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第237話 二人の将は、二百二十の軍を動かす

 魔物を買えば、軍になる。


 余は、ほんの少しだけそう思っていた。


 百二十体の覇牙強兵はがきょうへいゴブリン。


 百体のスケルトンナイト。


 軍団として強化され、最初から盾、槍、剣、弓、術の役割まで分けられている。


 ならば、並べて命じれば戦える。


 そう考えていた。


 甘かった。


「盾兵! 前!」


 ガルザヴェインの声が、覇王練兵窟はおうれんぺいくつへ響く。


 二十体の覇牙盾兵が、一斉に走り出した。


「ギャアッ!」


 黒い盾を構え、横一列に並ぶ。


 そこまではよかった。


「槍兵、後ロ!」


「ギャッ!」


 三十体の槍兵が盾兵の背後へ入ろうとする。


 だが、覇王練兵窟から出る通路は、軍隊が横一列のまま通れるほど広くない。


 盾兵が詰まる。


 槍兵が後ろからぶつかる。


 さらに、その後ろから刃兵三十体が来た。


「ギャッ!?」


「ギギャッ!」


「ギャアアッ!」


 百二十体のゴブリンが、通路の入口で固まった。


「……」


 ガルザヴェインが黙る。


 百二十体も黙る。


 白い部屋で、余も黙った。


 ルオだけが笑った。


「詰まったな」


「見れば分かる!」


「軍、出られないじゃん」


「分かっていると言っている!」


 戦う以前の問題だった。


    ◇


 黒冠軍や赫月の晩餐かくげつのばんさんとの戦いで分かったことがある。


 強い配下がいるだけでは足りない。


 数も必要だ。


 だから、百二十体のゴブリン軍団と、百体の骸骨騎士団を手に入れた。


 だが、数を増やせば。


 今度は、その数を動かす場所が必要になる。


「管理音声」


《はい》


「主要軍用通路の幅を拡張しろ」


《対象範囲を指定してください》


「覇王練兵窟から中層まで。百二十体が、六列に分かれて動ける幅だ」


《必要ソウルを算出します》


「待て」


 フィルエが、エリラの芽の前から口を挟んだ。


「全部広くするの?」


「そのつもりだ」


「広くしたら、侵入者も動きやすくなる」


「……」


 正しい。


 軍が動きやすい道は、敵にも動きやすい。


「ではどうする」


「ゴブリンだけが通れる道を、横に作る」


「横?」


「大きな人が通る道の横に、小さい道をたくさん」


 壁の中。


 床下。


 天井近く。


 ゴブリンの体なら通れる細い軍用路。


 大型の侵入者には入れない。


 それなら、敵の動きやすさを変えずに、覇牙軍団だけを動かせる。


「採用だ」


《小型軍用路を登録します》


「盾兵用は少し広くしろ。弓兵は天井側。刃兵は壁内。槍兵は通常通路の後ろから出す」


《承知しました》


 白い壁の内部が動き始める。


 細い道が、迷宮の各所へ伸びていく。


 覇牙軍団の百二十体が、それを興味深そうに見上げていた。


「買っただけでは、軍にならんのだな」


《はい》


「先に言え」


《質問されませんでした》


「腹立たしい!」


    ◇


 新しい道が完成するまで。


 ガルザヴェインは、軍団を六つに分けて訓練することにした。


 盾兵二十体。


 槍兵三十体。


 刃兵三十体。


 弓兵二十体。


 術兵十体。


 小隊長十体。


 ただし。


 覇牙強兵は強化済みでも、この迷宮のことを知らない。


 どこで霧が濃くなるか。


 どの白い床が動くか。


 グズの泥が、どの隙間から流れてくるか。


 カゲヌイの影糸が、どこを通るか。


 それを知っているのは、以前からいる配下たちだった。


「霧喰い刃ゴブリン」


 余が呼ぶ。


