い大剣を床へ突き立てる。


「冥月軍令――不動ふどう


 青黒い魔力が、百体を一本の線で繋いだ。


 前列が受けた力を。


 後方の騎士が支える。


 盾騎士が受け。


 槍騎士へ。


 剣騎士へ。


 最後尾の術騎士へ。


 百体全てが、同じ衝撃を分け合った。


 骨が軋む。


 鎧が鳴る。


 それでも。


 城壁の前端は。


 一歩も下がらなかった。


「動かない……!」


 人間兵の一人が叫ぶ。


「六十人で押しているんだぞ!」


 カゲツの兜の奥で、青い光が揺れる。


「我ガ後ロニ」


 低い声。


「帰ル場所ガアル」


 大剣を握る。


「故ニ」


 百体の骨へ、さらに力が流れる。


「一歩モ退カヌ」


    ◇


「槍兵!」


 ベルガが叫ぶ。


 人間側の盾の隙間から、長槍が一斉に突き出された。


 骨の城壁。


 盾と盾の間。


 青い光の繋がる場所を狙う。


「槍騎士」


 カゲツが命じる。


 骨の城壁から、三十本の槍が同時に伸びた。


 人間の槍。


 骸骨騎士の槍。


 狭い隙間でぶつかる。


 折れる。


 滑る。


 盾の間から、互いの肉と骨を狙う。


 人間の槍が、盾騎士の頭蓋を貫いた。


 青い光が消える。


 だが。


 その騎士は倒れない。


 頭蓋を貫かれたまま。


 盾を支え続けた。


「頭を潰しても止まらない!」


「核を探せ!」


「胸だ!」


 薬師が叫ぶ。


「胸骨の内側に、青い魔力の塊があります!」


 人間の槍が狙いを変える。


 胸。


 鎧の隙間。


 青い核。


 一体の盾騎士の胸を、三本の槍が同時に貫いた。


 青い光が弾ける。


 骨の体が崩れる。


《盾騎士一体、機能停止》


 人間兵たちが歓声を上げかけた。


骸兵再陣がいへいさいじん


 カゲツが手を向ける。


 崩れた骨が、城壁の後ろへ引かれていく。


 割れた胸骨は使わない。


 折れた腕も。


 代わりに、最初の魔術攻撃で砕けた別の騎士の骨を組み込む。


 頭蓋。


 胸。


 腕。


 脚。


 別々だった骨が、一体の騎士へ再構成される。


 青い核が、再び胸へ灯った。


 盾を拾う。


 前列へ戻る。


「……戻った」


 副隊長が呟いた。


 ベルガの目が細くなる。


「灰を使え!」


 白い袋が前へ投げ込まれた。


 盾と盾の隙間から、清められた灰が噴き出す。


 骨へ付着する。


 青い魔力が、じゅっと音を立てた。


 カゲツが再陣しようとした骨の一部が、動かない。


《警告》


《聖灰付着骨、骸兵再陣への使用不能》


「やはり効くか」


 ベルガが剣を振る。


「砕いた骨へ、全て灰を撒け!」


 余の中に、焦りが走る。


「カゲツ!」


「確認済ミ」


 カゲツは、聖灰のついた骨を無理に動かさない。


「汚染骨、切リ離セ」


 百骸騎士団が、自分たちの一部を捨て始める。


 灰のついた腕。


 折れた脚。


 再陣できない骨。


 後ろへ残さない。


 城壁の前。


 人間軍との間へ落とす。


「何を――」


 ベルガが気づいた。


「下がれ!」


 だが、遅い。


「弓騎士」


 カゲツが大剣を振り下ろす。


「火矢」


 骨の城壁の上から、青い火をまとった矢が降る。


 狙いは人間ではない。


 捨てた聖灰付きの骨。


 火矢が刺さる。


 青い炎が、灰ごと燃え上がった。


 清められた灰が、高熱で白い煙へ変わる。


「目を閉じろ!」


「吸うな!」


 人間の盾列が、白煙に包まれた。


 視界が消える。


 咳。


 怒号。


 列が、一瞬だけ乱れる。


「今だ」


 余は命じた。


    ◇


「ガルザヴェイン!」


「ウン!」


 左右の壁。


 天井。


 床近く。


 小型軍用路が、一斉に開いた。


「覇王号令――進軍!」


 覇牙軍団が飛び出した。


 正面ではない。


 白煙に包まれた人間軍の側面。


 盾兵を前に出さない。


 刃兵が先。


 狙うのは。


 弓。


 魔術兵。


 工兵。


 聖灰を持つ兵。


「ギャアアアッ!」


 覇牙刃兵三十体が、白煙の中へ飛び込む。


 人間の兵が手信号を出そうとする。


 だが、煙で見えない。


「声を使え!」


「偽声がある!」


「今は聞くしかない!」


 ベルガが叫ぶ。


「後列、円陣!」


 その声を、マネが別方向から真似た。


「後列、散開!」


「どちらだ!」


「隊長を見ろ!」


「見えない!」


 混乱した後列へ、覇牙刃兵が到達する。


 魔術兵の杖を切る。


 弓の弦を落とす。


 工兵の持つ聖灰袋を裂く。


 白い灰が、味方の兵へ降りかかった。


 そこへ覇牙術兵が、灰色の風を放つ。


 聖灰が逆流し。


 人間軍の目と喉を焼いた。


「目が!」


「水を!」


「薬師、前へ!」


 薬師が動く。


 その足元へ、グズの黒泥が薄く広がった。


 完全に沈めない。


 靴底だけを取る。


 薬師たちが転ぶ。


 持っていた薬瓶が床へ散った。


「カゲヌイ!」


 影糸が、落ちた薬瓶の影を縫う。


 人間兵が拾おうとしても、瓶が床から動かない。


「連携している!」


 副隊長が叫ぶ。


「骨とゴブリンだけじゃない! 霧、泥、影も全部だ!」


「分かっている!」


 ベルガは白煙の中で、冷静さを失わなかった。


「前列、押すのをやめろ!」


 人間盾兵が、骨の城壁から離れる。


「全隊、十歩後退!」


 後退。


 それは敗走ではない。


 白煙と挟撃から離れ。


 隊列を作り直すための退き。


 カゲツが大剣を上げる。


「追撃――」


「待て」


 余が止めた。


「追いすぎるな」


「敵、後退中」


「ベルガは、崩れていない」


 下がりながら。


 負傷者を中央へ。


 盾を外へ。


 弓と魔術兵を内側へ。


 十歩の間に。


 人間軍は、すでに新しい円陣を作り始めている。


「追えば、こちらが罠へ入る」


「承知」


 カゲツは命令を変えた。


「城陣、維持」


 百骸騎士団は、一歩も前へ出ない。


 ガルザヴェインも、覇牙軍団を深追いさせなかった。


「帰陣!」


 覇牙軍団が、壁の小道へ戻る。


 重傷者を両側から抱え。


 死者の体も置いていかない。


 白煙が晴れた時。


 二つの軍は。


 また一定の距離を挟んで向かい合っていた。


    ◇


《第二防衛線・第一交戦終了》


《侵入者側》


《死亡:二十一名》


《重傷:三十四名》


《軽傷:多数》


《迷宮側》


《覇牙軍団、死亡四体》


《重傷十二体》


《百骸騎士団、完全消失七体》


《再陣中、十八体》


《戦闘継続可能数》


《覇牙軍団:九十四体》


《百骸騎士団:九十三体》


 七体。


 骨を残さず砕かれ。


 聖灰で再陣を封じられた騎士。


 四体のゴブリン。


 合計十一体。


 もう戻らない。


 ガルザヴェインは、運ばれてきた四体の亡骸を見た。


「四体」


「ああ」


「マモレナカッタ」


「だが、九十四体を帰した」


「……」


「死んだ四体を忘れるな。だが、生きた九十四体も見ろ」


 ガルザヴェインは、傷ついた軍団を見る。


 盾を失った者。


 腕を切られた者。


 矢を受けた者。


 それでも。


 互いを支え。


 治療区画へ向かっている。


「ウン」