 小さなゴブリンたちが、少し緊張しながら出てきた。


 覇牙刃兵は、彼らより体が大きい。


 武器も良い。


 基礎の力も上だ。


 だが。


 霧喰い刃ゴブリンたちは、この迷宮で何度も戦ってきた。


「お前たちは、覇牙刃兵へ霧の歩き方を教えろ」


「ギ?」


「お前たちが教える側だ」


 小さな目が、大きく開く。


 覇牙刃兵三十体も、霧喰い刃ゴブリンたちへ向き直った。


 先頭にいた刃兵が片膝をつく。


 目線を、古参の小さなゴブリンと同じ高さまで下げた。


「ギャッ」


「……ギ」


 霧喰い刃ゴブリンは、少し迷ってから。


 短い刃で、白い床に線を引いた。


「ギギッ」


 霧の中で真っすぐ進むな。


 影を見ろ。


 壁の白い継ぎ目を目印にしろ。


 言葉は少ない。


 だが、覇牙刃兵たちは真剣に聞いていた。


「前からいたゴブリンたちは、いらなくならない」


 フィルエが言う。


「ああ」


 力が弱くても。


 知っているものがある。


 経験がある。


 新しく来た強い者へ、教えられるものがある。


「マネ」


「ロード」


「各隊へ、命令を届ける役を頼む」


 マネの体が、わずかに震えた。


 黒冠軍に、余の声を奪われた記憶。


 それでも。


「ヤル」


「無理なら言え」


「ヤル」


 今度は、はっきり答えた。


 マネはガルザヴェインの声を真似る。


「盾、前!」


 覇牙盾兵が動く。


「槍、待つ!」


 槍兵は走らない。


「刃、左右!」


 壁内の小道へ、刃兵が分かれる。


 偽の命令ではない。


 ガルザヴェインの本当の指示を、軍全体へ広げる声。


 マネは。


 奪われた声を。


 今度は、軍を動かすために使い始めた。


    ◇


 冥月百骸騎士団めいげつひゃくがいきしだんの訓練は、覇牙軍団とはまったく違った。


 騒がない。


 詰まらない。


 ぶつからない。


 冥月骸将めいげつがいしょうカゲツが、大剣をわずかに動かす。


冥月軍令めいげつぐんれい


 声は小さい。


 それでも、百体の頭蓋の奥で青い光が同時に灯った。


 盾騎士二十体が前へ。


 槍騎士三十体が、その隙間へ槍を通す。


 剣騎士三十体が左右へ。


 弓騎士十体が後方の高台へ上がる。


 術騎士十体が、骨杖を床へついた。


 数秒。


 それだけで、一つの大きな陣が完成した。


「……覇牙軍団より、まともに見えるな」


 余が言う。


 ガルザヴェインが、カゲツを見る。


「オレノ、グンモ、デキル」


「できるようにしろ」


「ウン」


 カゲツが大剣を横へ向ける。


百骸城陣ひゃくがいじょうじん


 盾騎士が盾を重ねる。


 その後ろから、骨の騎士たちが互いの鎧と骨を組み合わせ始めた。


 盾。


 骨。


 槍。


 それらが、一つの白い城壁へ変わる。


 隙間から槍先が並ぶ。


 上部には弓騎士。


 術騎士の青い結界が、壁全体を覆った。


「強いな」


 ルオが言った。


「だが、動きが遅い」


 余は答える。


 百骸城陣は固い。


 正面から突破するのは難しい。


 だが、陣を作った後は速く動けない。


 敵が別の道へ移れば、組み直す必要がある。


「覇牙軍団が敵を動かす」


 フィルエが言った。


「百骸騎士団が、行く先を塞ぐ」


「その通りだ」


 ガルザヴェインが前へ。


 カゲツが後ろ。


 一方が敵を追い立て。


 もう一方が退路を閉じる。


「二つの軍を、別々に戦わせるな」


 余は二人の将へ言った。


「ガルザヴェイン」


「ウン」


「お前は敵を押す」


「オス」


「カゲツ」


「承知」


「お前は、押された敵の帰る道を塞げ」


「封ジル」


「ただし、互いの軍を巻き込むな」


「ウン」


「承知」


 ガルザヴェインとカゲツが、互いを見た。


 金色の目。


 兜の奥の青い光。


「競争ではないぞ」


「シナイ」


「競争ニ非ズ」


「なぜ二人とも、少し残念そうなのだ!」


    ◇


 合同訓練を始めた。


 敵役は、白骨書記が作った六十体の模擬侵入者人形。


 これまで迷宮へ来た者たちの動きを、記録から再現している。


 盾。


 槍。


 弓。


 術師。


 さらに、赫月の晩餐の戦闘記録を基にした高位人形が五体。


 本物ほど強くはない。


 それでも、訓練相手としては十分だった。


「開始」


 マネが余の声を広げる。


「開始!」


 模擬侵入者六十体が動く。


 盾を前へ。


 術師が後ろ。


 左右へ斥候役。


 中央には、高位人形五体。


 ガルザヴェインが片手を上げる。


「盾、前!」


 覇牙盾兵が小型軍用路から飛び出す。


 二十体が、侵入者の正面を塞いだ。


 盾と盾がぶつかる。


「槍!」


 後方から三十本の槍が伸びる。


 敵人形の盾の隙間を狙う。


 だが、模擬術師が火を放った。


「術兵!」


 覇牙術兵十体が、灰色の壁を作る。


 炎を完全には止めない。


 熱を左右へ流し、盾兵が耐えられる程度まで弱める。


「刃、横!」


 霧喰い刃ゴブリンに教えられた刃兵が、壁の小道から左右へ出る。


 正面へは行かない。


 敵の術師。


 弓使い。


 後方へ回る。


 模擬侵入者の隊列が乱れた。


「押セ!」


「覇王号令――進軍!」


 ガルザヴェインの重い声。


 覇牙軍団が、一斉に前へ出る。


 模擬侵入者たちは、押される。


 後ろへ。


 一歩。


 五歩。


 十歩。


 その先に。


 百骸騎士団が待っていた。


「冥月軍令」


 青い光が灯る。


「閉ジヨ」


 白い城壁が、敵の退路へ立ち上がった。


 模擬侵入者は挟まれる。


 前には覇牙軍団。


 後ろには百骸騎士団。


 左右は白い壁。


 逃げ道はない。


「弓」


 カゲツの短い命令。


 骨の矢が上から降る。


「槍」


 盾壁の隙間から、三十本の骨槍。


 覇牙盾兵が一斉にしゃがむ。


 その頭上を、覇牙弓兵の矢が飛ぶ。


 骨の矢。


 ゴブリンの矢。


 前後から同時に降り注ぐ。


 六十体の模擬侵入者が、次々に動きを止めた。


 最後に残った高位人形五体へ。


 ガルザヴェインとカゲツが同時に動く。


「覇王拳――破軍!」


冥月斬めいげつざん!」


 黒い拳圧。


 青黒い月の斬撃。


 二つが左右から入り。


 高位人形五体をまとめて砕いた。


《合同訓練終了》


《仮想侵入者六十体、全滅》


《覇牙軍団、死亡想定四体》


《百骸騎士団、破壊想定七体》


「死者が出た」


 ガルザヴェインが言う。


「あくまで想定だ」


「デモ、シンダ、ソウテイ」


「次は減らせ」


「ウン」


 カゲツが、砕けたスケルトン人形の骨へ手を向ける。


骸兵再陣がいへいさいじん


 青い魔力が流れる。


 ばらばらになっていた骨が浮く。


 折れた部分を別の骨で補い。


 再び一体の騎士人形へ組み上がる。


「本物の百骸騎士団も、同じように戻せるのか」


「骨ガ残レバ」


 カゲツが答える。


「完全ニ消エナケレバ、再陣可能」


「何度でも?」


「魔力ノ限リ」


 長期戦向き。


 まさに、今の余の迷宮に必要な力だった。


    ◇


 最後に。


 万蝕酸界ばんしょくさんかいの確認を行った。


 蝕界しょっかいのウルグは、部屋の床一面へ薄く広がっている。


 見た目だけなら、透明な水膜。


 だが、触れれば。


 ウルグより魔力量が少ない存在は、溶ける。