 ガルザヴェインが拳を胸へ当てた。


「オボエル」


 カゲツも。


 完全消失した七体が立っていた場所へ、大剣を向ける。


「我モ」


    ◇


 人間側。


 ベルガは、後退させた軍を再編していた。


「死者を後方へ」


「重傷者は、外へ戻しますか」


「戻せ」


「しかし、入口までの道が――」


「目印杭は信用するな。魔力糸を壁へ通せ」


「了解!」


 ベルガは、仲間を見捨てない。


 重傷者を、この場へ置いていかない。


 戦力が減っても。


 外へ帰す。


「隊長」


 年老いた薬師が、白煙で赤くなった目を拭った。


「時間がありません」


「分かっている」


「公子は、あと二日もつかどうか」


「分かっている!」


 初めて。


 ベルガの声が荒くなった。


 すぐに目を閉じる。


「……すまない」


「いえ」


 薬師は、骨の城壁を見る。


「あれを越えても、まだ奥があります」


「ああ」


「このまま兵を削られ続ければ」


「果実へ届く前に、全員死ぬ」


 ベルガは認めた。


 だから。


 次は、同じ戦い方をしない。


「外へ伝えろ」


「何と」


「残る九十名、全員を入れる」


 副官が息を呑む。


「予備隊まで?」


「ここからは、後退路を作りながらでは進めない」


「なら」


「全軍で、この骸の壁を壊す」


 ベルガは、荷車へ積まれていた最後の大型器具を見た。


 白い布で覆われている。


 布が外される。


 現れたのは。


 長い砲身を持つ、白金色の魔導砲だった。


 砲身には、神殿文字。


 内部には、清められた火を撃ち出すための術式が何重にも刻まれている。


白陽砲はくようほうを組み立てろ」


 兵たちの顔色が変わる。


「ここで使うのですか」


「骨を一片も残さず焼く」


 ベルガの目は、カゲツを見ていた。


「再び立てないように」


    ◇


《外縁待機九十名、侵入開始》


《迷宮内侵入累計、二百六十三名》


 ついに。


 全員が入った。


 重傷者は外へ戻り始めている。


 だが。


 まだ二百を超える兵が、迷宮内に残っている。


 そして。


 骨を再び立たせないための白陽砲。


「カゲツ」


「ロード」


「次は、今までより大きいものが来る」


「確認済ミ」


「城陣を解くか」


「否」


 カゲツは、砕かれた騎士たちの骨を拾い上げた。


 使えるもの。


 使えないもの。


 一つずつ分ける。


「我ガ軍ハ」


 青黒い月が、背後に浮かぶ。


「此処デ敵ヲ止メルタメニ在ル」


「白陽砲とやらを受ければ、完全に消える可能性がある」


「承知」


「怖くないのか」


 兜の奥の青い光が、わずかに揺れた。


「恐怖ハ在ル」


 初めて。


 カゲツが、そう言った。


「再ビ、帰レヌコトガ」


 かつて。


 帰路を失った落武者だった。


 軍の残響。


 帰れなかった者。


「ダガ」


 大剣を床へ立てる。


「今ハ、帰ル場所ヲ知ッテイル」


 後ろには。


 霧灰白庭迷宮がある。


 ガルザヴェイン。


 フィルエ。


 マネ。


 古参の配下。


 百骸騎士団。


 守るべき芽。


「故ニ」


 カゲツは、残る九十三体へ命じた。


「骸ノ壁ハ」


 盾が重なる。


 槍が揃う。


 青い目が灯る。


「一歩モ退カヌ」


 白い霧の向こう。


 白陽砲の砲身へ、清められた光が集まり始めた。


 次の一撃は。


 骨を砕くためではない。


 カゲツと百骸騎士団を。


 跡形もなく消すために放たれる。

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