「試験用人形を入れる」


 最初は、厚い鉄で作った重装兵人形。


 魔力はない。


 物理的な硬さだけなら、Aランク冒険者の鎧に近い。


 白晶の足場を一つだけ出し。


 人形を、その中央へ置く。


「足場を消す」


 白晶が沈む。


 鉄の足が、ウルグへ触れた。


 じゅううううううっ。


 一瞬だった。


 足が消える。


 膝。


 腰。


 胸。


 鉄も。


 内部の白骨も。


 何の抵抗もなく透明な酸の中へ沈み、なくなった。


「速いな」


 ルオが言う。


「怖いことを平然と言うな」


 次に、物理攻撃試験。


 壁の穴から、巨大な鉄槌を落とす。


 鉄槌がウルグの体へ直撃した。


 ぷしゃっ。


 透明な酸が、無数の滴となって飛び散る。


 鉄槌は止まらない。


 ウルグを殴った感触すらなく、床まで落ちる。


 そして。


 飛び散った酸の滴が、鉄槌を四方から溶かした。


「物理無効」


《はい》


「殴るほど、飛び散る」


《はい》


「最悪だな」


《防衛個体としては有効です》


「知っている!」


 飛び散ったウルグの体は、床の上を流れ。


 また一つへ戻っていく。


 傷一つない。


 次は魔法。


 覇牙術兵が、区画の外から灰色の魔力弾を放つ。


 一発。


 ウルグの表面がへこむ。


 少量の酸が蒸発した。


 だが。


 すぐに元へ戻る。


《魔法攻撃による損傷を確認》


《ただし、威力不足》


「有効だが、弱い魔法では倒せない」


《はい》


 ルオが、自分の指先へ白銀の光を集める。


「オレもやる?」


「弱く撃てるのか」


「できる」


「本当だな」


「たぶん」


「やめろ!」


 万蝕酸界で龍神の力を試す勇気はなかった。


 芽の一つ前の区画なのだ。


 ウルグが消し飛ぶだけならまだしも、部屋ごと吹き飛ばされたら困る。


「ルオは触るだけでいい」


「また?」


「ウルグが、お前へどう反応するか確認する」


 ロード認証の白晶足場を出す。


 ルオが、その上を歩いて中央へ。


 手を伸ばし、ウルグへ触れる。


 煙は出ない。


 溶けない。


 透明な酸が、ルオの指へ寄ってくる。


 少しずつ盛り上がり。


 拳ほどのスライムの形になった。


「うるぐ」


 小さな声のような泡が鳴る。


「覚えてるみたいだぞ」


「懐かせるな」


「何で?」


「勝手に外へついていったらどうする!」


「ウルグ、ここから出るなよ」


「うるぐ」


 透明な体が、ぷるんと揺れた。


 本当に理解しているのか。


 非常に不安だ。


    ◇


 万蝕酸界の通過規則を決めた。



一、ロードの許可なしに入らない。


二、白晶足場以外へ触れない。


三、物を落とさない。


四、ウルグへ物理攻撃しない。


五、ルオはウルグを持ち上げない。


六、ガルザヴェインは指で触らない。


七、果物を与えない。



「五番、オレだけ名指しじゃん」


「必要だからだ」


「六番もガルザヴェイン名指し」


「必要だからだ」


 ガルザヴェインが、溶けた指はすでに治っているのに手を後ろへ隠した。


「サワラナイ」


「当たり前だ」


「七番は?」


 ルオが聞く。


「お前向けだ」


「結局オレじゃん!」


 ウルグが、酸の床全体を波打たせた。


 また笑っているように見える。


    ◇


 二つの軍。


 二人の将。


 一体の酸の災害。


 それらを、迷宮の各層へ配置する。


 浅層から中層。


 覇牙軍団。


 小さな道を使い、敵を分断し、霧と泥と影を利用して削る。


 中層から深部手前。


 冥月百骸騎士団。


 広い通路を城壁で塞ぎ、退路を断ち、長期戦へ持ち込む。


 そこを越えた者は。


 万蝕酸界。


 物理攻撃の通じないウルグを突破しなければならない。


 さらに、その奥。


 五重の防衛路と命の苗床。


 エリラの芽。


「これなら」


 余は、迷宮図を見た。


「次に連戦になっても、前よりは耐えられる」


 ガルザヴェインを休ませられる。


 グズたちを下げられる。


 古参ゴブリンたちだけへ負担を集中させずに済む。


 百骸騎士団は、骨が残る限り再び立てる。


 ウルグは、物理型の敵をほぼ一体で止められる。


「軍は、完成か?」


 ルオが聞く。


「まだだ」


「何が足りない?」


「実戦だ」


 訓練で動けても。


 本物の侵入者は、訓練人形のようには動かない。


 恐怖。


 欲。


 予想外の力。


 新しい技。


 それらへ、二つの軍がどう対応するか。


 まだ分からない。


「でも、前よりずっと強い」


 フィルエが言った。


「ああ」


「皆を下げても、次の皆がいる」


「ああ」


「今度は、誰か一人だけに無理させなくていい」


 ガルザヴェインが、その言葉を聞いて少しだけ目を伏せた。


「オレ、ヒトリ、チガウ」


「ああ」


「カゲツ、イル」


「我、在リ」


「グン、イル」


 覇牙軍団が武器を鳴らす。


 百骸騎士団の青い目が灯る。


「ウルグモ」


 万蝕酸界の床が、ぷるんと揺れた。


「いるな」


 とても危険な形で。


    ◇


 その日の夜。


 新しい軍の配置を終えた直後。


 白い部屋に警告が響いた。


《外縁に多数反応》


 余は、すぐに壁面を切り替えた。


「人数は」


《計測中》


「冒険者か」


《隊列を形成しています》


「数を言え」


《二百六十三名》


 白い部屋が静まり返った。


「二百六十三?」


《はい》


「赫月の晩餐のような少数ではないな」


《はい》


「軍か」


《武装、装備、移動間隔から、組織的集団と推定》


 森の外。


 灯りがいくつも並んでいる。


 盾。


 槍。


 馬車。


 大型の箱。


 魔術を撃ち出すための器具らしき物まで運んでいる。


 旗はない。


 紋章も布で隠されている。


 だが、冒険者の寄せ集めではない。


 兵だ。


 さらに。


 先頭近くから、会話が拾えた。


「本当に、この白い迷宮で間違いないのか」


「密偵の報告では」


「赤金の奇跡果は?」


「奥にある可能性が高い」


「必ず持ち帰れ」


「公子の命がかかっている」


 余は、壁面の集団を見た。


 遊びではない。


 金だけでもない。


 誰かの命を救うため。


 二百六十三人が来た。


 天蓋の猟犬が、眠る仲間のために限界を越えたように。


 今度は。


 一人を救うための軍が、迷宮へ来た。


「ロード」


 ガルザヴェインが呼ぶ。


「聞こえている」


「グン、キタ」


「ああ」


 カゲツが大剣を取る。


「百骸騎士団、出陣可能」


 覇牙軍団も、一斉に武器を構えた。


 万蝕酸界では。


 ウルグが、透明な床全体をゆっくり波打たせる。


 余は、新しく得た二百二十一の牙を見た。


「ちょうどよい、とは言わん」


 救いたい者がいる。


 それは分かる。


 天蓋の猟犬を見たからだ。


 だが。


 こちらにも。


 守りたい者がいる。


「全軍、配置につけ」


 マネが余の声を、白い迷宮全体へ広げた。


「全軍、配置につけ!」


 百二十のゴブリンが走る。


 百の骸骨騎士が立つ。


 二人の将が、それぞれの軍の前へ出る。


 新しい迷宮軍の。


 最初の実戦が始まろうとしていた。

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